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『待ってた…
この時を、待っていたんだよ…!!』
白々と、夜が明け往く。
城の三階、王子の寝所に張られていた結界が解かれ、扉が開く。
同時に、焼却炉の焔がより激しさを増し
牢獄に居る者たちを誘うように、観音扉が開かれる。
焔は酸素を取り込んで、扉から外側へと流れ込んでいく。
けれどその時、リエヴルのイドが牢獄の鍵を破壊し、
外の森へ続く進路を開いたのだ。
処理場から城の中庭へ抜ける森の一本道を走れば、
城へ帰ることが出来るだろう。
― 第二王子からの伝達・イドより ―
おはよう、私の愛しき吸血種たち。
仲間の血肉を屠り、欺き、一時的にとはいえ命を奪う。
それは果たしてどのような心地なのだろうね……?
さあ、おいで。勝者には「願いの叶う心臓」をあげるよ。
王子の姿は開かれた扉の奥の寝所にあった。
寝台の上、真っ直ぐに横になり眠る王子は、呪術で眠りについている。
王子の身体からは同胞の匂いは確認出来ず、人間であると窺えるか。
王子へと近づけば、左右に待機するドールが
『王子の心臓を抉り出し、勝者の血を垂らしてください』
『さすれば、貴方の願いは一つだけ叶うでしょう』
そう、告げるだろう。
呪術はこの狂った遊戯全体に掛けられている。
願いを受け入れるのは、勝者の血のみ。
― 呪術の真の完成はすぐそこまで ―
やがて血を垂らされ更なる朱を交えた心臓はどくり、どくりと脈動を開始する。
ドールはその心臓を奪い、王子の抉られた胸元の上へと捧げ持った。
赤い、血のように赤い球体が、勝者の下へと届き、
願いは何かと、問うはずで。
願いを聞き届けた球体は霧散し、その願いはきっと、叶うだろう。
――どくり。力強く脈打ち、
――どくり。その分だけ、膨張を繰り返し
やがて王子の心臓は、破裂した。
そこから飛び散ったのは血と臓器の破片ではなく、黒い砂。
幼き頃王子が出逢い、連れ去られ…暁月夜に砂と化した吸血種の成れの果てだった。
王子の左胸、抉られたその場所に黒い砂が落ちていく。
王子の悲願であったもの、それはあの時の吸血種の復活だった。
Es達はその為に集められ、同胞同士の血を血で洗う戦に勝利したもの、
その血を媒体に、過去に縁を持った吸血種の復活の儀式を行った。
『これで、彼と――…』
『ヒ ト ツ ニ ナ レ ル』
砂と血と蒸気に包まれた王子の姿は、やがて半身を起こした。
金糸の眩い王子の髪は黒に染まり、コバルトブルーの眸は翡翠色へと変化を兆す。
けれど、半身は取り戻せなかったのか、筋肉が剥き出しの赤黒い貌のままだった。
「――Asterios…」
半身をどろりと血に浸した黒い吸血種は、未だ完全覚醒しておらず。
死に別れた恋人の名を、虚空へ向けて呼んでいた。
やがて、男の半身は再び寝台へと崩れ落ち、王の間は静謐に包まれる。
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