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─ 地中海 ─
[ 波打ち際に、僕らは尻もちをついた。
巨大な飛沫があがって、バラバラと砂浜を打つ。 ]
……ファルケン!
なにやってるんだよ!
『 今のは兄貴のせいでしょ!
ちゃんと合わせなさいよ! 』
[ ヘルメット越しに頭を抱えたくなったが、そんな場合じゃない。
ファルケンが翼を吹かして、ツヴァイフリューゲルの姿勢を立て直すのに、
僕は合わせる。 ]
[ 2人で役割分担をして1機を動かせば、
1人でやるより難しい作業も出来る。
それぞれの得意分野も活かせる。
気づくことも増えるし、思いつくことも増える。
……しかし、その利点は、2人の意思が一致しなくなった時に、最悪の欠点に変わる。。
新型機のパイロット選定に際し、相性が合う2人である事が重要視されたのもそこにある。
上半身と下半身が別々の動きをしようとしたら、
攻撃なんて出来るはずがない。 ]
……どうしちゃったんだよ。
[ ファルケンの考えが読めない。
こんなことは初めてだ。
積極的なシュテラと、消極的な僕、
意見が対立することはあっても、どういう形で対立するかは、お互いいつでも分っていた。
……でも、今は違う。 ]
5秒後に右の大天使から対応!
踏み込んで斬攻撃!
[ いや。
それもそうかもしれない。
ファルケンはシュテラじゃない。 ]
― メンタルコンディション急速悪化 ―
― メモリに介入。限定削除を行う ―
― 少佐?! 人格に影響を与える可能性が…… ―
― 12年だ……もう十分だ。ユーヌスやれ―
― ……りょーかい ―
― タリム盆地 タクラマカン砂漠上空 ―
[朝焼けに染まるポベーダ山。
西空へ落ちてゆく星々。
フィルタリングされたブースターの轟音は耳に届かず
荒涼とした無音の世界が眼下に広がる。]
I have control.
[情報の共有は睡眠時に完了しており
機体制御権を受け取れば、何時もと何も変わらず操縦を続ける。]
―――?
[それを警告音が静寂を破り
上空へ視点をオートフォーカスさせる。
超高高度を行く流星――。
蒼い尾を引くそれに画像補正が瞬時に入り
所属を示すコードが表示される。]
AIU
An-Najm 09AIUAn-Najm 09
AEDR
Ash-Shams 01
[アラブ・エジプト民主共和国所属と補正される
自機に酷似したフォルムに長大なブースターを装備する機体。]
-沈み行く星にかけて誓う-
ABHI Slot1 Ali DisConnected.
ABHI Slot2 Sinan DisConnected.
ABHI Slot17 Yunus DisConnected.
[朗々とした男声に
ABHI各スロットとの接続が強制的に解除されて行く。]
――貴様。
何故、それに乗っている。
[異状振動と共に追従性が落ちた機体を制御しながら
回線を開き、怒りの滲む声をかつての戦友へ向けた]
『答えが必要なんですかね曹長?』
[何時もと変わらぬ調子で返される言葉。
ロックオンアラートが脳内に鳴り響く**]
─ 地中海 ─
[ 僕はラプターで地に伏せて、海を見ている。
ファルケンは200m先で山に頭を向けている。
……こんな風光明媚な保養地で、僕らは何をしてるんだろう? ]
……報告終わったよ。
ザルツブルグの方>>+33も終了したみたい。
『 そう。 』
[ 今回の天使出現予測地が送られて来た時、
僕らはイタリアのヴァチカンを目指して飛んでいた。
一番近いのが僕らで、僕は対応を自薦し、ギア部隊の出動を断った。
その数ならば単体撃破が可能だと思ったし、
同時に別の場所でも出現予測が出ていたからだ。 ]
……。
[ ラプター内で、僕は考える。
たとえば、ファルケンを全削除したら、どうなるだろうか? ]
……何を考えてるんだ、僕は。
[ そんなことは無理だ。
感情とかそういうのは別として。
脳接続型ロボと違って、ラプターやファルケンはかなりのアナログだが、
(スイッチやレバーやペダルがやたらと多いのはそのせいだ)
それでもAIなしで動かせるほど単純な機械ではない。
ラプターにだって、喋らないがちゃんとAIが入っているのだ。
……ファルケンAIがいなければ、ファルケンは動かない。連動しているラプターにも問題があるだろう。
ましてや、ツヴァイフリューゲルはただ立つことも無理だろう。 ]
……おさらいするよ、ファルケン。
キリスト教やユダヤ教が出現する以前、
拝火教の時代から天使は文献に登場して居た。
だから、侵略者が現れてからこっち、鎖国したままのヴァチカン市国が「天使」に関係しているという推測は
間違っているかもしれない。
ただ、
「天使」の出現が欧州に限られていることには、
何か理由があるんじゃないかと思う。
関係してないなら、ないでもいい。
その可能性が消えれば、次にいけるんだ。
――ッ。
[降り注ぐミサイル。3基を低出力ビームガンで撃ち落とす間に敵機は追加ブースターをパージ。後方へ流れ行くブースターは空中で分解しながら地表に流れ落ちてゆく。
パワーダイブを行う敵機が視界に入り意図が読めずに眉間が寄る。
射撃機の戦いで高度差を捨てようとするのは余りに無思慮すぎる。
何かしらの意図があるのか――。]
─ ヴァチカン市国 ─
[ ラプターで近くまで行ったが、かつては外国人でもパスポートなしで自由に出入りできたサン・ピエトロ広場にさえ、立ち入り出来なかった。
城壁は高く固く、解放されているはずの入口には、非武装の祝福聖装ロボが隙間なく並んでいる。 ]
……無計画じゃだめか。
[ 僕は途方に暮れる。
それはそうだろう。勢いでここまで来たものの、当ても何もない。
世界中から救いを求める人が集まっても門戸を開かなかったヴァチカンが、
今更僕の為に開いてくれるわけもなかった。 ]
[ なにかとっかかりがないかと、ラプターを路上駐ロボして、ヘルメットを脱いで、パイロットスーツのままでうろうろする。
……城壁の周りは、災禍を逃れてきただろう人でいっぱいだった。
皆、一様に疲れた顔をして、希望のない目をしている。
たとえば……。
僕らの利用価値が認められ、
ビルトシリーズが量産体制に入れば、彼らを救う事が出来るだろうか?
ジンロボを越える、時代の先を行く合体ロボ。
それが世界基準になれば……。 ]
[敵機はミサイルで回避機動を限定しながら偏差射撃での撃墜を意図するように見えたが基本的な攻撃で落とされてしまう程女は素人では無い。大出力ブースターの強引な機動で敵の回避機動予測を覆しつつ、ビームガンを打ち返しゆく。
双方ともに射撃が命中する気配は無く空を滑り舞うような機動の合間に、二人を繋ぐように光が走ってゆく。]
[ 僕は首を振る。
ビルドシリーズは確かに、
パイロットとして未熟な者にでもある程度扱え、
成熟した者にはより高度に扱えるという事を目指して作られた機体だ。
……しかし、パイロット2人の意思がひとつにならなければ、
粗大ごみになってしまう脆さも合わせもっている。
きっとまだ、量産には時間がかかる……。 ]
[ そんな僕に、ひとりの老人が話しかけてきた。
腰が曲がって、髪も髭もまっ白なしわくしゃのおじいちゃんだ。 ]
『 貴方が出てきたロボは、随分痛んでいるようですが、
どうしたのですか? 』
こんにちは。
……先ほど地中海で「天使」と戦ってきました。
でも、うまく戦えなくて、かなり苦戦しました。
[ ファルケンは隣町に置いてある。
この近辺は、避難してきた外国人たちで宿が取れないと聞いたので、
宿は隣町に取った。 ]
[ グローセンハンク国を出る時に、
燃料補給と整備はすませてきたけれど、やはり本社に居る時同様とはいかなかった。
ビルトシリーズはまだ出回っていない機体なのだ。
損傷は出来るだけしないように戦いたかったけれど。 ]
『 あれは「天使」ではありません。 』
[ 老人は別な場所に引っ掛かったらしく、
そう訂正した。 ]
「天使」でなければ何なのでしょうか?
連合軍でも、大きさや危険度を、天使階級になぞらえて分類しているようですが。
――カシム。何故裏切った。
AIUの庇護がなくなれば、我々は連合の二等市民として生きざるをえなくなる。そんな事がお前の望みなのか。
『んな王族のプロパガンダをマトモに信じているんですかい?
彼らは――連合は旧世紀の二の舞いは冒しませんよ。
むしろAIU首脳部の無能さがイスラムコミュニティには害悪だ。
そして、そんな王族に迎合し、私怨を晴らすことしか頭にない貴女も――。』
『どちらにしてもAEDRとAIUではまともな戦争になりはしない。
貴様はどうしようもないクズ札に己の運命を託す程に馬鹿だとは思っていなかったがな。』
[双方の距離は1km未満となり、至近距離といっても良い距離でのハイリスクの撃ち合いになるかと思われた。
しかし、敵機の腕先が紅く煌き始める。
それが、自機にない近接武器と理解した時には既に遅く――]
『 「何」かまでは分かりません。
でも、戦い倒せるならば、「天使」ではありません。
なぜなら、人間には「天使」を倒せないからです。 』
[ なるほど、明快だ。
しかし、「で?」と言いたくなるような答えである。
それが顔に出ていたのか、老人は続けた。 ]
『 かといって自然現象でもないし、何かの動物とも思えません。
それらだとおかしい事があります。
彼らは、出現が確認された頃に、欧州のいくつかの都市を壊滅させましたね。 』
[ 僕は頷く。
その戦闘史は頭に入っていた。 ]
『 その「主要都市」の選択は、けして人口の多い順ではありませんでした。
では何かと言うと……人類の「防衛拠点」、すなわち、「戦略上の主要都市」だったのです。 』
[ 僕はハッとする。
天使の出現は、他の侵略者たちの中で、後の方だったかろうか、
先の方だっただろうか……。
どちらであれ、天使がそれら「戦略上の主要都市」を焼き払わなければ、
欧州戦線も、立て直しにここまで時間はかからなかっただろう。
そして、そんな選択をするものが、自然現象であるわけがない。 ]
『 私はあれらが「人間」だと思います。 』
[ 僕は「天使」との戦いを思い出し、慎重に答える。 ]
大枠には同意します。
……正確には、人間が操っている何かか、
人間が指示を与えているオーバーテクノロジー
……と言う方が正しいかもしれませんね。
[ 侵略者たちの正体なんて深く考えて来なかった。
僕の当面の敵は流星獣で、
彼らの倒し方、攻撃の避け方、負傷の手当ての仕方を考えるのが精一杯だった。
でも確かに、侵略者たちにはおかしな点があるのだ。
ほぼ同時代に出現したこと、
いくつか被る地域はあるものの、おおまかには住み分けがなされていること、
人類側が誘導して、うまくかち合わせた場合を除き、
ほとんど彼ら同士では戦わないことなど。 ]
でも……。
もし、彼らを操っているのが人間だとしたら、
それは「誰」なんでしょう?
[ 一番怪しいのは、まさにこのヴァチカンやローマ法王だけど。
……とは、さすがに口に出せず。
しかし、これまた顔に出てしまっていたようで。 ]
『 ヴァチカンは無関係ですよ。 』
[ 言われてしまった。
僕は肩をすくめる。 ]
『 知る力はあっても、
戦う力のない、無力な存在です。 』
[ おや?と僕は思った。
老人は、信仰心から無関係だと言ったのだと思ったら、どうやらそうでもないようだ。 ]
そんなはずはない!
俺はストーンズのエース"アンデッド"だぞ!
ギアを動かすのが俺の役目だ、その俺がこいつを止めているだと?
馬鹿なことを言うな。
《そうね……貴方がそういうのならきっとシステムにエラーがあるのね。少し調べてみるわ》
[フレイヤはそういうとシステムのチェックに入ったのか黙ったままになった。
結局基地に戻って機体をメンテナンスに掛けた結果、BMIに僅かなエラーが見つかった。
しかしその原因は掴めず、その後三日間で2度の出撃の機会を俺はただハンガーの中で過ごした]
少し考えてことも出来たし、一度ラプターに戻って検索してみよう。
老人に向け、つい頭を下げてしまうのは、日本での生活が長かったせいだ。 ]
お話、どうもありがとうございました。
お名前を窺ってもいいですか?
あ、僕は……、
『 グローセンハンク社の、シュテルン・ディーツゲン君ですね? 』
どうしてそれを?
『 私は、ルートヴィヒです。 』
[ どこかで聞いたことがある気がする。
しかし、思い出す前に携帯端末が鳴り始めた。 ]
失礼。
[ 出てみると、ファルケンが大音量で叫び始めたのでとりあえず切る。 ]
相棒でした。あとでかけ直しま……、
[ 顔を上げたら、老人はもう居なかった。
僕は手品でも見せられたような気分で左右を見回した。 ]
……あ……、
ルートヴィヒって……大司祭の……?
─ 少し前、グローセンハンク ─
[フリューゲルがプリンシパルを撃破したあと"妹から"通信が入った。]
《<オリジナル>が死んじゃったよ》
[そんな声が聞こえてくる。だけど私は声を発しない。そんな必要はないからだ。
声など使わなくても私たちはデータ通信んだけで済むのだから。
必要なのは"人"に伝える時だけ。
でも"彼女"は違う、きっとはそう作られたのだろう。データにある私の親の一人、つい先ほど亡くなったと伝えられたシュテラ・ディーツゲン、彼女に似せて人の振りをするようにと。
それは私には必要のないこと。
必要なのは"彼"の為にどうあるべきかということだけ。
"彼"とこのオーディンがその力を発揮するために私はここにいる]
─ 数日後 ─
フレイヤ、またシステムのチェックか?
《ええ、そうよ》
嘘が下手だな……本当なのか?
《ええ、そうよ》
そうか……俺は……戦えなくなったのか。
[フレイヤからの返答は無かった]
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