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[元々、死に対する抵抗は普通より薄かったのだと思う。
生きている人より死体と接する機会の方が多い故に、希死観念こそなかったが、いつかは自分も死ぬのだという思いは常に付き纏っていた。
それが今この時に訪れた、ただそれだけのことだった]
―ローゼンハイム個室―
あ、ぁああっ……!
[泣いても喚いても、それだけでは状況を変えられるわけなくて。オクタヴィアと互いに縋りつきながら辛うじて立っていた。
にぶい、音。
ついさっきまで生きていたシメオンが喪われた音。
無実の証明すら他人への攻撃でなく自身の死をもってする、危うさ――死に寄り添う墓守が、だからこそ怖かったんだ。
そんなことを、シメオンを亡くしてから気づくなんて。数日前までは思いはしなかったのに。どうして、こうなったんだろう……]
[ただ呆然と、みんなの動きを見るともなく見る。
オクタヴィアが来てくれていなかったら、きっと心が折れていた。
広間の片隅で、しずかに寄り添う。
こわい。人狼はまだ野放しで、シメオンさんが死んでしまった以上、真実に一番近いのは私なんだ――]
―赤い水のなか―
[一瞬、だった。
喉を鋭い熱が一閃したかと思えば、あっという間に目の前が昏くなっていた。
私の意思とは関係なしに、ビクビクと手足が跳ねる。
息をしようとしても、ゴボゴボと血が溢れるばかりで、心臓が忙しく脈打つたびに寒かった。……命が流れていく。
私からすべてを奪って死を与えるのは、鏡のなかに過った黒い影――まさしく人狼だった]
(イェ、ンス……?)
[不思議ね。
まともに物が見えなくても、声は最後まできこえるみたい。
苦痛も恐怖も一瞬で体から切り取られていく。私は、きつく抱き締められながら、もう幾何も時が残されていないのを悟った。
せめて、と握りしめていた銀細工の薔薇の行方はわからない。イェンスに、届いたかしら。
どうして?
って、私の気持ち。花開かなかった淡い慕情]
[この10年、ずっとどうしていたの?
おかあさんが亡くなってから様子が変だったのは、関係ある?
もっと早くにもっと深く話せていたら、変わったのかな。少なくとも、こんなに悲しくてこんなに苦しいことにはならなかったのかな――。
ねぇ、笑いなさいよ。
悪役よろしく勝ち誇るのも、責務じゃないの。
そんなに子どもみたいにしてたら、私なにも言えないじゃない。殴れもしない、抱き返せもしない体では。
ねぇ、ゆるさないわよ。
この私でお腹いっぱいにならないなんて、そんなこと……]
……。
[生前と同じような恰好をしていたが、背は一回りほど小さい。
白髪に赤い目を持つ少年が、彼をじっと見つめていた*]
― 集会場/外 ―
……在り方とか、よくわからないです。
[ぽつりと呟いたのは、行商人がその場を去って、ずっと後のことだった]
ただ、庇ってくれる子がいて、その子まで疑われるのが、なんだか嫌だったから……ただ、それだけ。
[地面の赤い痕をじっと見つめる]
恨むもなにも、選んだのは、ボクですし……恨むほど、未練もないです。
[もう一言、地面に落とした後。
少年の姿の魂は、その場所から姿を消す]
― 集会場/厨房前 ―
[再び姿を現したのは厨房の扉の傍]
ひい、ふう、みい……4人……
[中にいる3人と、少し離れた場所にいる4人。
先程の悲鳴を考えれば、ここにいない1人の行方は容易に想像がついて、そっと息を漏らす。
その音も存在も、生きている者たちに知覚されることはない。
故に赤い目は揺れずにその行く末を見守る*]
[ぼんやり、ぼんやり、漂っている。
鏡のなかの出来事を見ているみたいだ。
自分のかたちがわからなくて。
嘆いたり怒ったり、企んだり……そのすべてを
自分のこととして見る方法を忘れてしまった。
助けられなかった。――誰のことだったかしら。
見つけられなかった。――人狼を? あの人の真意を?
しばらくの間、ぽわぽわと現実逃避をしていたけれど。たった4人になってしまったみんなの元からどうしてか離れられず、とうとう近づいていくことにした]
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