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無事に落ちていますよね。
墓下こんにちは。
ひとりだと広いです。
記号付きで中発言可なのは確認しましたが、独り言大会になるのも寂しいので、おとなしくログを編んでいきましょう。
― 闇の中 ―
[肉体の側を離れた魂は、引き寄せられるように真っ直ぐ落ちていった。
真っ暗で、深い深い穴の中へと引き込まれ、なすすべもなく落ちていく。それは根源的な恐怖を呼び覚ました。]
いや …… っ…
[伸ばした手が掴むのは空虚以外になく、声はどこへ届くこともなく消えていく。
先ほどまで傍にあった光も温かさもない。
ずっと途切れずにあった絆の糸もここでは感じられない。
真の孤独がのしかかる。]
[本来ならば今少し現世に漂うだろう魂が冥闇に引き込まれたのは、大いなる力が働いてのことだろう。
御船を空に送り込み、幼な子を人の間に置いた存在の意思だ。
だが落ち行く子にその理屈はわからず、他の霊魂がどのような路を辿るかも知らない魂は、ただ恐怖した。]
[暗闇を落ち行く先、やがて軽い衝撃と共に足が地につく感触がした。
周囲は相変わらずの闇。
その中にただ一点、針で突いたような小さく仄かな光を見る。
そこに行こう、と歩き出したところで、足元が崩れる心地がした。]
[踏み外しかけたと悟って足を引けば、足下の亀裂と思わしきところから熱い風が吹き上がってくる。
その風に乗って、恐ろしい唸り声や叫び声が聞こえた。
この下に落ちたら、2度と光には戻れない。
直感がそうと教える。
恐る恐る足先で探れば、自分が乗っているのは細い橋のような道であり、両側は切り立った崖になっていることが知れた。]
[この闇の中、こんなに細い道を、あの光の元までたどり着けるだろうか。
足を踏み外してしまえばもうおしまいだ。
自分の手も見えないくらいの暗闇で、歩いてなど行けない。
小さな子供は怯え竦み、膝を抱くようにしてその場に座り込んだ。]
[闇の中で、どれほどうずくまっていただろう。
どこにも行けない。動けない。
怯える心は危うい揺らぎを作り出す。
墜ちてしまえば楽になれる。
亀裂の底から吹き上げる恐ろし気な声は、
いつしか甘く優しい誘いに変わっていた。]
[この、果ての知らぬ道を歩むよりは、落ちる方が楽に思えた。
亀裂の上に身を乗りだし、奈落からの音をもっとよく聞こうとしたその時、ふと、雫落ちるような音が耳に届いた。]
───…?
[見上げた顔に、月白色の雫が降りかかる。
雫は大地にも染み、細い道を淡い光で浮かび上がらせた。
闇夜を行くものを導く、優しき月の護り。
はじめの祈りである。]
あ……
[路を示されて、身体をその上に戻す。
魂を掴み損ねた奈落の風は怒り狂って渦を巻いた。
それを吹き払い、眩く走り抜けた光がある。
悪しきを滅し、天へ真っ直ぐに駆ける光。
魂の周囲をぐるりと巡った光は、なにか囁きのような秘密の言葉のようなものを残して先へと飛び、たどり着くべき場所を明るく照らし出した。
ふたつ目の祈りである。]
[励まされた魂は意を決し、浮かび上がる道を進み始める。
吹き上がる風の中、細い道を立って歩くことなどできず、
両手を付いて這うようにして光を目指す。
果てしない道のりだった。
気の遠くなるような苦行となるだろう。
誘い攫おうとする奈落の風におびえながら進む魂を、
ふとあたたかさが包み込んだ。]
───…
[心の裡で名を呼べば、誰かの手が立つを促す。
導きのままに立ちあがれば、慈愛に満ちた声が聞こえた。]
"我らの心は、お前の魂と共にある"
[言葉と共に、空が虹色に淡く輝いた。
体は軽くなり、足は力を取り戻す。
真っ直ぐ光を見て歩む瞳から、怯えが消えていた。
みっつめの祈りであった。]
[そうして、歩みゆくうちにもうひとつ
胸の奥から力を与える温かなものがあることに気づく。
揺るぎなく力強い導きとは異なる、
揺らぎながらもただ一つの願いを灯す蝋燭のような、
小さく優しく温かな光。
生きていてくれと、誰かの声が聞こえた気がした。]*
[どれくらい歩き続けただろう。
あるいは、ほんの瞬きほどの間だったかもしれない。
あるいは、永劫に等しい時間だったかもしれない。
暗闇が続く世界で時間を数える術はなく、
時間という概念すら無意味なのかもしれなかった。
前の一瞬に続く次の一瞬を、ただ足を前に出すことに費やす。
思考が摩耗し、意識がもうろうとする中で、
祈りの光が足元を、行くべき先を照らし、心を励まし続けた。]
[永久とも思われる間繰り返される歩みのうちに、
無になった思考の中に、泡のように浮かび上がる疑問がある。
"なぜ歩くのか"
"なせ光を目指すのか"
"なぜ、苦しみの道を自ら選ぶのか"
問いは自らの内側から湧くようでもあり、
はるかな高みから降りて来るようでもあった。]
[なぜか。と。
真っ白な思考の中で、己に問いかけた。
それを求められたから、と答える声がある。
認められたいからと望む声がある。
褒めて欲しいからと幼い声がこたえる。
生きていてほしいと願われたから、と心が軋む。
この世界に下ろされた使命を果たすために、と魂が哭く]
私には、まだ為すべきことがある。
私を求める人々が、あの光の先にいる。
[救世主と呼ぶ人々の声を思い出し、
待っている、と言った優しく慈悲深い声を思い出し、
生きていてくれと願っただれかの声を思い出した時、
世界が、光に包まれた。]
[目覚めた、と感じた。
自分が生きるべき理由を改めて心に刻んだ。
それこそが、あの闇の道を抜け出す鍵だったのだろう。
気づけば意識は空に浮かんでいた。
遙かな眼下には、虹色に輝く繭が見える。]
[あれは自分。
羽化を待ち、身体を作り換えている自分。
今はまだあそこに戻る時ではない、と理解した魂は、つかの間の自由に触れて軽やかに空を飛ぶ。*]
― 繭 ―
[繭の前には、大天使をはじめとして、3色の翼が揃っていた。
彼らが自分を導いてくれたのだと知って、胸が熱くなる。
求められている。
為すべきことがある。
その認識は間違っていなかったと、改めて強く思う。]
[ふわり漂う魂は、世界を飛んだ。
いと高き御船より溢れる天使の間を抜け、
"救済"の光の中に紛れ込み、
喜ばしいこと。
天より生まれた魂は、それを嘉し、
大地で育った心が、微かに痛んだ。]
[そうして空に遊ぶうち、引き寄せる力を感じた。
糸の巻き取られるように魂が呼び戻される。
逆らわずに飛んだ魂は、繭の中に吸い込まれる。
体の準備が整ったのだと知った。
羽化を待つばかりの身体に宿り、魂もまた眠りにつく。
目覚めの前の深い眠り。
死よりも深く、魂は無に近くなる。]
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