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...っ!
[ シュテラの顔に再び浮かんだ微笑みに、男は息を詰める ]
シュテラ、貴女は......
[ 迷いに足元を掬われるな、と、そう言った銀月の奏者の声は今も耳に残る、けれど ]
ぐ...
[ 揺らぐ心の隙をつくように、内部で暴れ出すモノの気配に、眉を潜めて、刃を揮うことも、引く事も出来ぬまま、向けられた銃口を見つめた ]
[ それは危険な賭けだった。
狂った男の遺した遺産…少年の頃に植え込まれた、暗示と狂気の種。
一度は逃れたと思ったソレが、半年前…再び目覚めたのを感じ…己の意を保つ為の唯一の手段を選ばざるをえなかったのだ ]
[ 即ち、『異形種』との融合を果たし、不完全な人造の「種」を抑え込むこと ]
[ その道を選べば、元の場所に戻ることは出来ない…そうと知りながら、男は選んだ。
その結果、愛する者に狩られることになろうとも ]
[引こうとした剣の動きが阻まれ、それを掴むとほぼ同時に右手の剣が消える。
次の一手を警戒して引いた剣を「貴人」が握りこみ、その手に「わざと」傷をつけた。
初めからそれが狙いだったのかは判らないままだったけれど]
放ってなんか置けるわけねぇだろ!
これが俺の仕事だ、関わるなとか言われて聞けるかよ。
[こちらに向けられた血に濡れた掌、その意図に気付く前に
「今更」と言う声と同時、上げられた顔に浮かぶ笑顔に、ほんの一瞬気を取られた。
全ては計算か、偶然か
何れにせよ、彼の手から放たれた錘を避けるには、遅い。
「だから、貴方は甘いと言うんです」…そんな声が聞こえた気がした。
そして……]
[ 狩られる事を望んだわけでもない。それが彼女を傷付ける事は判っていたから。
何も告げずに彼女の元を去り、命の決着までも委ねる勝手は、余りにも不実だと、自覚していた。
だから、彼女が自分を追ってきたなら、全力で戦い、拒み、追い払うつもりだった ]
[ けれど、男は、結局、彼女の想いを拒みきることは出来なかった。いや、本当は心のどこかで、こうなることを望んでいたのかもしれない…だからこそ、弱点を隠さぬまま、戦いを続けたのかもしれなかった ]
……っ、く…
[重い衝撃と強い痛み。嫌な音がした。
役に立たなくなった左腕、呼んでいた風は放たれる事なく霧散する。
声を上げなかったのはせめてもの意地だった。
ぐらりと、揺らぎかけた体を何とか踏みとどまらせて、唇を噛み締めて「貴人」を見た]
やってくれるじゃねーか……!
[呻くような声を落とし、剣を構え反撃を試みる。
小細工なしに袈裟懸けに切りつける、その精度は、体のバランスを欠いているせいか僅かに低い]
シュ、テラ……
[ 身を貫いた弾丸の熱さを感じながら、いつかのように、男は微笑む… ]
貴女は、ほんとう、に…強く、なった…
[ 失われていく血と共に、異形としての姿も解けて、今は、人の姿で ]
とどめを…さしなさい…それが、貴女の…仕事、です…
[ 謝罪の言葉すらもう、紡げない。せめてどうか、最後まで、勝手な男だったと、いつかそう気付いて、忘れてくれることを、祈るだけ** ]
― 回想 ―
「戦闘ってのはな、先に冷静さを欠いた方が負けなんだ。
相手の実力とかは関係ない、落ち着いてあたりゃ何とかなるもんだ」
[養い親がそう言ったのは何時の事だったか。
ふーん、とあまり関心なさげに相槌を打って]
何、にーさんもそういう経験あんの?
[と軽い気持ちで聞き返した。
おじさん、などと言おうものなら小突かれるから、にーさんとは呼んでいた
表向きは]
「そりゃあるさ。だーいぶ前だけどな。
俺が目ぇつけてた奴を先に持っていかれちまってな。つい、勢いで突っかかっちまった」
[それは今と変わらないんじゃ、と言う突っ込みはとりあえず避けて続きを待った]
「いやぁ、いいようにあしらわれたね、あん時は。
その後も色々突付きあったけど…あれには敵わねぇと思ったな」
[言いながらもどこか楽しそうだったから、そいつにまた会いたいかと訊いたがあっさりと却下された。
「敵わないから」か、と訊いたら一言]
「いや…めんどくせぇ」
[とだけ返ってきたが、それ以上の事は語らずに]
「いいか、とにかく周りを見失うな。でもって、敵わねーと思ったら逃げとけ。
それが、上手く生き残ってくために大事なことさ」
[養い親は、そう言って笑った]
― 現在・舞踏場内 ―
[昔の話を覚えていたかはともかく、今の男は冷静さを少しばかり欠いていた。
冷静であったなら、手酷い傷を追った時点で撤退して援護を待つべきと判じたかもしれないが。
男が引かなかったのは、自分の手柄のためではなく、他に迷惑はかけられないと言う意地のような物。
その、小さな意地が判断を鈍らせ、仲間に余計な手間をかけさせる事になると気付くのは何時だろうか**]
[左腕を打ち抜いた錘が融けるのを視界の端に見て舌打ち、一つ。
つまりは次の手があると言うことで、それを成す前にと剣を向けるのにも「貴人」は笑みを浮かべたまま]
……何!?
[振り下ろした剣を、一言の言葉と共に受け、後ろに下がる……ように見えた、が。
確かに切り裂いたはずのその場所に傷はなく、と元を見遣れば剣に絡む緋色]
っ、こいつ、か!
[剣に絡む「貴人」の「血液」、それが皮膜となって相手を護ったのだと。
流れたばかりのそれでなくても操ることが可能なのだと。
それが少なからず動揺を生み、そして、隙を作った]
[剣に絡んだ緋色が動く。そこから放たれたのは二本の縄と化したモノ]
しま…っ…!
[避けられない。緋色が絡んでいた剣が近すぎた。
左腕は動かせない、振り払えない。
一つは、右手首に。もう一つは両足に、絡みついて枷となる。
それだけのはずなのに、自由を奪われたようで、睨むように「貴人」を見た]
……こっち、手首だけでいいのか?
[それでも、剣を持ったままの右手を少し動かして、問う]
[余裕、といわれて薄く笑って見せる]
こんなんで止めたつもりか、って………っ!
[「貴人」が縄を引く>>*31と右手首に走るのは予想外の痛み。
その面からは笑みは消え、告げた言葉はこちらが動いたなら間違いなく実行されるのだろう]
なるほど、完全にあんたの手の内、か。
[それでも諦めた様子は見せずに苦笑を返し、その視線が他所を見る、その先へ>>*10とこちらも視線を向け]
……あぁ、見られちまった、かぁ。
俺の事は構わなくていい、そっちに集中してくれ。
[掛けた声が聞こえたかは定かではないまま、視線を「貴人」へと戻して]
んで、俺をどうしたいわけ?
[投げる声は、それでもどこか軽く]
……何しに来たんだよ、ほんと。
[こちらの声が聞こえたか、返る言葉>>*39に自分の状況も忘れて呟いて消え行く>>*40のを見送って]
ま、ってことは、本体にも知れんだろうなぁ、これ…
ったく、情けねーの。
[頭を掻こうにも両手は動かせず、ただ顔を顰めるのみ]
[暫く影を気にしていた「貴人」がこちらに向き直り、こちらの問いに返すのは二択。
予想していた通りの選択肢に軽く天を仰いで肩を竦める。
左肩の傷が痛んで、思わず顔を顰めたが]
どーしようもない提案だな、それ。
……どっちも『お断りだ』って言ったら、あんたどうするわけ?
[言いながら睨むように眉根を寄せる。
左側の痛みを誤魔化すように息を吐き、意識を集中する
「異能」が封じられているかどうか、確認するために**]
[ 胸に食い込んだ弾丸は、ヒトの身であればそれだけで致命傷となり得るもの。けれど、異形獣の核を大量に取り込み続けた男の身体は、心臓に達しようとする傷ですら、すでに塞ぎ、癒そうとし始めている。
だから、トドメを刺すなら、今しかないのだ、と…自身も傷だらけになりながら、声を震わせて己の名を呼ぶシュテラに、伝えようとして ]
シュテラ…
[ 願う言葉>>*55を耳にして、顔を歪めた ]
それ、は…無理です。
[ 拒絶ではなく、無理だ、と、そう言葉にしたのは、自身も考えた事があったからだ。
融合体となり、核を取り出せば、狂った種を抑える力を維持したまま、ヒトの世に戻ることの出来る可能性はゼロではない。失敗したとしても…命を失うだけならば、いまここで彼女にトドメをさされるのと代わりはないだろう ]
[ けれど、それは、あまりにも危険だった ]
核を取り出せば…私は、意志を失うかも、しれない…そうなれば、あなた、を…
[ 殺してしまうかも、と、言いかけて、はっと言葉を飲み込む。
自分を殺せと、さもなければ彼女を殺すと、そう自分は告げた筈だ、それなのに、この言い草は何だ? ]
甘いのは…私、ですね。
[ 微かな笑みが、男の顔に浮かぶ。
結局、自分は、彼女の命を奪う事など、本気で考えては、いなかったのだ、と ]
……もし、核を取り出したなら、ここに留まっては、いけません…私がどうなろうと…そのまま置いて、離脱してください。
[ 失敗しても、成功しても…核を奪われて、すぐに動くことは出来ないだろう。だから、その前に離れろと、そう告げる ]
約束してくださるなら…貴女の好きにして構いません、シュテラ…
私は…貴女に、負けたのですから。
[ 戦いに負け、何より、彼女の変わらぬ命がけの愛情に、自分は負けた。ならば…彼女の命を守れる間だけは、何があろうと、自分を抑えきろうと…そう決意して* ]
[ 彼女が、彼の申し出た約束に、是を返したなら、男は、小さく息を吐いて、左腕を差し出す ]
核は...ここです。
[ 差し出された二の腕の、関節に近い部分、皮膚の奥に埋まる銀の輝きは見えただろうか?
いずれにせよ、彼が戦いの間、左の翼だけは無傷で保とうとした意味は、シュテラにも判っただろう** ]
[意識を集中しながら軽く「貴人」から目を逸らす。
その背後にある小石が音もなく転がるのを、表情を変えぬまま見届ける。
「異能」が封じられていないことを確認して、ゆっくり息を吐いた]
生憎、食われる気はねぇし、『そっち』に行く理由もねぇ…端っから行く気もねーけど。
……んな事言われて、はい、そうですか、なんて言えるか、ってんだ!
[この状況で、それでも拒否の意を向けて「異能」を発動させる。
周囲から浮き上がる小石は五つ。今までのこの男ではやらなかった、複数を同時に扱うと言う手。
今、「貴人」は拘束に力を使っている、ならば、ガードは出来ぬと踏んで、その小石を「貴人」へ……出来るなら縄の端持つ右手へと向けて飛ばす。
射抜くほどの威力はない、ただ、その手が緩むか、或い隙が作れないかとの望みを掛けて]
[「貴人」は初めの問い掛けには答えなかった。
だからこそ、異能を使う隙があったのだけれど。
それを発動する直前、何かを呟くのは聞き取れなかったが]
ちっ、やはりダメか……
[放った小石は狙い通りに飛んだけれど、狙った効果は得られぬまま、不意に拘束に加わる力に一瞬抗おうと。
しかし、両足を封じられては堪えることも出来ず、腕で体を支えることも叶わず。ろくに受け身も取れぬまま地面に転がされた]
……あんなもん、選べるわけ、ないだろ…っ
[綱を引く際、「貴人」が言った言葉に、それでも拒否を示し……
それが、見下ろす視線と出会って、止まる。冷徹な、決定者の、この場を支配する物の瞳。
「貴人」は「自分が選ぶ」と言った。
「嫌いな方を」と言った、その周りに浮かぶ、無数の銀……つまりは。
強く、一度頭を振ってもう一度睨み返す、が、困惑の色は消せたかどうか]
俺は、『そっち』には行く気はないって言ってんだろ!
[声と同時に風を起こし、銀を散らそうと。だけど
この、繭の中、銀が生まれるこの場所では、そんなものは気休めにもならないだろう]
それでこそ、貴女です、よ...シュテラ...
[ こちらの持ちかけた約束に、依頼があるからと、口にするシュテラの生真面目さに、目を細める。
銀の眷属としての本能は、彼女を...ハンターを止めろと疼くけれど、最早それに従うつもりは失せていた ]
[ そして、アーミーナイフを取り出した彼女に、生死の全てを預けるつもりで目を閉じかけた所で、投げ返された「約束」 ]
それ...は...
[ 正直、生き延びたとしても、彼女の傍に居られるとは思っていなかった。リバーサーは協会の厳しい管理下に置かれるものだったし、それ以外に、自分には危険な不確定要素もある。生涯監禁される公算の方が高いくらいだ。
しかし... ]
判りました。約束しますよ。
二度と...黙って貴女を置いては逝きません。
[ 難しいと判っている約束を、男は敢えて承諾した。恐らくは、その約束が、己の命の楔となる...そう、感じたから ]
グ...アァ...!
[ 核を抉り出される瞬間には、声を堪えきることは出来なかった。己の存在の根源、その一部となっているモノを無理矢理に引き剥がされる、苦痛と絶望的な喪失感...
それでも、何とか、意識を完全に失うには至らなかったのは、融合体となって、まだ半年であった事が、幸いしていたのか、それとも目前にシュテラの姿があったからか ]
は...
[ 短機関銃を手元に置いて、シュテラが離れて行った時には、口のきけるような状態ではなかった。表面上の傷は大きくなくとも、内部では、まさに内蔵がひっくり返るような激しい変化が起こり始めている。
戻ってくる、と告げられた言葉に、僅かに微笑みらしきものを浮かべて頷くのが精一杯で ]
は...くぅ...!
[ シュテラの姿が視界から遠ざかり、声の聞こえない場所まで離れたかと思われた頃、身を折り曲げて苦悶の声をあげる ]
来る、な
......nein!
[ 辺りを舞う銀の光が、彼の周りに引き寄せられるように集まって、激しい拒絶の意志に、再び散り離れる ]
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