情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新
[使者が辞したのち、ジークムントは一通の手紙をしたためた。最近また少し顔を見ていない人の面影を浮かべ。]
『シスター ナネッテ
お元気でいらっしゃいますか?
子どもたちも元気に過ごしているだろうか。
このところ顔も出せず、貴女の淹れるお茶の味と、
彼らの無邪気な笑い声が恋しくなるばかりです。
さてこの度、良いものが手に入ったのでそちらに送ります。
どうぞ役立てて欲しい。
また折を見て、そちらに伺います。
もしも不足や困りごとがあれば言って下さい。
貴女の顔が曇ると、
悲しむのはそちらの子どもたちだけではないので。
ジークムント・フォン・アーヘンバッハ 』
[短い手紙をしたためて、部下を呼ぶ。
やがて顔を見せた青年にジークムントは目を細めた。]
ゲルト。
[常は居ないことも多いこの青年が、今はモアネットに帰参していることは知っていた。恐らくはまたすぐに、どこかへ出るだろうということも。だがその前に少しだけ。休息の時があっていい。]
これをシスター・ナネッテの元へ。
ああ、届けるだけだ。
…届けた後は、今日はもう休みなさい。
命令だ。少し孤児院で子どもたちの相手などしてくるように。
ふ。シスターによろしくお伝えください。
ああ、いずれ私も顔を出すからね。
そう、梱包はそのままで構わない。
そこの包みを…そうだ。では頼みましたよ。
[ゲルトに託したのは、エティゴナ商会の特徴的なマークがあしらわれた荷物の包みだ。商会から持ち込まれたそれを、ジークムントは敢えてそのまま孤児院へと運び込ませた。
単に良く纏まっていたから、仕分け直す必要がなかったということがある。そして更には、]
─────、抜け目のないことだ。
[人気の消えた執務室でひとり、笑った。
エティゴナ商会のマークをあしらった荷が、「善意で」「無償で」孤児院へと運び込まれる。それは善行であり、多少のやっかみを受けはしても正面切って批判する者など出ないだろう。
儲けを恵まれない人の為に還元するエティゴナ商会───そんなイメージがあってもいい。いや、恐らくそこまで考えたのだ。あの男は。……そして、
(……これで少し寄付も増えるかも知れない。)
そんな計算が此方にもある。
他の商人は黙ってエティゴナ商会を見逃しはしないだろう。エティゴナ商会が清廉なイメージアップを図るなら、必ずや追従する動きのあるはず。孤児院や貧民への差し入れ、慈善の動きが広がるかも知れない。そしてそれは国にとっての益である。商人の利であり政治の理。]
停船命令?
[ 順調にモルトガットの港に入港しようとしていた戦艦に、その知らせは唐突にもたらされた ]
理由は?機密事項?
ふむ...湾内で軍用船の事故でもあったかな?そうは見えないが。
[ ともあれ、モルトガット帝国軍からの停船命令とあれば、従わざるをえない ]
まあ、追い返されはしないだろうしな...了解した。
[ 暇になるな、と、考えながら、甲板へと足を運ぶ ]
[ 甲板から見上げる空は、雲ひとつ無い ]
ゲオルグ、こっちは良く晴れてますよ
[ これも良い機会か、と、しばらくぶりのコエを、そっと投げた。
答えはなくとも構わない、ただ、届けたかっただけだ* ]
― とある商会の一幕 ―
「若旦那…」
[ちょくちょくと行う定例会。それが終わったところで商会員の一人から声をかけられる]
なんだ?何か言い忘れたことでもあるのか?
「いえ、そうではないのです。ただ少し疑問がありまして、…旦那様は、どうして『ギィ・ルヴィエ・ド・コルベール』様をあそこまで押すのでしょうか?モアネットが陥落してから落ち目のように思えるのですが……」
帝国の伝手だからじゃねーの?
「それだけでしょうか?」
ふむ……思考を停止させず考えることはいいことだが、俺は知らん。商会とコルベール殿との付き合いは俺よりも長いんだしな。
[質問者は残念そうにする。ほかの面々も興味があったのだろう、少し残念そうだ。]
ただまあ、俺の予測。でいいならだが……
[そこで言葉を止めると期待するように見られたので嘆息しつつ話し始めた]
戦争してよ。街や都市を奪って、相手国を滅ぼしたとして…その場所を統治するとして、やらなきゃならないことってのはなんだ?まあ色々あるが、重要なものとしては……通貨の統一。あるいは貨幣の交換比率とかだな。
何も考えずにいっちまえばまあ大変なことになる。占領地は貧困者と暴徒と反国民であふれかえる。そんな土地誰が欲しい?むしろとったほうが赤字だ。重税を課すには重税を課せる環境を作っておかないといけない。
だから手っ取り早くその土地の商人と繋がる。侵略した国と奪われた国。どちらも知ってる商人と繋がるのが理想的だろうな。
商人からすれば経済圏が不毛な大地にならないようにできるし、侵略者からすれば統治をおこなう上で重要だ。
………パパと帝国のコルベール殿が繋がるのは、必然だったのかもしれんな。
まあ実際、解放軍が来るまでは帝国としては順調に統治していたんだ。その点とってみればコルベール殿は間違いなく優秀だな。
パパは公国にいたとき、商業の重要性を理解する為政者にあわなかったのかもな。顔や口ではそんな態度出しもしないだろうが、心の中では商業を理解しない為政者を蔑んでいたかもしれん。そんな中、商業の重要性をわかっている人間と出会った。商人からすれば金の卵を生む鶏みたいなものだ。ちょっと風邪ひいたぐらいでその鶏を捨てる馬鹿はいないだろ?治ればすぐまた金の卵が産まれるんだからよ。
と、まあそんな想像だが、実際はどう思ってるのか知らん。知りたかったらパパに聞け。それと俺がこう思っていたことはいうなよ。
[簡単な解釈を添えつつ、予測していたことをしゃべり終える。パパへの口止めについては、少しの気恥ずかしさであったが、そこでふと、考える]
帝国のほうはだいたいパパに任せてるからってのんきにしても悪いな。帝国ときなくさい国とかあるだろ。そこと帝国の貨幣を統一するとしたら……という書類でも作ってみるか。その書類自体は無駄になるかもしれんが、経験にはなる
……アナトリアス地方…ユルックへの投資も決まってるんだ。草原の皇帝になるよう軌道に乗った時、参考資料の叩き台として使えるからな。
[一つ追加で、今後の課題としてメモを各々していく]
「ところで若旦那。今日はこのあとご予定は?」
[よければと、何か誘おうとしていたのかもしれないが、すまんな。と謝る]
ちょっと野暮用でな。
「え、もしかしてこっちですか?」「あほか。若旦那は溺愛中の相手がいるだろ」
[そうか、溺愛中に見えるか。少し苦笑を浮かべるが]
仕事で届け忘れた品(グラス)があるんで、ちょっといってくるだけだ。
[ちょっと不可思議そうにしながらも納得した様子の商会メンバーが出ていくのを見送り、届け物>>+9へと向かうのであった**]
[ふ、と思い返すのは、弟子を拾った時の事]
……わんこみたいだったよなぁ、あいつ。
[戦火に巻き込まれた廃墟の片隅、ひとりで蹲っていた生き残り。
手を伸ばしたら、文字通り噛みつかれた。
そこにあったのは、屈しない意志と、生への執着。
だからこそ、生きたいか、と問うた。
それに返されたのは是の頷き。
直後、そのまま連れて戦場を駆け抜ける、という無茶をやらかしたりもしたのだが──少年は恐れる事もなく、最後までついてきた]
[そんな無茶な出会いをして。
それまでの暮らしとは一転、特殊な環境に身を置いて。
それでも生きようとする少年に、自分の生きた証を託す、というのはごく自然に決めていた]
……まあ、もーちょい、気ぃ強く持ってくれんと。
心配すぎるんが、なぁ……。
[先走る心、故の強さと弱さ。
それが今の所一番の懸念事項、というのは。
今の所は、副官だけが知る所。**]
──孤児院、調理場──
[小さい手に引っ張られていった先には、確かに事務室で聞き及んだとおりの状況が再現されていた。
すなわち、コップに満杯のお茶を手に零さないように震える子どもの姿だ。]
そうね、お湯は熱いでしょう。オーブン用手袋をして
コップを持ったのまではいい判断だったわ。
『せんせぇえ……手がげんかい……』
ええ。あたしのためにってきいたんだけれど。
いただいていいかしら?
『……あつい かも……』
おーけー。どんときなさい。
淹れたては望むところね。
[褒めながら裾をさばいて床に膝をついた。ぷるぷると震えながら、なみなみになってしまったお茶を持った少女に修道女は笑みかけた。コップの底に手を添えて零れないように安定させる。]
[吹いて冷まそうにも表面張力限界でやや危険を感じたのでそのままふちに口をつける。確かに少々ホットだけれど、まあこのぐらいは可愛いものだ。]
ん、あまい。
…… お砂糖たくさんいれたわね?
『そっちのほうが、しあわせかなって……』
なるほど。
[見れば底の方に白い塊が固まっている。
先に入れてあったのだろうことがわかる。]
つい幸せがいっぱい欲しくなっちゃった、と。
『うん……そしたら、せんせいにも
わけてあげられるでしょ?』
ううーーん。うちのこめちゃくちゃカワイイわ。
抱きしめられるのは後で覚悟して頂戴。
[からりと笑って二口目、あつつ。と笑ってから
幸せをわけてくれようとした少女の頭を撫でる。]
淹れ加減は及第点。
次は注ぐ量だけ気をつければいいわ。
ペーター!
棚からコップ6つとスプーンひとつ取ってきてくれる?
[かさを減らしたコップを自分の手で支えながら、自分を呼びに来た少年に指示を投げる。位置についてを言わずとも、館内を把握しているらしき少年は機敏に棚から要求のものをもって戻ってきた。
優秀である。大変に将来有望だ。]
はい、ありがとう。
[ペーターからコップを受け取って、柄のところに指を通す。そのうちのひとつに、かさを減らしたコップの中身を半分くらいうつした。]
『……せんせ、しっぱい……ごめんなさい……』
あら。失敗はごめんなさいじゃないでしょう。
やりたいと思った気持ちのが何百倍大事。
幸せのおすそわけ、
いただくわね?
[俯き顔の少女からお茶を分けてもらって、
かなり甘い味付けのお茶をコップの半分ほどに移す。]
[土産を持たされてきたらしい来訪者に、
子どもがわらわらと集まる。
猫にも集われるが、ここの子どもにも集われるようだ。
2、3人ばかりは遠巻きに見守って、運び込まれる土産ものの方を気にしているようだったけれど、その中を突っ切って背の低い影が見えた人影に飛び込んでいった。]
『ゲルトにーちゃん! いらっしゃい!!』
[調理場手前で出迎えたペーターが、ゲルトの腰のあたりにがっとしがみつく。しばらく離れないだろう。]
──いらっしゃい。ゲルトくん。
今ちょうど幸せなお茶が入ったところだけれど、
味見していく?
[そういって、笑いながら孤児院の主は
手にしたコップを掲げて見せた。]
ん...?
[ 青空を見上げる男の顔に一瞬、影が落ちる ]
鳥、か?いや、飛行機かな?
[ 狙撃の名手と呼ばれた男の目は、未だ常人より遠くまでも捉えられる視力を保っている。その目には、その影は鳥にしては大きく、飛行機にしては高すぎる高度を飛んでいるように見えた ]
戦艦...?
[ 呟いてから、何を言っているのか、と、自分で苦笑した ]
(そういや、前にそんな夢を見たような気がするな...)
[ 空飛ぶ艦隊、天を覆う天使と魔物、歌う竜...あまりにファンタジーなイメージに、気恥ずかしさを感じて、ゲオルグにも言ったことがない...そんな、遠い夢の断片が、ふと浮かんだが ]
やっぱり気のせいか。
[ 気づけば、空を過ぎった影も、いつの間にか見えなくなっていた* ]
─ 孤児院、その後 ─
[かなりの量の砂糖が解けた紅茶は、底の方はややも粘性を持ってどろどろの紅茶色の砂糖と化していたので、残りの紅茶で薄めて供することにした。
]
今日のはきちんとした来客用だから
苦くはないわ。ご安心。
[作法にあまり拘らず、『幸せ』たっぷりの紅茶をおすそ分けする。怪我人用のにっっっっっがい薬茶より滋養は薄いが、糖分で頭が回るようにはなるかもしれない。]
ふっふふ。今日は言われて?
それとも自主的?
まあどっちでも、いつだって嬉しいからいいんだけどね。
ちびっ子たちもだいぶ懐いているし。
[にやーと笑って寝子将軍を迎えて紅茶をいっぷく振舞ってから対面に座って話を聞いて。それから、周囲に集まった少年少女がトラオムはー!とか、遠征先のお話聞かせて!などなどせがむのをひとしきり見守った後に、荷物を預かりに一度離れた。]
──孤児院、事務室──
[受けとった『土産』には、しっかりというかばっちりというかエティゴナ商会の刻印が入っている。]
ジークムントさまもよくよく気が回るし
なんていうか、さすがよねぇ
[付されていた手紙を一読してから、しみじみと修道女は呟いた。]
ん、んー、足りないものねえ。
とりまわせるだけはあるけど、
リーザの咳止めと解熱薬の予備と、
出来ればあったかい寝具、だったけど
これはちょうどよく来たわね。
絹糸も、……あんまりウチでは使いたくないけど、
まあいくらあったっていいし。
[必要分は取りまわせている(というか必須に足りなければ都度遠慮なく陳情している)が、足りてはいても欲しいものというものもある。要求するかは別にして、欲しいものをつらつらと口に出して整理をしながら荷を解いていく。]
……てか、まあこれは確かに「良いもの」だわ。
[何とは言わないが、特に毛布は統一の規格があるように見受けられた。──質が良いのも手触りですぐに把握できる。施療院と並立している以上、寝具はいくらあってもいいし、来訪者にも触れる機会があるから『評判』はある意味、伝播しやすい品だ。]
まー。いただけるものはいただきましょう。
睡眠にかかわるものは大事だし、
迂遠な思惑より、実利優先。
使えるものはなんでも使えの精神だわ。
清潔に取りまわすのにも
予備はいくらあってもいいもんだしね。
[いいつつ、ちゃちゃっと荷の中身を確認していく。大きい荷物としては毛布に、日用品。砂糖などの調味料の瓶もあるようだった。]
[どれもこれも後で見せれば、喜んでもらえるだろう。
「幸せ」の調味料の瓶を手に取って、修道女は少し笑った。]
……やーねえ。足りてない?とか
思わせたんじゃあないと いーんだけど。
[頬をぺちっと叩いてみる。──こちらに来てから曇った顔をした記憶はない。
怒ったり、悲しかったり、まあ。
そりゃあ生きてればありはするけれど。]
…… …… 幸せ7割くらいが
ちょうどいいのよねえ……
[コップに注がれた甘い紅茶を思い出して苦笑が漏れた。
窓の外、遠くの空を眺めやる。]
たくさんもらってるけど
…… めいっぱいになりすぎちゃうと
動きがとりにくいし、ねえ。
[何で空白が埋まるのかは、わかっているけれど。たぶん。埋まりきらない空の部分があるくらいの方がいっそ、バランスがとれている。]
[ふーと軽く息をついて、砂糖瓶はいったんもとに戻す。
先に寝具類はリネン室に運ぶことにした。
日用品の類は空いている手を借りることにしようと、
事務室の外に出──、]
はい?
…… 消えちゃった?
[来訪していた青年の姿が見えなくなったと孤児院の子らから報告を受けることになるのは、そのあとのこと*だった*。]
情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新