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[ヨアヒムについての情報をもたらした男は、何の褒賞も求めずに姿を消した。
呼吸ひとつさえしなかったごとく。]
あの方、 おれが見えてましたね。
[ふぁさ、と尾を揺らして、オズワルドを見上げた。
使い込まれた刃の匂いがしたから、嬉しいようだ。]
彼が何処から来たか、知りたいですか?
[何処へ向かったか、ではなく来し方を口にしたのは、狼の嗅覚ゆえでもなく。]
[稀人たる男が口にした言葉は希望。そして確信。
何か答えよう、と口を開いたときには、既にその姿は無く。]
ちぇ。なんだよ。
相変わらず、ええかっこしいだなぁ。
[ぼやくような言葉は、尊敬と感謝の素直じゃない表現。]
[傍らの黒狼の首筋に手を置き、その短い鬣をわしわしと撫でる。]
見えてたなぁ。
ただもんじゃねぇのは確かだが。
ん……。
[言葉を区切ったのは、暫し考える間を置いたため。]
………いや。
謎のまま、でいいさ。
少なくとも、おれにとっては。
[師匠なのか、とは聞けなかった。
肯定されても否定されても、きっと、困ってしまうから。
だから出自は謎でいい。
狼の知覚に信頼を置くからこその返答だった。]
──…、 ん、
[不意に、人間の姿に戻るとオズワルドの指先を舐める。]
ハルバードを取って来て、馬に鞍を置いておきますね。
ツヴァイヘンダーも持っていきましょう。
[遠征の気配を嗅ぎ付けてご機嫌のあまり、行動の順番がアレだけども気にしない。]
こら。そのなりで舐めるなと言ってるだろう。
[舐められた指で、ぴしりとトールの額を弾く。
狼のときとやっていることは同じなのだが、気分の問題というやつだ。]
ああ。ここにいる。
[トールが去るのを背中で見送って、前方を見据える。
トールがそわそわしだした原因は、きっとあれだろう。
城壁近くに、じわりと滲み出した不可解な歪み。]
[兵士を1人呼びつけて、言伝を言いつける。
兵士が壁際の異変に全く気付いていないようなのを見て、
なおさら確信を深めた。]
これな。
陽が落ちたら宰相に渡しとしてくれ。
いいな?陽が落ちたらだぞ。
[兵士が簡単に封された書きつけを受け取り、下がる。
書かれているのは、こうだ。
「ちょっと出かけてくる。」
相も変わらず、この国は優秀な臣下団の働きで回っているようなもの。
皇帝の腰の軽さも、ほとんど変わっていないのだった。]
[デコピンされて、痛がりながらも笑っている。]
すみません、つい──
あなたも狼になってみたら、舐め回したくなる気持ち、わかると思いますよ。
[程なく、支度を整えて引いてきた馬は3頭。
オズワルドと自分と、]
あの子にも必要でしょう。
[むろん、乗せて帰るためだけに連れてゆくのではないことは、言わずもがな。]
― とある学校の図書館 ―
[男が転移した先は、ずらりと本棚の並ぶ部屋だった。
男にはその背表紙の文字を読む事はできないが、棚にぎっしりと詰まった本は、その殆どが大なり小なり魔力を宿していた。
辺りが薄暗いのは、本を日に曝さないためだろうか。
少し離れたところに、人の気配がする。
男は足音をさせないように、ゆっくりと移動した。]
[静寂の本棚の森を抜けた先は、机の並んだ広場だった。
そこでは、若い少年少女が腰掛けて、本を読んだり、広げた紙に何かを書き付けたりしていた。
――図書館、という言葉が遅ればせながら浮かんだ。
男は小さく唸った。
この場所は、転移の現場そのものではない。
だが、関係のある場所ではある。
人か、物か、場所か。
此処に連なるものの因果が、水脈となって残っている。]
[――否。
痕跡だけではない。
すぐ近くで、転移門の開く気配がする。]
誘いか、罠か……
我が女神の祈りが通じたと思いたいが。
[穏やかならぬ事態を想定しつつも、剣呑な笑みを浮かべてしまうのは、どうも性らしい。]
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