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― ほらあな・夜中 ―
(……)
[夢を見ていた。
小説家で旅好きな父が、また家を出て行く夢。
いつもそうだった、自由気ままに思いつき。
ふらりと旅に出ては、また気分次第でふらりと帰って来た。
「いってらっしゃい」「おかえりなさい」
その度に父の背中が見えなくなるまで送り、帰って来ると耳としっぽを振るわせて出迎える。]
――……さん…。
[久しぶりに帰ってきた父が頭を撫でてくれて、嬉しくて、ぷるぷるとしっぽを振るわせた。
凛々しく立ち上がる尖り耳に、自慢の長いしっぽ。
母親似の自分とは違い、それは図鑑で見た天敵によく似ていたけれど、でも狼とは違う。
優しくて、格好良くて、大好きなお父さん。]
――……ローさん?
[>>*11>>*12夜半、一度目を覚ます。
傍には約束通りに持ってくれた、ほうれんそうのキュシュと葡萄のジュースと、それからトランプ――。]
…ありがと……。
[1人で篭もる自分への、ロー・シェンの優しい気遣いに心が温かくなっていく。
こころまで持って来てくれたロー・シェンの匂いが、まだ残っているようで、
顔まで毛布を引き上げると、身体を包むように丸くなる。
なんだか離れている父に抱かれているような、ロー・シェンが傍にいてくれているような安心感に目を閉じる。]
[再び目を開けたとき、予想もつかない事態になっている事など、露とも知らずに。*]
ローゼン…さん…?
[暗がりの中手探りで触れた耳はとがったもので、一瞬ロー・シェンが倒れているのかと思った。
でも、そうじゃない。もちろん父でもない。
見慣れたシルエットに触れた先、ぬるりと指先に付いた生暖かい感触に驚き手を見つめる。
暗がりよりも濃い黒々とした液体。漂う匂いからそれが血液だと分かると、横たわる身体を揺さぶった。]
ローゼンさん…、ローゼンさんッ!
[怪我のせいかは分からない、いくら身体を揺すっても声を掛けても薔薇園の主が目を覚ますことはなかった。]
―ほらあな ―
(…どうしてローゼンさんが、ここに……?)
[何かに喰い千切られたらしい耳の傷口を癒そうと、懸命に舐め上げる。
こんな傷は今まで、見たことがない。
鋭い獣の牙で噛みつかれたらしい傷――。
図鑑に載ってた獣が噛んだら、こういう風になってもおかしくないと思えた。
ロー・シェンは狼が出たらしいから、しばらく隠れていた方が良いと言っていたけれど。
もしかしたら大人達が対策を話し合って、何か手を打つ前に狼に見つかって、それでローゼンさんが襲われたのだろうか。]
[でも、なぜローゼンさんだけ?
他のみんなは大丈夫なのだろうか?
どうして、ローゼンさんが"ここ"にいるのだろう――。
自分で逃げてきたの?
それとも誰かに運ばれて来たの?]
……
[今だ深く眠りに落ちている様子のローゼンが、とても自力でこのほら穴に逃げてきたようには思えないけれど。
死にものぐるいで、力を振り絞って来た可能性も捨てきれない。]
[運んだとしたら、誰だろう?
脳裏にロー・シェンの顔が浮かぶ。
ここではまだ彼しか、見たことがない。
他のみんなにはこのほら穴の事は伝わっているのだろうか?
ほら穴に篭もっていれば安全なら、いっそみんなでここに隠れていた方が良いのではないかと思うけれど。
そもそもここには、あとどれくらい篭もっていればいいんだろう。]
……みんな大丈夫かな…。
[毛布をローゼンの身体にそっとかけて、彼の目が覚めるのを待つ。
囓られた耳からの出血はもう、止まっていた。
ローゼンが目を覚ましたら、一体地上で何があったのか教えてくれるかも知れない。
ロー・シェンが運んでくれたであろう、トランプを手に取ると。
まとまらない思考と不安を何処かへ忘れようとするかのように、小さな小山を作って土台にしては積み上げていった。*]
― ほらあな・夜 ―
……
[とりとめもない時間を過ごしている内に、いつの間にか寝てしまったようだった。
傍にはまだ、目を覚まさないローゼンが眠っている。
このまま目を覚まさなかったら、どうしよう。
どうしようか――?
ほら穴を抜け出して、誰か大人を呼びに行く?
それとも、ロー・シェンに何が起きたのか聞いてみようか。
――また彼はここに来てくれるだろうか。]
ローさん…。
[自分がにぎった小さなおにぎりも、沢山あるけれど。
まだローゼンは目覚めずにいるから。
冷めたほうれん草のキッシュにかじりつき、1人での食事を終えた後。
また、膝を抱えて眠りにつく――**]
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