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[彼女は気付いていたか。
男の刻むアップテンポなリズムと
外の窓をたたき始めた強い雨垂れの音の調子は似たものだと]
そうだ。
[短い応答。
革のカバーにヴァイオリンを仕舞い、ソファから腰をあげる
弾んでいる会話の邪魔にならぬようにと、
喪に服した男はその場を音も立てずに辞した*]
― パメラの部屋 ―
[不天候の中表に出た者たちが弱視の娘の遺体を運んでくる。
氷ついた裂傷、その傷口は獣が食い荒らしたそれに似ている。
そっと傷へ透ける手を翳せば、ただの獣以外の残り香を感じ取り]
人狼……か。
[やはり此処に訪れた時に感じた獣臭さは間違い無かったようだ。
娘は人狼によって殺されたのだ。
そこから手を離し、代わりにヴァイオリンケースに手を伸ばす。]
[一曲弾き終えた所で手を止める。
窓の外には益々天候を崩した空が広がっていた]
……我が同胞も居るようだな
[占い師に姿を見破られた、あの時。
同胞の匂いに充てられてか、その瞬間が脳裏へありありと浮かんでくる。]
[占い師へ贈られた一枚の封書。
それは襲撃を凌いだ男が妖の魔物であると綴った一文。
占い師はその告発を信じ、男へ向けて水晶玉を翳した。
白い光に身が包まれ、熱に身を焼かれ焦がされる恐怖。
あの時の事を思い出せば、今でも痛みが戻ってくる錯覚すら覚える]
……――――ッ 、
[じわり、額へ浮いた汗を手甲で拭い、深い息を吐いた。
霊体だというのに、汗が滲むなど実に滑稽なこと**]
[――銀嵐の吹き荒ぶ中、探し物を求めて。
足音を忍ばせ、こっそりと裏口から屋外へと滑り出る。]
思ってたより、雪風が強い…どうしよう…
……うぅん、だめ、今探さなきゃ。
このまま雪に埋まって、見つからなくなっちゃうかも…
[自身の視力では落し物を探すことが難しいことなど、理解してはいたけれども。
ましてや夜となれば、それは絶望的で。
…それでも。
パメラにとってそれは、とても大切な品だったから。
裏口から表へと、来た道を戻ろうとして、]
[微かに感じる、背後の人の気配に、]
だr―――……
[振り向いた時には、既に遅く。
恐怖を感じる間もなく、押し倒される身体。]
ぅあ゛っ……
[その四足の獣の牙は、今際の際、刹那の思考さえ許さない。
…ケモノ。
そう悟ったのは、緋に染まる前だったか後だったか。
背に滲みる冷たさと、喉元に集中する熱さ。
二つの綯い交ぜになった、どこか不思議な感覚。
それがパメラの最後の『生きた記憶』だった―――。]*
―回想・夢と現の狭間で―
[どこかから、音がする。
音…――否、曲が。
一つ一つの音は連なり、やがて一つの旋律を形作って。
あぁ、懐かしい曲が聴こえてくる。]
[それは先程、宿の談話室で聴いた曲で。
聲が聞こえるのかと、そう尋ねた不思議な気配の男性を思い出す。
客かとの問いに彼は答えず、この旋律を一つ、弾いてみせたのだった。
窓を叩く風雪と見事な調和を魅せるそれは、耳に心地良い。
そして、通常のヴァイオリンより僅かに低く深みのあるその音は、4年前に聴いたものとまったく同じだったから。
――新緑の村の音楽家だと、確信的に声を上げた。]
[「そうだ」と男は小さく、だがはっきりと返事をした。
その後に続く言葉はない。
新緑の村は、人狼に滅ぼされた――パメラは知らぬことだけれども、それはかの村からやってきた霊によってもたらされた情報だ――と、聞いていたから。
…果たして彼は無事だったのかと。
どうしてこんなところに、なぜヴァイオリンの演奏など、と。
疑問に思うことは多くあれど、咄嗟に言葉にすることは適わず。]
[楽しい団欒のひと時、室内はレジーナのケーキが焼けたことで賑わっていた。
周囲では幾人かがパメラの言葉に反応したものの、その後は深く追及もされず。
…もしかしたら自分が気付いていなかっただけで、彼はずっとここにいたのかもしれなかった。
ヴァイオリンの演奏も、この賑わいの興にと行われただけなのかも。
――あぁ、それならば。
新緑の村が滅ぼされたというのは、ただの根も葉もない噂話だったのかも…]
[それよりのち、ヴァイオリンの音色が聞こえてくることも、
件の音楽家が話しかけてくることもなく。
気配のしないその人の居場所を捉えかねて、
その存在が心の片隅に引っ掛かりはすれども、その夜はもう話題に出すことはなかった。]
[パメラは微睡む。
まだ、思い出したくなかった。…最期の記憶を。
今はただ、この優しさに包まれて。
夢と現との狭間を、漂っていたかった。
…しかし誰かが声をかけたなら、ゆっくりと夢から醒めるだろう。
あぁその時、現実を受け入れ、改めて考えるに違いない。
霊となった自分にできることは――?]**
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