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― 少し前・書庫 ―
[しばらく辞書と格闘し、文字を読み上げながら、それでも段々独り言は少なくなる。この本は、面白い。
薄暗い書庫に廊下の光が差し込んだ。レトだ。>>0:583
気配が、見なくてもわかるようになった。
いや、そもそも少なくともこの時間にここを訪れる者は、自分とレトくらいしかいないのだが]
こんばんは
[目線を少し上げて、レトに静かに挨拶すると、また本に視線を戻した。
レトも、自分の読んでいた本を取り出し、机の向かい側に座った。
そのまま何を言うでもなく、静かに本を読んでいる。
2人の、本をめくる音と、たまに辞書をめくる音だけが響いた。
いや、今日は、風と、雨の音がする
遠くでがらんがらんと何かが転がる音がした。
レトが呟いた>>0:601]
[章の区切れまで読み、ふう、と顔を上げる。
レトが静かな顔で本を読んでいた。
確か、自分と前後するように、ここの生活に入ったはずだ。
そして、書庫で過ごすようになったのは、おそらく彼の方が先だろう。
書庫をみつけ、最初は部屋まで本を持ち帰っていた。
しかしある夜、たまたまレトと遭遇した。
最初は迷い込んでしまった、と言っていた彼だったが、次に書庫で会った時には、既に何冊かの本が机の上に積まれていた。
仲間がいたと喜ぶ自分に、全く感情のない冷たい顔で、帰れ。と言われたりしたものだ。
今は違う。
2人で静かに本を読み、時には今読んでいる本の感想を聞いたり、辞書でもよくわからない言葉の意味を聞いたりしている。
そんな時、彼はため息をつきながらも、静かに意味を教えてくれた。
戯曲、ですか
面白いんですか
[読んでみろ、と言うような視線だけを見せて、彼は再び自分の本に目を向ける。
再びぱらりと本を開いた。最初から、難解だ。
戯曲は1冊だけ読んだことがあったが、もう少し砕けた感じだった気がする。
もう一度彼を見るが、もうこちらに全く関心は向いていないように見えた]
ありがとうございます
[と言いながら、一旦その本を脇に置く。
先ほどまで読んでいた本をもう一度辞書を開きながら読み始めた。
しばらくし、レトが本をぱたりと閉じた。
静かに立ち上がり、廊下に出て行く姿を、本から顔を上げてじっと見送った]
― 早朝 ―
[風雨が激しかったはずなのに、何故かとても深い眠りだった。
こんこんと、扉を叩く音で目を覚ました]
んー
[ベッドの上で寝返りを打つ。窓から薄明るい光が差し込んでいた]
嵐は過ぎたか…
[ぼんやりとしながら、簡単な上着だけ羽織ってドアを開ける。
王子の側近の侍者がいた]
…何かあったんですか
[目が覚めた。
少し緊張した声をかけると、侍者は、王子が自分を部屋に呼ばれているので、あと30分後きっかりにくること、と伝言を残して去っていった。
王子が、呼んでいる。
月一の定例報告にはまだ間がある。何があったのだろう。
あわただしく準備をすると、ふと気がついて、オズワルドのジャムが入った袋を手に持ち、王子の部屋へと向かった]
― 王子の部屋 ―
失礼します
[30分少し前に部屋の前につく。
扉の外にいた侍者に声をかけると、彼はノックをして、扉を開けた。
王子が椅子に座ってこちらを正面から見ていた。動悸が早くなる。
おはよう、と笑って声をかけられた]
おはようございます
[少し離れたところで、紙袋を持ったままだが体勢を整え、きっちりとしたお辞儀をした。
後ろで扉の閉まる音がする。
今回は、ちゃんと会話が出来るのだろうか。
いつも報告と、ご苦労、の一言だけで終わっている]
[今日は、報告があるんだ。と王子が言う]
何でしょうか
[配置換えだ。と言った。処理施設に行ってもらう。
詳しいことは前任に聞け。淡々とこちらを見ながら話した]
承知しました、王子
[以上だ。そういって、王子は椅子から立ち上がり、外出の準備なのか、上着を羽織りだした。
王子と話したい。前に言葉を教えてもらったこと。
色を教えてもらったこと、一緒に異国の木の葉を見て…]
王子は戯曲を、読んだりすることはありますか
[レトからもらった本のことを思い出し、とっさに言葉が出た。
王子は手を止めてこちらを振り返ると、笑って、読むよ、と言った。
良かった、笑ってくれた。
小さく息を吐く]
あの、どんなものを読まれるんですか
私も、最近少し本を読んでいるんです
王子が心動かされるような本を私も…
[途中までいった言葉を、王子のぱたぱたと振る手でさえぎられた]
馬鹿に教える気はない
馬鹿で物知らずで頭のおかしいお前には、私の愛する話の一節も理解できないだろうよ
来た時も思ったが、本当に救いようないほど頭からっぽだよな、ベリアン
あつかましいとか、身の程知らずだとか、思わなかったのか?
[羞恥で顔が赤くなった
何をうかれていたんだろう]
…そうですね
申し訳ありませんでした
[俯いて謝罪すると、それでも一言加えた]
気をつけてください
少し耳に挟んだのですが、Esの中で、王子の命を狙う者がいる…のかもしれません
そんなことは無い、とは信じたいのですが
[ギィの物言いがひっかかる。万一王子の身に何かあったらと思うと、まだ全く不確定な情報だが伝えておかなければ、と思った。
王子はまた、微笑んだ。
『お前はその目で一体何を見ているんだろうな。
よほど盲者の方がものが見えている気がするよ。
…心配ない。そのためにお前を配置換えしたのだから』
こちらに向かうと、立ち尽くす自分の肩にぽんと手を置いた。
そして、それはなんだ?と自分の持つ紙袋に目をやった]
これは、オズワルド様からです
王子への贈り物、ということです
[紙袋を手渡すと、彼は面白そうに中を見て言った。
『ジャムね、嬉しいよ、と伝えておいてくれ。
なに、配置が変わっても、きっとすぐ会えるさ。
ところでな』
王子が自分に顔を近づけて呟いた。
『下らん話をする前にさっさと渡せ、使えない奴だ』]
…申し訳、ありませんでした
[俯いた。本当だと思った。消えてしまいたいと思った。
部屋に侍者が入ってくる。王子はそのまま部屋を出て行き、自分も侍者につれられて、部屋を出た]
[気がついたら、自分の部屋で、ベッドで横になっていた。
そこまでの記憶があいまいだ]
私は――
かもめ
[唯一読んだことのある戯曲を思い出していた。
このあとは前任者との業務の引継ぎだ。
それが終わったら、湖に行こう。
腕を目の上に乗せるようにしながら、息を吐いた**]
― 処理施設 ―
[王子の部屋から戻った後、しばらくぼうっとしていたが、起き上がり、処理施設へ向かう準備を始めた。
初めて行くが、場所は知っていた。
広い外周庭園の隅、荒れた、忘れ去られた庭のさらに隅に入り口がある、半地下の施設だ]
……
[ぼうっとしたまま部屋を出ると、そのまま外へ向かう。
Esたちにも会うことはなかった]
[入り口には、前任者らしき人影があった。
声をかけると、こちらにも声をかけてくれた]
『よう、すぐわかったよ
目立つ肌色だな。出稼ぎか?
まぁいい、これがここの施設入口の鍵、牢屋の鍵。
全部組にしてある。失くすなよ』
[じゃらりと、輪でつながれた鍵束を渡された。
入り口は既に彼が開けていた様だ。
そのまま二人で地下へと向かう]
…誰も居ませんね
[地下につくと周りを見渡した。
鉄格子をとりかこむように通路があり、片隅に、机と椅子がある。
牢の中にも家具。むしろ外より豪勢だ。
そして、牢の奥には赤い炎が燃え盛っていた。
頭上をみまわすと、下りてきた通路のほかにも換気口がたくさんある。
とりあえず、窒息することはなさそうだ]
この炎、いつも燃えているんですか
[前任者に問いかけた]
『ああ… 不沈炎。不思議だろう。
俺もどうして炎が消えないのかわからない。
上の排気口から、たまに術者が何かを投げ入れているようだがな』
[確かに、覗き込むように焼却炉の上方を見上げると、大き目の排気口が見えた]
『ちなみに、今日は中を見せるためにあけておいたが、普段は扉が閉まってるんだよ。
試しに閉めてきてみな』
[そういって、自分の持っている鍵束を指差した。
頷くと、牢の出入り口に向かい、鍵を探す。
2個目が当たって、扉が開いた。
牢の中に入る。観音扉を開け放した状態だと、焼却炉の熱気がもろに牢に流れ込むようだ。
確かにこれは早く閉めたい、と思い、両側の扉を閉めていく。
扉が完全に閉まると、牢の中は急速に常温に戻ろうとしていた]
『そうそう、よくできました。
もうわかっただろ。こういう簡単なお仕事さ』
[牢の中から前任者の方を振り返った]
『完全なる閑職だな。
この城で働いててこんな牢にぶち込まれるような奴はいないよ。
少なくとも俺の任期には一人も居なかった。
気に入らないやつは王家の方々ってやつはもう即殺すか城の外に蹴り出すだけだからな。
…昨日、第二王子の侍者が急に俺のところに来た。
お前、何かやらかしたのか』
[その言葉に俯く]
…そうかもしれません
『…まぁ、そう落ち込むなよ。
ここもなんだかんだ悪くないさ。
自分の荷物でも持ち込むといい。
俺なんか、暇すぎてこんなに持ち込んじまったよ』
[前任者はいつの間にか抱えていた箱を叩いて笑った]
『それじゃ、俺の仕事はあと半日で終わりだな。
離れるとなると寂しいな。
結局そういうものなのさ』
[前任者は牢屋を見回すようにした]
『あと少し、仕事を教える。
そうしたら、今日はゆっくりするといい。
今日の夕方、もう一度来てくれ。
そうしたら本当に、鍵を任せるよ』
[牢屋から出て、少しの間、その他の雑務のやり方を聞くと、彼は片隅にあった椅子に座った]
『これ、おいてくよ。
俺の前任のやつが王子だか王だかの捨てたゴミを拾って直したんだ。
ここではそんなことをする時間もいっぱいあるんだ』
[机の上には古ぼけたレコードプレーヤーがおいてあった。
前任者がレコードをかける。
ちょっとだけ、ノイズが入った女性の歌声が流れ始めた。
半地下の牢屋では、とてもきれいに響く]
『素敵だろ、なぁ…』
[最後の勤務を惜しんでいるのだろうか。
音楽に聞き入る前任者に、小さく一声だけかけると、上り口から外へ向かった]
― 湖 ―
[処理施設から出た後、一度部屋に戻り、大きなバスタオルを持つと、また外に出る。
Esには一度も会わない。
今までは毎日会っていたのに、なんだか不思議な気がした]
最後の勤務…か
[何故か惜しい気にはならなかった。
すぐに、また会える。王子の言葉が頭を巡っていた]
[湖に着くと、まずは水に足をつけた]
うっ
思ったより冷たいぞ
[湖には他の者の姿も見えない。
もう、夏も終わりを迎えていた。
一度水から上がると、ぼうっと風景を眺める。
一匹の鳶が鳴きながら、湖の上を舞った]
…まぁいいか
[ごそごそと服を脱ぎだす。
来ている服を全部脱ぐと、湖にざぶざぶ入っていった。
段々からだが冷たさに慣れてくる。
夏は終わった。
しかし、日差しは依然強く、気温も今日はまだまだ上がるだろう]
本当に、あっという間に終わったな…
あんなにひどい嵐だったのに
[足の着かないあたりまでいくと、水に浮かんで上を見上げる。
身体の上に、太陽があった]
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