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[改めて話し始めた相手の言葉は、ひどく難解で、突拍子もないものだった。
にわかには信じがたい…が、何の因果か自分は信じがたいものをいくつもこの目で見てきている。
傍らの黒狼も、いうなればそのひとつ。]
ああ……つまり、だ。
こことは違う別の世界ってのはいくつもあって、
そのうちのひとつにあいつが連れて行かれたんだな。
[なんとか理解した、単純な、一番肝心なところだけを捕まえて言う。]
それで、おまえがそのことを調べてる、と。
だがその様子じゃ、迎えに行ってくれと頼むわけにもいかなそうだな。
[手がかりは得ていないと言う男の様子に、しかたない、と気楽な感じで肩を竦めた。]
けど、あいつなら自力でどうにか帰ってくるだろ。
あれでもおれの息子だ。
そうしたら、あいつから話しを聞けばいいさ。
[眩しいものを見るように僅かに細め。]
お前は。
[あんた、ではない、]
息子を信じてるんだな。
[質問ではなく、しみじみと。
やさしい眼差しがオズワルドに注がれる。]
[男の声音が、声の調子が変わったように思えた。
呼びかける言葉と眼差しを、少しの間、ぽかんとした顔で見る。]
……あ、ああ。
[ゆる、と表情が崩れ]
おれが教えられてきたとおりに鍛えてやってるからな。
おかげで、あいつにはすっかり嫌われちまってるけど。
[笑うような痛みをこらえるような、微妙な顔になった。]
お前に似てると言うなら、お前の息子は、クソ生意気で、手のつけられない悪ガキなんだろうな。
強情で、意地っ張りで、肝も座ってて、何を仕出かすか分からない。
そのくせ、情が厚くて、何にでも手を伸ばそうとする。
[その勝手な言い草に、オズワルドが反応する前に、]
……お前は、教えた相手のことを恨んでるか?
[労わるような、からかうような、どっちともつかないような、奇妙な目をして、彼の瞳を覗き込む。]
[並べられた単語を聞くうちに、表情は微妙に変化していった。
参ったなという顔でがしがしと頭を掻き、なにか言おうと口を開く。
そこへ、問いが飛んできて、開いた口を閉じた。]
───ばーか。
[少しおいて、声に出したのはそんな言葉。]
殴られたのも斬りつけられたのもいじめみたいな修行させられたのもひたすら雑用でこき使われたのも、振り返ってみれば全部おれの血肉になっていた。
ここまできっちり育ててくれて感謝してる。
───って言う前に死んじまったからなぁ、おれの師匠は。
文句言いたいのは、そこくらいだ。
[ぱちぱちと目を瞬いて、どこか照れくさそうな顔をする。]
[男は顔を背け、聳える城塔を見上げた。
その目許が、僅かに赤らんでいたのに、オズワルドは気付いただろうか。]
さて。
ここでも無理となると、俺はまた他の手だてを探さなきゃならん。
[男は唐突に話を切り替えた。]
[相手の視線を追って城を見上げる。
大きくなった。
ここまで大きくなったのも、土台があればこそ。]
……同じように、できてんのかなぁ。
[答えを求めるものではない、ただの独り言。]
[目を戻した時には、もう平静に戻っていた。]
息子の名前を教えておいてくれるか。
もし、俺が探している相手と同じ場所にいるなら、
そうでなくても、因果の巡り合わせで、どこかで出遇うかも知れないから。
ヨアヒムだ。
あいつはショルガハを名乗ってるがな。
嫁が、風の民のふたつ名を付けたんだが、
それがいたく気に入ったらしい。
[乾季の最後に吹いて草原に火をもたらす風の名前。
苦難の時代の最後に吹き、大地を生まれ変わらせて新しい芽吹きを促すもの。
そうあってほしいという願いがこもる名だから、そればかり名乗るなとも言えずにいる。]
――ジークムント・フォン・アーヘンバッハ卿。
ランヴィナス公国の救国の英雄で、モアネット市の優秀な為政者で、高身長容姿端麗、温和な佇まいで庶民にも謙虚な言葉遣い、剣士としても高名とまさに非の打ち所がない人物。
うちの商会にとっても発注をいただける大事なお得意様。
『……というわけでじゃ!
この男のグッズを作って大儲けしようではないか!』
そんな話を大旦那様が言い出された。
モアネットに本店を置く当商会としては絶対に作りたい商品だし、作ったら絶対に売れると思う。
ただ発売までにクリアしなければならない問題の解決、売れるものをどうより多く売るかの選定――難しい話ばかりだ。
『よいか、まずベースのデザインじゃ。
様々な種類のグッズを作るのならば、それごとにいちいちデザインしていれば制作に時間もかかるし、だいいちコストもかかる。
まず簡素で小さな絵柄を作るんじゃ、それを適当にサッと組み合わせてハイ新商品出来上がりというぐらいに、簡単かつ普遍のものが良い。
いいか、女子供が親しみやすいようオリジナルよりずっと可愛いめにするんじゃ。
あやつは背が高いが身体はぐっと短くして……そうじゃな、いっそ頭と同じにしてしまえ、頭身の上半分が頭、下半分が手足胴体で良い。
ウシシッ、ワシは絵心は無いが、これは当たるぞ?』
……ってことは、2頭身?
そんなのウケるのかなぁ。
『デザインが決まれば次は商品名のベースじゃ、これもデザインに合わせて覚えやすく親しみやすいものを付けなければならん。
【白銀の軍師 ジークムント・フォン・アーヘンバッハ】なんぞご大層で長ったらしい名前では、背伸び盛りの少年には良いかもしれんが、最大売上を狙うには不適当であるのは分かるじゃろう?
さぁここからどこをどう削る? お前さんらもちと考えてみぃ』
ネーミングは大事。
ただ今回の場合は実在人物のグッズなんだから、その人の名前を使えばいいのは確か。
おっしゃられるとおり、これはちょっと長いかなとは思うけど。
……削るべき部分として幹部の皆さんの大多数が挙げたのが【軍師】の部分。
この肩書は英雄譚で語られる頃のもので、今は最高司令官であるし政治家の色のほうが濃いため、軍師という肩書をそのまま使うのはいかがなものか――という意見で揃っていた、これは私もわかった。
ただ、じゃあ白銀が浮いてしまうがどうするのかということに回答が出なかった。
【白銀の司令官 ジークムント・フォン・アーヘンバッハ】とすると収まりは良くなるけれど逆に長くなってしまった、これではいけない。
……次いで意見が多かったのが、名前の性の部分。
つまり、親しみを込めるコンセプトに沿うならば、【フォン・アーヘンバッハ】は省いて、ファーストネームで呼ぶようにするのはいかがかという話。
大旦那様はにこやかに頷いたので、ここまで合っていそう。
ただお偉い人を名前呼び捨てにするのはいいのかなと思ったから、名前+敬称ではどうかとつい意見を出してみたらそれが通ってしまった。
幹部会議で意見を出せるほど偉くないのに、それを咎めたり気難しい顔をする人が誰もいない――この空気は凄いと思う。
後で聞いた話だけど、うちの幹部は若旦那様を筆頭に出自とか経歴とかいろいろ事情がある人が多いから、古株とか新人とか程度を気にする人はいない、ということらしい……知らなかった。
具体的には、親しみを込める目的を消さないこと、女性にも馴染みやすいこと、の2点から「さま」を付けることになった。
ここまで整理すると……、【白銀(+α)】【ジークムントさま】の2単語が残った。
やはり白銀が浮いてしまっているのが目立つ――けど、白銀そのものが【ジークムントさま】を上手く綺麗に修飾していて、これを外してしまうのはかなり勿体無い。
……結局、幹部の皆さんが意見を突きつけあった結果。
以下の2候補に絞られた。
1)白銀の◯◯ ジークムントさま
2)ジークムントさま
1番は白銀は削れないものと認定、軍師の代わりの肩書をつけようという案。
2番は白銀を削ってしまい名前だけにした案
私自身は1番に賛成した。
やっぱりどうしても白銀は削りたくない、あのひとの風貌を表すのにとても合っているフレーズだと思うから。
ただどうしても長くなってしまうから断腸の思いで取っ払った2番の意見も理解できる。
――幹部会議ではこの2択からどうしても絞りきれず、若旦那様やお嬢様にもアドバイスを頂いたけどやっぱりどうしても絞りきれず、カミナリ覚悟で大旦那様に選んでいただくことになった。
『……ふむ。
なかなか上出来じゃ、ここまでようやった』
大旦那様からは意外にもねぎらいの言葉。
ネーミング1つの話なのに、それだけの難問だったということなのだろうか。
『よいか?
長く売れ続ける商品に名前をつけるには、時代が変わりコモンセンスが移ろっても廃れない永遠の響きが必要じゃ。
【白銀】のフレーズはあやつをよく表しておる。
ウシシッ、こんな色で表せるような輩はきっと、氷の王とか大天使とかそんなのしかおらんだろうからの。
よって白銀は入れるのが正解じゃ。
それで後ろの肩書をつけると長くなってしまうから2番という案も持ってきたのじゃろう?
――よいか?
アイデアというものは、1度に複数個の問題を同時に解決できねばならん。
このように一見してどちらも並び立たない場合とか特にじゃ。
この場合に求められるアイデア……白銀の後ろに何か付ける、全体を短くする、この2つを同時に解決する方法はこれじゃ!』
――そう言って、大旦那様は2つのプランにそれぞれ線を引いて削ってみせた。
それを見た私を含め、幹部全員が目を丸くした。
【白銀(+α)】【ジークムントさま】
『ウシシッ! この商品のシリーズの名前は【白銀さま】に決定じゃ!
白銀で全てを言い表しているのだから、これを使いたいなら同じ意味を持つ名前のほうが要らん!
ジークムントさまよりも白銀さまのほうが呼びやすいしな。
あとな……
あの堅物が自分のキャラクターグッズの販売なんぞ認めるわけがない。
だからこれは【白銀さま】という架空のキャラクターであって、ジークムント・フォン・アーヘンバッハとは何の関係もないんじゃ。
ウシシッ、安価なグッズにするのも、コストかけて精巧なデザインにしたら本人に似すぎてしまうからのう?』
ここまで来たら名前が不要という大胆な切り口には本当に感動した。
うちの商品が作られる瞬間に立ち会えたこと光栄に思う。
……でもこれで本当に関係ありませんと白を切れるとは、どうしても思えないのだけど。
ヨアヒム、ショルガハ、か。
憶えておこう。
[草原の民の言葉はよく知らぬが、母親が付けたからというのみならず、おそらくは少年の琴線に触れる名なのだろう。
父のつけた本名よりそちらを好むというのは、何となく想像できない心理ではない。
本当に、ウォレンの息子らしい、とあたたかいものがこみ上げる。]
出逢えたら伝えよう。
父親が心配してたってな。
[背中を揺すり、背負った大剣の位置を直し、]
それでは、俺は行かせてもらう。
まだ探索の途中なんでな。
[踵を返したところで、ふと振り返り、]
……そう言えば。
何故、俺に色々打ち明けた?
皇帝陛下にとっちゃあ、俺は訳の分からんことを並べ立てる胡散臭いヤツだろうに。
ああ、よろしくな。
あ。心配してた、は言わなくていいぞ。
気を付けてな。
[伝言を請け負った男に答え、
もう行くという背に、餞別の言葉を掛ける。
使い込まれた大剣を眺め、目を細めた。
───と。]
あ?
[なぜ、打ち明けたのか。
人払いしてまで、国の一大事になりかねないことを。
理由は、探すまでもない。]
勘だな。
[簡潔に答えてから]
………まあ、
あんたによく似た雰囲気の奴がいたんだ。
だから、信じる気になった、
───とでもしておいてくれ。
[なにかごまかすように、不器用な笑みを浮かべた。]
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