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村の長は、素早い判断をしましたね。
……それでも。
中途半端な情などかけねば良かったんだ。
水に薬でも仕込んで、集会場ごと焼いてしまえば。
[ぽつり、コエを漏らす。
あんなに厳重に周囲を囲い、土嚢を詰んだ彼ら。
それを思うと、憎しみより哀しさが勝る。
……ひと息に皆と死なせてくれたなら。
檻の中でこんなに苦しまず済んだのに、と。
悪役らしからぬ弱音は、ノイモーントだけが
知っていてくれたなら、それでいい*]
……ああ、そーだね。
多分、それが一番痛みが少なかった。
[いっそ、疑わしきを全て切り捨ててしまえばよかったろうに、とは思う。
それはそれで理不尽で、納得はいかなかっただろうけれど。
落ちるコエに宿る響き。
感じ取ったそれには触れず、今はただ、この若狼に沿う事に意識を向けた。*]
―回想―
『要するに、檻に狼と羊をこめちゃならない。
ただそれだけの、実に簡単なはなしさ』
[故郷での人狼騒動の発端は、村一番の楽天家が祭りのために呼ばれた吟遊詩人に喰われた事だった。
いやに古めかしい吟遊詩人ぶりは芸人ゆえかと思っていたが、見た目より長く流離っていたのかもしれない。
彼は悪びれるもせず言ったものだ。
『自然に逆らってどうする?
月の満ち引きがどうして止められよう!』]
[寝物語に、人狼として堅実に生きる術を習った。
騒動中の作法も彼から教わった所が大きい。
『我らが麗しの月に、詩を捧げるのも
役目というものだよ』
彼は、笑顔の仮面の下の素顔を見せる事はなかった。
いつものようにヘラヘラ吟うコエが銃声と共に途切れたのが最期だった。
ローゼンハイムに添えた言葉が詩のていを成していなかったのは、青年の無器用ゆえである**]
[キスマークのよう、と称された淡い痕跡。
花開かなかったサシャの想いは数日と残らず、
オクタヴィアが遺した人間との訣別の証だけが
この身に刻まれるだろう。
きっともう、涙を流す事はない。
今日限り人間イェンスは死に、喰らった命とともに
人外として生きていくから]
……いろいろ、わからなくはないんだけどー。
何か、『お礼』しないと、ちょっと治まらないよね、これ。
[事情を説明するという形の丁々発止の合間、こんな呟きが落ちたのは已む無し]
[山中で朽ちていく筈だった獣が外の世界へ旅立ち
幾通りもの未来があった筈の人間が棺桶に眠る。
皮肉なものだ。
冷ややかに美しい月が導く運命は、いつだって惨い。
それでも歩んでいく。手を取ってくれる同胞と共に]
[村長が行方不明になってから数日後。
彼は、崖から頭から落ちて死んだ木こりの傍で発見された。
集会場の人狼の派手な痕跡と比べると、野犬の集団に嬲られたような姿で。崖崩れの復旧が進んでいた中、村長が予定外に山中にいた理由はわかっていない。
村人たちがこの件を深追いするか、
潰れた木こりの心臓が抜き取られているのに気づくのか。
そんな事は若狼の気にする所ではない。
……直情的に旅立つ前に事を起こしてから、ノイに助言>>-126を聞けば良かったと内心慌ててそれどころでなかったから。相変わらず、まだ『隠す』意識が芽生えてはいないようだ]
[村長の姿が見えなくなった、と。
その話を聞いた時、ちょっとだけ嫌な予感がした。
数日後、発見された二つの亡骸。
他者の目にはともかく、自身にはそれをなしたのが何かは一目瞭然で]
……もー。
旅立ってからの方が、後腐れなくできるでしょ、まったく……。
[まだまだ、宴の仕儀を『隠す』という感覚は鈍いのだな、と。
改めて思い知る反面、そこはちゃんと身に着けてもらわないとなあ、なんて。
過ったのは、そんな考えだった]
うん、じゃあ、まずは麓の村まで。
[最初の目的地は、一番近い隣村。
復旧間もない道は、抜けるのにやや手間取るだろうが]
焦らずゆっくり、進んで行こう。
[紅を抜けて勝ち得た未来へ向けて、歩き出す。**]
まあ、彼をひとりで放っておけなかった、っていうのは、間違ってないけど。
[ぽつり、零すのは月の囁きコエの内]
『……だから、それが珍しいって言ってんのよ。
あんた、めっっったに、同胞に入れ込まないのに』
[コエに返るのは同じ響きのコエ]
それは否定しませんけど。
……ほっとけなかったんですよ。
[己が在り方に真っ直ぐな若狼。
自分の在り様を無垢に認めてくれたもの。
それを、終わったからと言って放り出すのはどうしてもできなかったのだ、と。
告げたコエに返るのは、大げさなため息]
『ほんっと、甘いわねぇ』
あなたたち純血がスパルタすぎるだけです。
『ぇー、だってこの世は生存競争なんだから、厳しくするのも大事じゃない?』
それはわかりますけどね、っていうか。
彼に色々と教えてくれるのはありがたいんですけど、あんまりいじらないであげてくださいよ。
……まだまだ、純粋なお年頃なんですから。
[外の世界で人と対立する事無く糧を得る立ち回りや、身の隠し方。
そんな、自身には教えられぬ事を教えてほしい、と頼んではいるものの。
そのついでに、戯れのように艶事めいた冗談を仕掛けるな、釘を刺す]
『……はぁいはい。
…………ったく、どこまでもお堅いんだから』
[ぶつぶつと呟かれる愚痴は聞き流し]
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