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昔から夢を見ていたわ。
それは“私”の最期だった。
思い出したのは“こう”なってからで、
それからずっとひとつの答えを探しているの。
[銃口を意識から外し、フィオンの目をじっと見つめた。
彼は覚えているだろうか。遠い魂の記憶を。
蘇らせていてなお、思い出していないかもしれないけれど。]
……いつも食べられてしまう側の羊が狼になった時、
羊が狼の気持ちを知る事ができたなら、
[私は知りたい。
狼になった羊の気持ちを。
羊を殺す狼の気持ちを。仲間を殺した
だけど本当の望みはその先にあるもの。
知りたいこと。欲しいこと。]
また、魂が生まれ変わった時には優しい人になれるって。
そうなれたらいいねって。
……言ったよね、フィオンにぃ。
[
[フィオンの反応を待たずに床を蹴って残りの距離を縮めた。
何か言おうとしていたとしても聞きはしない。
銃弾は放たれたが、低くした身には届かなかった。
サイレンサーにより音は消されて
発砲の痕跡は壁の銃痕のみに留まる事だろう。
月の加護なのか、通常より大幅に身体能力は上がっていたから
これ武器を使わせるつもりも、音を出させるつもりもない。
腰のナイフにも入室時から気付いていた。>>2:81
フィオンの両腕を掴んで次の動きを封じると、
空いた首筋に牙を立て、
鼻腔を通る甘い香りを求めるように皮膚を食い破った。
震える喉が動かなくなり、体が崩れ落ちるまで
手の、牙の力を緩める事はない。]
[息絶えたフィオンの体を床の上に仰向けに横たえる。
胸当てはつなぎの部分を爪で掻き切って
服を開いて皮膚を裂く前に一瞬だけ目を閉じた。
食欲は昨晩の食事でほぼ満たされている。
なにより必要以上に傷つけるのは気が引けて。
申し訳程度に他の部位に口をつけてから、
胸の中心を奥まで切り開いた。
鼓動を止めたばかりの心臓はまだ温かい。
掌に包んで滴り落ちる命の雫が冷えていくのを感じながら、
瞳を細めて独り呟いた。]
……これで分かる、のかなぁ。
[命を支えていた筋に牙を立てる。
鋭く尖ったそれは易々と表面を食い破って
一飲みごとに心を取り込んでいく。
最後の一片までを腹に収めて、空になった胸を閉じると
力を入れすぎて折ってしまった腕をまとめて腹部へと重ね、
自身は本棚の影に背を預けた。]
[夢を認識して消えたはずの胸の痞えがぶり返す。
銃口を向けながら、フィオンが口にした最後の言葉を思い出す。
私を生かすための言葉だった。
だけどそれでは“ドロシー”の望むものに辿り着けない。
死ぬまでが今世の私の役割だから。
命を賭けた最後の願いに、
私はどう応えたらいいのか分からない。*]
[引き出しにしまう直前、手記の最後をもう一度辿った。
この発症者の気持ちを本当に知ることはできないけれど。
最後の言葉は、きっと同じ。*]
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