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[夜半、人の子が眠りについた頃。
彼らには聞こえない遠吠えが高らかに響く。
向かう先は、月光を入れるためか細く扉が開いた
角部屋のローゼンハイムのもと。
月明かりを吸って咲くかのような薔薇に夢中の
男の背に、黒い狼が音もなく飛びかかる。
惨劇を背景に、薔薇の花びらだけが無垢だった]
[夜半に響く遠吠え。
それは、月を眺めてぼんやりとしていた意識を揺り動かす]
…………。
[始まったか、との思いはコエにも声にも乗せる事はなく。
新月の名を持つ者はゆるく、天上を見上げてひとつ息を吐いた]
[月は冷ややかに美しく、
ローゼンハイムの部屋に咲きこぼれた命の鮮やかさは
今も目に焼きついている。
狼は歓びのままに駆け、吠え、屠った。
獣の本性のままに荒らし、人の知と手で遺体を整える。
それが純粋な人間にとってどう映るかは埒外だった。
犠牲と悲痛を捧げる宴が始まる。
満たされた腹を押さえながら、男は花束になるほどの
供物が得られることを天に祈っていた]
……おはよう、ノイモーント。
名残が尽きない朝だ。
どうか、あなたも思うまま行けますように。
[昼の顔を取り戻そうと高揚を落ち着けながら
イェンス・アーベントロートの一日が始まった]
[問いを投げつつ、思考を巡らせる。
この状況は、ある意味では好機だ。
こうなった以上、人間は断罪の刃を求め、振るう。
その矛先を若狼から逸らすための贄を仕立てるための。
墓守の青年が人であると確信している者の存在は未だ知らぬけれど]
[『ひと』という言い回し。
そこに込められるのは、月の同胞、という意味。
言葉遣いと言い回しで場の主導権を取るのは、商い暮らしの中で身についたもの]
……何がどう役に立つかわからないというか……。
[それでも、さすがにこの使い方は複雑なものがあるのだけれど]
そうだねぇ。
『嘘』は言わずに、けれど、『本当』も全部は言わない。
それが基本だから、この稼業。
[偽りは綻びをもたらし、結局は大損に繋がるもの。
だから言葉を選び、巧みに益を積み上げるのが吉、とは商いの師の教えの肝だった、というのは今ではよい思い出のひとつ]
……殺される気は、ないよ、一応。
爪も牙もないけれど、刃を振るう力くらいはある。
[状況が状況だけに、どうなるかなんてわかりはしないけれど。
裏切る意思はないのだ、との思いはコエに確りと乗る]
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