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[人の姿に似ていても、口の中には小さな毒牙を秘めている。
獲物の身体を侵し、痺れさせ、身体の自由を奪う毒が。]
このまま、 離したくない …
[どこへも行くなと息だけで呟き、ぬくもりに抱き着き絡みついたまま安心したような眠りに落ちていった。]
[赤い蛇身がうねり、拘束された天使の身体を這う。
掠れた声が太陽と名指して天使を求めた。
切ないほどに真摯な祈り。
その口元に運ばれた指に鋭い痛みが走る。]
──…っ !
[反射的に身体を強張らせたものの、天使は努めて平静を保った。]
[ギィは不意打ちに投げ出された先でひとりで戦うことを強いられ、水の冷たさに弱って縋ってきたのだろうと思う。
馴れ馴れしい接触には罰を与えるのが常だが、それとこれとは話が別だ。]
…怖がることはない。
[傷ついた隷魔に言い聞かせ、身体に巻きつくを許して癒しの光を注ぐ。]
[ほどなくギィは眠ったようで、身体がくってりとなる。
だが、天使にのしかかる重みはそればかりではなかった。]
…っは、
[身体が引きずられ、横ざまに膝を崩す。
麻痺毒だろうと見当はついたが、故意に噛まれたとは思っていない。
朦朧としているうちにしてしまったことだろうと。
自身の傷を癒すことは不可能だ。
敵に見つからぬことを願いつつ耐え忍ぶ。]
[この地の異変は看過できぬ規模だ。すぐにも天に伝わり、対策がなされるだろう。
天使はそれを疑わない。
眠りに逃避することもできず、手を抜くということもしない天使は、この間にも神具の行方を探した。
だが芳しい反応は得られないまま。 不安が胸をかすめる。
もはや神具は破壊され、あるいは闇の手に落ちてしまったのだろうか。
いずれにせよ、こうなってしまってはギィが保釈されるということはあるまい。]
[毒におかされた感覚はいよいよ鈍くなり、天使はギィの身体を潰さぬように苦心しながら、泥から艶やかな闇に変じた室に横たわる。
視線の先には、このまま、と甘えるように零して無防備な眠りについたギィの顔があった。]
主よ、 願わくば この者が苦しまぬよう──
[問われた言葉は、意図的に黙殺していた。
言いたくない、と言うよりは言い辛い。言ったあとのことが怖い、と言う方が正しいだろうか。
だが、質問をあえて避けようとせずともその後に続く少女の言葉と行動に慌て、答えるどころではなかっただろう。]
そういうのは、特殊なモノたちだけだ!
[この場合のモノというのは魔族や人間等を指すのだが、相手に伝わったかどうか。]
僕も首輪を使っただろう?!
お前もそうするなり、力で屈伏させるなりすればいいと言っているんだ!………っ!
[風が、まだ一段と強くなった気がした。目の前の少女は今、とても不安定で、少しのことでも一気に魔力を暴発させる可能性があった。下手に言葉を誤魔化すのは危険。
その事を改めて痛感し、眉根を寄せる。言ったあとが怖いだとか、男のプライドが、とか。そんなことを言っている場合では、ない。]
お前に触られるのが嫌なんじゃない。
こういった行為自体が苦手なんだ。その………
昔、嘲笑われたことがあるから……
[ふい、と顔をそらした。このような行為は初めてではなかった。だが、不馴れな己は馴れた相手に散々嘲笑われ、行為は出来たもののとても苦い思い出となっていた。それゆえ相手を従属させても性処理をさせることはなかったし、させようと思ったことすらなかったのだった。
急に強まった風が衣服を濡らし、溶かす。濡れた部分が妙に寒く、自らの体を見下ろし惨状に言葉を失った。]
[相手の強い口調に、暗い影を落とした表情だったものの一瞬怯えたように震えて顔を上げた。
相手の告げる言葉。
泣きそうな顔になりながら…否、実際に涙を零しながら。濡れ、衣服が辛うじて身に纏うような状態になっていても構わずに。
震えながら相手を見つめていた。
涙は止まる事を知らない]
…でも、私はそれしか知りません!
人間を従属させる術式なんて知らない、貴方のように人間を縛る首輪もない!
力で屈しさせろと言われても…。
これだけの力の差があって。
…貴方は、私のモノになっているんですか……?
[両手で顔を覆う。どうしたら良いか分からない。
自分はただ、相手に自分と同じ傷を負わせようとしていただけなのか。
相手もまた、嘲笑われたと、傷を負っていたのに。
ひく、ひっく、と泣きじゃくる声が風の音の合間に混じる]
『ならば殺せば良いだろう?』
『手に入らないならば、壊してしまえ』
『お前は魔族だ、人間など、全て殺せ』
『そして、魔に帰るが良い』
うる……さい、です……ね……!
[少女にしては怒気を孕んだ声は、目の前の青年に向けて放たれたものではなかった。
ゆらり、立ち上がると二歩、三歩と頭を抱えながら相手から離れていく。頭に囁きかける声に、ズキズキと酷い痛みが伴っていた。
眉を顰めきつく目を閉ざし、はあっ、と震える息を吐く]
私は……、それでも、幸せだったのに!
シェットラント様と旅ができて、幸せだったのに!!
モノとしか見て貰えなくても、いつかは、信じて貰えるんじゃないかって!
いつかは、……いつか、は……。
だから、私に……。
私に、シェットラント様を殺させないで!!
『シルフィード・ステップ!!』
[短い詠唱と共に、後方に勢いよく飛ぶ。より、相手から離れるように。
ギリギリと締め付けられるような頭の痛みは限界だ。
あいてが、自分のモノにならないなら。
それを。相手を殺す理由にするくらいならば]
[ーーいっそ、じぶんが]
[ただ、最後に一言]
[サヨナラ、と]
[小さく呟かれたその言葉は届いただろうか]
[空高く飛んだ少女の周囲に生まれた無数の風の刃は、少女自身を切り刻む]
[悲鳴すら、あがらない]
[自らの風の刃でその身を、切断出来ずとも切り刻んだ少女は]
[血を滴らせながら、ドサリ、地面へと堕ちただろう]
ー回想ー
[ ニンゲンの身体は、思ったよりもずっと心地が良かった。
緑に寝転ぶと草が髪に付く。
鼻の頭に露を落とす蕾。
自分の手で囀る小鳥。
黄色の双眸に反射する煌びやかな宝石。
何でも触れた。
感じるこころがあることを確かめるように。
傷付きながら、傷つけながら。]
[ わかってる。
私は望んでこうなった。
薄い毛布の中で、寝たフリをしながら呟く相手の声を聞くこころが欲しかった。]
( ぼく、でも…リヒャルトでも……)
[ 何度も心の中に押し込む。
相手に触れるたびに肺を真綿でしめつけられる心持ちで。
どうしてだろう、この身体は、思ったよりもすごく重たい。
過去の産物として捨てられる悲しみは、深い水底で息が止まる程に苦しかったから。]
[混乱と共にあげた声は、相手を怯ませたようだった。はっと我に返り、自己嫌悪に眉根を寄せる。そして、首輪がないという相手を再びまっすぐに見つめていた。]
……あの首輪は、魔族だけにしか使えないものじゃない。
お前が望むなら、僕につけることで従属させることも可能だろう。
……僕に売り付けた店主の言葉が正しければな。
シュテラ…
[怪しい露店商の言葉を信じるのなら、取り付けた相手は取り付けた主に服従するということだった。それは魔族であろうと人間であろうと思いのままだ、と。だご、それが本当かどうかはわからない。そう告げながら肩を竦ませていた。
涙を流し、しゃくりあげる少女を見上げ、その頬に手をあてようと腕を伸ばし。
しかし、急に怒気を孕んだ声をあげる様子に、挙げられかけた手がぴたりととまる。立ち上がり、ふらふらと後ずさっていく様子を見ながら男もゆっくりと体を起こしていた。]
シュテラ…?どうし…………、シュテラ!
[相手の紡ぐ言葉は、自分に向けられているのではないようだった。まだ、何か自分には聞こえない声が聞こえているのかもしれない。今まで何度も聞いた短い詠唱呪文が叫ばれるのを聞けば、引き留めるように相手の名前を呼んでいた。
このまま飛び去ってしまうのかもしれない。そんな思いに囚われていた。だが、事態はさらに酷いものとなっていた。]
シュテラーーーーっ!!
[自らの体を切り刻むように、少女の操る刃はその細い体に襲いかかった。糸が切れたように落下してくる体を受け止めようと走り出す。間に合え、と強く念じながら。
間に合ったにしろ間に合わなかったにしろ、その風のように軽い体を抱き起こしては回復呪文をかけようと詠唱を始めていた。]
………キュアーズ。
[柔らかな光が掌から溢れるように拡がっていく。翳した相手の体にもその光は降り注ぎ、わずかに暖かな温もりを感じられたことだろう。]
[芳しい風の吹く丘の上で穏やかな日差しを浴びながら微睡む。
そんな夢を見ていた。
地底にある一族の棲家では、めったに味わえない贅沢。
ぬくもりに包まれて、癒される。
身体も癒され心も満たされて目を開けば、腕の中には眠る前と変わらぬ天使の姿があった。]
─── いた。
いなくなってなかった。
[喜色は、郷愁の色も宿す。]
あの時、目を覚ましたらひとりだった。
それがどれだけ寂しかったかわかるか?
あの日からオレはオマエを探していたんだ。
ずっと、ずっと探して、天界にも行って、
やっと見つけて、オマエを地上に誘い出して、
[絡ませた蛇尾で天使の肌をまさぐる。
全てに触れたいとばかりに絡みつき、うねって鱗を滑らせる。]
ようやく、こうして、オマエに触れられたんだ。
オレの太陽。
オレは、おまえが欲しい。
欲しくて、欲しくてたまらない。
オレのものになれ。
[解き放たれた欲望のままに告げ、確かめるように幾度も舌先で天使に触れた。
頬に、耳に、唇に、真っ赤な舌が濡れた痕を残していく。]
[首輪が本当に効いたのだとしても、違うと思うだろう。
違う、違う、そんな事を望んではいない。そんなんじゃない。
信じて欲しかった。
でも、どうすれば良いのか分からなかった。
…哀しい、と思う。
でも、矢張り分からないのだ。
どうすれば良かったか、なんて]
[相手に受け止めてもらえた事を、少女は知らない。
多くの血を流し気を失っていたからだ。そのまま、死んでしまうつもりだった。殺したくはないのだ。どうしても。どうあっても。
少しでも、彼によって自分は希望を見出せたのだから。
幸せ、だったのだから。
だからきっとこれは多くを望みすぎた罰なのだと。
相手の衣服も体も血に染まったかもしれない。
無数の傷口はそれでも、ゆっくりと閉じていく。この地にいた事が、幸い魔族の少女の自己治癒力そのものを高めているのだろう]
う……っ。
[全身が軋む。暖かな何かに包まれている気がした。眉を顰め小さく呻いては薄っすらと目を開きーー生きていること。そして、頭に響く声が続いている事に絶望する。
ぐっと相手を両腕で突き放そうとしたが、そもそも筋力は人間の少女のそれとほぼ変わらない、しかも全ては回復していない腕ではどれだけの力が込められていたものか]
だめ、やめてください……っ!
私は、…シェットラント様を……っ。
きず、つけ、る……。
[先程の言葉も。何より、こんな事に魔力を使ってはいけないのだ。
自分が居なければ自身で身を守らなければならないのに。
ぐっと拳を握り、ふるふると頭を振った]
…私なんかに、魔力を使うのはいけません。温存、しないと。
だから、やめてください…。
夢を見ていたんだな。
[目覚めたギィの吐露に、そんな理知的な判断を下したけれど、やけに具体的な説明と計略の告白に眉を顰める。
どこか心をざわつかせるその言葉を追いやるように命じた。]
回復したのなら、起きなさい。
この地は、おまえにとってもわたしにとっても良からぬもの。
毅然として対処せねば。
[天使を獲得せんとするギィの口調に報復の色がないことは見てとっていた。
身体を這い回る鱗と舌の感触は、麻痺のせいで鈍いままに未知の刺激を与える。
天使はぎこちなく身体を躙らせた。]
純粋なる者よ、
陽の温もりを求める本能がおまえの中にあることを疑いはしない。
けれど、それは欲望の形で発露してはならないものだ。
ただ、感謝をもって応えなさい。
わたしは神のしもべ。
おまえのものにはならない。
[互いを尊重し、交わす視線と承認で満足しなければ、それ以上は罪となろう。
そして、この天使は他の者よりなお厳しい洗礼を受けているのだった。
かつて一度、無垢なる魔を慈しんだゆえに。
諭して聞き入れられぬのなら体罰をもって遇するつもりだったが、ギィの耳に見慣れた煌めきがないのを知って表情を曇らせる。
少しばかり、切ない。]
[なんとか少女を受け止めることは叶ったようだった。頭上から落ちてくる少女を辛うじて受けとめると、その場に膝をつき少女を支える。明らかに回復呪文だけではない治癒速度で、少女の傷は回復していく。
回復呪文を何度か続けてかけると、少女は息をふきかえしたように小さな呻き声をあげた。小さく安堵の息をはいては、じっと少女の顔を覗きこむ。]
よかった……、シュテラ……。
お前が僕を傷つけたことなど、一度もない。
首輪が外れていてさえ。
それに……僕はまだお前に従わされてはいないから、僕の好きにさせてもらう。
[傷つける。そうはいいながらも、未だ一度もやいばを向けられてはいないのだ。
それが少女の理性によるものだとしても、男を傷つけるよりも自分を傷つけることを選んだことを思えば、やはりこれでいいのだろうと思えた。]
僕は、お前を置いていく気はない。二人でここから出るんだ。
どうしたいかわからないなら、これからゆっくり考えればいい。
[生きて、帰ることができたのなら。その言葉は口にはできなかった。正直、二人生きてここから出られる確率はかなり低いと思われた。それでも絶望を口にすることはなく。ただ、言葉少なに、相手へと語りかけていた。]
[良かった。そう言ってくれる相手]
[そして、脳裏に響く暗い声]
ダメ、いや、やだ……!
[譫言のように呟いては頭をイヤイヤと幼子のように振っていた。
しかし今は自身が弱っているからか、魔力が回復していないからか、弱い風が辺りの湯気を軽く散らすのみである]
考え、られないん、です……。
怖い、この声は、狂わせる……私を……。
手に入らなければ殺せって、奪えって、……いやっ、や、だ、…!
[魔力が回復しきっていないのが幸いだろう。それは攻撃的な風に変わることは無いが、弱り切った少女は青年の腕の中で小さくなり頭を抱え込む。
2人で抜けるにしても。
この声の影響は強すぎた。ただ只管小さくなり涙を零し耐える少女が]
[果たしてこのまま、いつまで保つものなのかーー]
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