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何を書けばいいだろう。
ペンを持つ前は、落ち着こうと思っていたんだ。今は初めて恋文を書く少女のように、何もかも書きそうになっている。
刺繍は、母上から合格を貰って、ようやくヴェールに刺し始めた。とても緊張するね、これは。
歩き方はまともになってきたようだ。スカート姿でも歩き難いとは思わなくなった。
婚約の話を始めて聞いた時、確かに何かが欠けたような気持ちになった。
今はそんなものは微塵も無い。
私の中は、色々な感情でいっぱいだ。不安もあるけれど、それすら嬉しく感じるんだ。
手紙を読んで、もうひとつ、新たな喜びを得られた。
子、と。
その言葉に、目が覚めるような思いがした。
私は自分が親になる事などないと思っていたから。
貴女と共に、私達の“子どもたち”を慈しみ、守っていきたい。
父として、母として。
大きな家族になるのだな、私達は。
とても素敵だ。
また長々と書かぬように、今日はこれぐらいで筆を置こう。
愛をこめて
ギレーヌ
[先の手紙で書き損ねた言葉を、今度は添えて。
便箋の色は薄く薄く紫の色。]
[続く便箋が一枚。]
追伸。
同封の品、宜しければ貴女の身近に置いていただけないだろうか。
扇と、もうひとつ、鹿皮の手袋だ。
扇は異国の品と聞いた。シンプルだが凝った透かし模様だろう? 蝶の羽根が美しい。
手袋は、私が仕留めた雌鹿の皮で作らせた。
柔らかく、手袋を嵌めたままでも指を動かしやすい。これからの季節に、使ってくれ。
アデル・ヴェステンフルス様
先だっては手紙をありがとう。
いろいろと忙しい折であることは承知しているので、返事は手の空いたときにでも書いてくれれば充分です。
ラートリーさんとのご婚約、おめでとうございます。
先日ラートリーさんからも聞いたよ。
少年だと思っていたのに…というような内容があったので、これからは、大人の男としての魅力を、見せつけて行ってくれ。
私も、二人の晴れ姿を見ることを楽しみにしているよ。
登山靴!
それはいい。もちろん、随一の靴屋を紹介しよう。
アデルの靴を作れると知れば、きっと大喜びだよ。
挙式にいらっしゃるときにでも、サイズを確認して、作らせよう。
靴は自分に合ったものがいちばんだから。
それから、巻貝をありがとう。
こういうささやかな心遣いが、アデルらしいなと思ったよ。
俺からは七領で作ったワインを贈る。
ぜひ、夫婦で飲んでくれ。
ディーター・ドゥカス
オズワルド様
こんにちは、お変わりありませんかって、目まぐるしくいろいろ変わっているときでしょうね。
実直? ほめているんですか? ほめても何も出ませんよー。
四領ではイカは干さないんですか。塩漬けを作ることもありますが、干物は腐らないし、おいしいですよ。
旅に持って行ってそのままかじってもいいですしね、硬いけど。
ええ、ぜひ貿易をしましょう。
船は危険も大きいけれど、成功した時の利益がバカでかいですからね。
と、まじめな領主様を見習って、仕事の話をしてしまいました。
海路のことは、現領主の伯父にも話しておきます。
……でも実際の作業をするときには、ベルティルデのほうが指揮をとっているかもしれませんね。
私と似合い? そんなことを言ってはベルティルデさんに失礼では? なんて、似合う男にならないと。
あ、アウスレーゼ領主と!??
違いますよね? その娘さん…シルキー嬢と噂で聞いています。
でこぼこかもしれませんが、世間的にはよくある組み合わせかと思いますよ。
若く可愛いお嬢さんをお嫁になんて、世の男性の憧れじゃないですか。
俺みたいな…なんて思わずに、堂々としていれば、充分、似合いの夫婦になると思います。
……プロポーズ?
「王都から命が下った」と向こうから来たから…、そうだね、と返しただけですね。
………必要、でしょうか。
決められた婚姻、であっても。
では、会ったときには言わないといけませんね。
オズワルドさんは、なんて言ったんです?
ディーター・ドゥカス
ベルへ
手紙をありがとう。
初めのときより、ずいぶん打ち解けてくれた文章に感じて、とてもうれしい。
もっと、構えず接してくれて構わないからな。
早速、ベルと呼ばせていただきますね。
浮かれて変なこと? 書いてくれたら俺はもっとうれしい。
親しい友人からはディーと呼ばれたりもするが、君の好きにしてくれ、呼び方も、タイミングも。
婚儀の席では、確かに緊張するでしょう、俺も、きっと、あなたの美しい花嫁姿に我を忘れてしまうだろう。
少しくらいドジをしても、見とれていたということで、そのときは大目に見てほしい。
練習した笑顔は領民のためでいい。
俺には、素直な君を――ベルを、見せてほしい。
ベルの心からの笑顔が、きっと俺の幸せだから。
……ところで、聞いてもいいだろうか。
君の理想とする夫婦とは、どんなものだろう。
俺は漠然と、幸せであり続けること、だと思っているが。もし君に描いているものがあるなら、ぜひ、共有させてほしい。
ディーター・ドゥカス
私の可愛らしいお友達 ラートリーへ
御機嫌よう。
もしかして婚儀の準備の忙しさのお邪魔になってはいないかと、少しだけ心配です。
でも、こうして懲りずに手紙を書いているのだけど。
私がラートリーを大好きな友人だと思っていることを、
貴方の旦那様候補のアデル様に語らせていただいても、
きっと負ける気がしないと思いますよ?
河川の魚は、海で獲れる魚と違い、泥臭さのあるものも多いために独特の処理が必要なこともあるようです。
我が領では燻製にすることが多いのでそこまでは気にしていないのですが…。
大抵のお魚は釣りたてを塩焼きにすると美味しい、と漁師が言っていましたので、試してみたいものです。
第七領、第八領ともに海も川もあるので、様々な釣が楽しめそうで、今から楽しみです。
釣りは得意ではないので、ラートリーや旦那様の腕前を期待しています。
大物が釣れたら、ちゃんと私にも分けてくださいね?
まあ、私がディーター様を尻に敷くだなんて。
けれど、内向きは女性の主張を通すことの出来る殿方が器の大きい方だとも言いますから…。
政務官での経験を活かしつつ、臨機応変に対処、…でしょうか。
…このように、政務官の意識が出てしまうことは、夫婦生活には、あまりよろしくないことかもしれませんね…。
もっと、可愛らしい女性として振る舞えたらいいのですが…、と思わないではいられません。
最良の友人を持てた ベルティルデ・バーデンより
〜 愛しい妻であり夫であるギレーヌ様へ 〜
改めて妻とか夫とお呼びすると照れてしまいますね。
本当は直接お会いした時にお呼びしたかったのですが、
先にしたためておいて良かったと思います。
他の誰でもないギレーヌ様だけの為の呼び方です。
書いている頬が秋の葉より赤くなった気がします。
やはりギレーヌ様とお呼びした方が馴染みますね。
前置きが長くなりましたが、お手紙拝見いたしました。
私の手紙が届くよりも早く出されたと自惚れさせていただきます。
ギレーヌ様のお心を聞けて感謝と喜びに私の胸は震えております。
あなたと一緒に歩めることが嬉しくて仕方ありません。
私の言葉がギレーヌ様のお心を少しでも良い方向に
向ける手助けが出来たのなら幸いです。
お会いする時を楽しみにしております。
お父様がスカートを履いて歩く様子を想像したら
少しおかしくなりました。
エレガントに歩くのは少し難しいとは思いますが
ギレーヌ様なら大丈夫です。
常にご自分は新芽の様に柔らかく、傷付きやすいと思いながら
指先にまで気を付けて見てください。
馬の上から見る世界は、あなたの隣で駆ける世界は
どのように見えるでしょうか。
命の尊さに私は更に成長出来るでしょうか。
どんな事も二人でなら大切に過ごせるでしょう。
祭りの踊りも一緒に踊りましょう。
楽団ではなく、農家や職人の方たちが楽器を鳴らすので
リズムはバラバラですし、音も取るのは難しいでしょう。
ですが皆舞踏会の様なすました顔ではなく、
本当に楽しそうに笑いながら踊るのです。
その輪の中で一緒に笑って踊りましょうね。
百合の花に重ねてくださるなんて光栄です。
あの花の様に気高くあろうと思います。
私はアゲハ蝶の刺繍をしています。
黒は使えないので金と白金の色を使っておりますが、アゲハ蝶です。
ご存知でしょうか。
アゲハ蝶は光の境を飛ぶそうです。
昼と夜の間を飛ぶ蝶の様に、私たちは領土の境を越え一つになり、
女性と殿方の二つの境をひらりひらりと舞いましょう。
一点残念が事があるのです。
お母様が蝶のモチーフから私が手を加えることを許して下さらないのです。
なんでも絵心は成長しなかったとかで。
仕方ないので今度ハンカチーフに私なりの刺繍をして
贈らせていただきますね。
この刺繍の糸がずっと伸びて、ギレーヌ様に届けば
良いのにと思っております。
子供の様な我儘ばかりでごめんなさい。
それでは花嫁修業頑張ってくださいね。
愛しています
あなたの夫であり妻であるアプサラスより
[取り留めなく思いついたまま書き連ねた便箋には
同封したものを際立たせる白を使って。
薔薇の香から一枚、一番良い形の花弁を封筒に。
赤いハートの形をした花弁に思いを込めて。]
ラートリー・アンダースン様
そちらは雪も深くなっている頃でしょうか?
お久しぶりです。お変わりなさそうでなによりです!
女性的…どうなのでしょう?お転婆と言われる始末ですけれどレディだっての!
やはり、ということは大合併法案のお話はラートリー様の所にも行っているのですね。
あの話をすぐ受け入れられるなんて…皆さまさすが大人だなぁ…!
でも、私も心配するほど子供ではありませんよ?
すぐにこそ受け入れることはできませんでしたけど、大丈夫。今は不思議とそんな風に思えるのです。
大人の世界はわからないことがまだまだたくさんありそうですが、お勉強です!
ラートリー様も、お幸せに!
ウェルシュさま
お手紙、お待ちしておりましたわ。
つい、宛名をフルネームを書こうとしてしまって、
今はおなじ姓なのだわ、とうっかりしてしまいましたの。
私は、憧れだった彼の人のご成婚を知りました。
けれど、憧れは憧れで、今もまだ憧れであり続けているのですけれど、
きっと、また、違う感情だったのですわ。
情緒の落ち着かない困った女と思われるかしら?
けれど、女ってそういうものなのだと、諦めてくださるかしら。
…なんて、私も、調子に乗っているみたいですわ。
貴方の、いのちのお話。
お話ししてくださって、ありがとうございます。
事情を知らず、軽率に尋ねてしまったこと、どうかお許し下さい。
貴方も、短い命だとは限らないのですわ。
運命なんて、分からないですもの。けれど、
もし、"そのように"なってしまわれても――
どうか、私を不幸だなどと思わないで。
私は、貴方と、結ばれたこと、無駄だとは思いません。
貴方と私の幸せを、これから作っていきたいと思っていますのよ。
共に暮らせる日が早く訪れることを、首を長くして待っていますわ。
貴方の妻、オクタヴィア
追伸.
アデルさまに、お星さまの貝殻をふたつ、頂きましたの。
どうも、ウェルシュさま宛だったみたいなのですけれど、
心当たりは御座いますか?
親愛なる アデル殿へ
間が空いたことは気にしないでほしい。
本音を言えば寂しくもあったが、病床と聞いてそんな考えは吹き飛んだ。無理はしてはいけない。今は健やかなようで、安心したよ。
どうか、次に顔を合わせる時には、元気なアデル殿でいてほしい。
その時には既に成婚していると思うと、不思議なものだね。
共に過ごせるようになったら
星や、月や、太陽や、――君の知識も、君自身のことも
たくさん、話して聞かせて欲しい。
私も今までの人生を語ろう。
互いを知り、互いを受け入れられたら、とても素敵だ。
然程時間はないけれど、私も女を磨くとしよう。
私の花婿さんの隣で、輝かしい月の如し花嫁であれるように。
君の伴侶となる ラートリーより
[相変わらずの古びた羊皮紙には、
淡く、ローズマリーの香りが染み込んでいた。
その花には結婚に因むお噺があることを、
ラートリー自身が知っているのか否かは、わからずとも。]
親愛なる友 ベルティルデへ
男女間の手紙というのは、やはり緊張するものよな。
弟の友の手紙が私に間違って届き開封したら、私の噂をされていた、なんてことも、今では笑い話だよ。
さて、もしかしたらそろそろ成婚の時期が近づいており
私が先か、ベルティが先かはわからないが、
手紙をやり取りできなくなるかもしれない。
こんなことを書くのは照れくさいけれど、
君は――ベルティは私にとって大切で、大好きな友人だ。
好きの安売りはしないからな!
私の友愛をありがたく受け取り給え。……なんてね。
私たち、それぞれが幸せになって、
お互いに幸せのお裾分けをして、もっともっと幸せになれる。
そんな未来に思いを馳せながらね。
それじゃあ、また。
ラートリー・アンダースン
…『レディ』ってあらためて文字にして綴られると、なんか違う気がする。
でも早くない。早くない。
あの話…言われた時は、受け入れられなかった。
『なんで領民たちと同じじゃダメなの?』って。
でもね、領民たちみんなを愛する権利や義務や責任が私たちにはあるって、だからこれは私たちにしかできない経験だって考えたら…なんかストンと落ちた。
恋は、してみたいけど…でも、それは貴方が教えてくれるのでしょう?そう信じてる。
だからお転婆娘じゃないってばぁ!!
これでも、音楽全般とダンスはできるのよ!リュートのセッションとか、どうかしら?
…………花なんか、いらない。『王子様』じゃなくても、いい。
花なんかよりもほしいもの…ここにあるんだもの。
[どう表せばいいのかわからず、こんな書き方ではあるが。花も『理想の王子様』も求めぬとする少女の想い。
―男には伝わるだろうか。]
ディーダー・ドゥカス殿
やあ、ごきげんよう。
理想の夫婦については、きっと女同士だから伝えてくれた部分もあるのだろう。なんといっても、ベルティとは親しき友だからな。
気安くという言葉に笑ってしまった。
そうだな、私と違ってベルティは淑女だから、
最初は恥じらいもあるだろうし。
けれど凛として立派な女性だ。
すぐに、打ち解け、笑い合えるさ。
お祝いの言葉もありがとう。
アデル殿とのロマンスは、年の差ゆえのときめき、
……いや、書いていて恥ずかしくなってきた。
詳しくはいつか式典などで自慢しよう!
お会いできる日には、直接二人に祝福を贈ろう。
ラートリー・アンダースン
[絵心なんてない男は、扉を書き足した手紙に花を押した。
小さい花、細い花、黄色い花、白い花、青い花。
鳥籠の中を巡る小鳥を導くように並べたのは、
第四領でよくみられる野草ばかり。
宮廷で王子が片膝を付いて姫君に求婚する為の薔薇でなく、
貴族が美しい娘の気を惹く為に束ねる百合ではなく。
ありのまま、自身が心揺れた花々で手紙をずっしりと重くする。
愛の言葉は知らないし、子供との付き合い方も知らない。
ただ、天真爛漫で屈託のない彼女に、
冷たいだけの結婚だと思われるのが嫌だった。]
[ただの一筆も綴れないのに、雄弁な花々が騒がしい。
封筒の中にも、遅咲きの銀木犀を沢山詰めて香りを移す。
その花言葉など無骨な男が知る由もないが、
案外間違って居なかったのは、きっと運命とやらの思し召し。
解答を足した手紙を封筒にしまい込み、封蝋を捺して。
最後は悪筆で綴った彼女の宛名に、
――― 少し躊躇い、頭を掻いて、周囲を見渡し、呼吸を整え。
引き寄せた手紙へ、秘して静かな接吻を翳した。
彼女へのエスコートを願い出るように、恭しく。]
身体は心についてくる。
太い腕を持つよりも、お前さんの優しい心が雪を解かす。
―――…真摯に、扱ってやりな。
姐さんはきっと、アレでいて……、結構、乙女だ。
オズ
[成婚間近と云うことで、貞淑を是とする国教に従い、
彼へ対する手紙は短いが、的は射ていると自画自賛。
最後の署名だけは、親交を発露させるよう、
領主としてでなく、友へ綴るように。]
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