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[心収まらぬままにコップの中身を飲み干せば、彼の顔を見る余裕は出来ただろうか。
顔を上げれば彼は入ってきた扉の方を向いており、その視線を追いかければ男の目にも扉が光るのが見えただろう]
──…え? あ、ああ
[急かすように手を取られれば、取られるままについていく]
…………
[「もういいみたいだ」ということは、それがわかるということは、彼は過去に何度か同じような現象にあったのだろう。
そう思い至った瞬間、上がった筈の男の体温が急激に冷えていくような気がした]
[手を引かれて出た先は、小屋に入る前と同じ──…いや、似た空間。
据えた臭いは同じだけれど物音はしない。ただ以上な魔力の存在を感じることもないから]
──…そうだね。
[彼の言う通り、もう大丈夫なのだろう。
大丈夫なのだろうけれど──…
男は浮かんだ"怒り"を抑えようと手を強く握りかけるのだが、その手は彼の手と繋がっているのだと思い当たりすぐに手から力を抜いた]
──…
[
ここから出たら大騒ぎになる。
彼の言うそれは確かな事だとは思う。
このままなにもしなければ、別れの時は近いのだろう。
当初の予定より早まってしまったのだろう。
でも男はそれを知ってしまった以上、そのまま別れるつもりはないのである。
別れを早めるどころか、遅くすることさえ考えているのだ。
だから、彼の言葉への返答は──…]
[
返事の代わりに魔法を発動し、男は彼をぐるぐる巻きにした。
引き倒すつもりはないから、倒れないよう抱き止めて。
ローブの中に手を突っ込み、その頭を撫でるようにぽすりと置く。
]
──…シメオン君。
さっきの移動が君の仕業じゃないなら、君はこれを起こしてる誰かに一回怒った方がいいよ?
[
結果的には助かったのだろう。
けれど、小屋に入ってしばらく彼がそこが自身の家だと気づかなかった当たり、確実に当人の了承はなかったのだろう。
プライベートな空間に、心の準備もないまま他者を招く羽目になってるんだけど?
今回は本当に彼のための空間だったわけだけど、似せた状況に陥らされたら彼はどうなってしまうと思う?
次も助けるから問題ない? 過保護なことで。
]
[
彼の危機感の無さが超常現象への慣れからのものならば、育つべきものを育てられない環境にし続けたということだ。
安全なケージの中に押し込められた愛玩動物と何が違うのだろう。
そこまで考えれば、男は地底で見た悪夢の中身やその話をした際の彼の反応にも得心がいって。
玩具の取り合いのようであったと思い出して]
君はこのなにかに何度も危機を助けられたんだろうけれど……
その危機のいくつかは守られ過ぎてなきゃ、守られることに慣れすぎてなきゃ、自力で避けられたんじゃないか?
それと、こういうことが何度もあったなら、守られたことで生きづらくなってない?
君のためにしてることだとしても、やっぱり一度怒るところなんじゃないかな。
[
そういえば、あれ誰だったんだろ?
あの子には感謝しなきゃだな……
悪夢の中、玩具を取ろうと伸びてくる無数の手の前に、小さい姿で癇癪を起こしながら泣き喚きつつも、男の立ち塞がり続けた誰かの姿を思い浮かべた]
怒りたいけど急に守られなくなったら生きていけないっていうなら、僕のとこに来たらいい。
僕には超常現象は起こせない。
けど、人の身でできるくらいには守るし、完璧とは言えないけど、いくつかの生き方を示すことだってできる。
あと、君を守る誰かにも、これ聞こえてるだろうし、ちょうどいいから言っておく。
僕は、人の力を凌駕する何者かに喧嘩売るくらいには、君の事が好ましい。
惚れた腫れた、好きだとか愛してるとかは、わからない。
一生面倒見よう、君の人生の責任とやらを負ってもいいって考えるくらいには、君を放っておけない。
[
下手をすれば恋や愛より重い言葉であるのだが、比較対照になる恋や愛を測れない男には、残念ながらその自覚はない。
彼の返答が是であれ非であれ、男はそれだけは伝えたかったので、言い終えれば彼を唐草から解放したことだろう。
ちなみに彼が非と答えるのなら、また僕みたいなのが現れるまで護ってやってくださいと、
超常現象を起こす何者かの前に跪き、靴を舐めるくらいはするつもりではある。
*まあ、それが言っちゃった責任ってやつだよね*]
う、え?
[背後でローランドの声が唐草を呼ぶ。同時に飛び出てきた唐草を避けるなんてできなくて、あっという間にぐるぐる巻きになった。
苦しいほどじゃないけど咄嗟のことに反応できなくて、倒れかけた体をタイミング良く受け止められた]
ローランドさん?
[起きあがろうとしたけど、伸びてきた手が宥めるみたいに頭を撫でるから。心地よくて、そのままにすることにした。
穏やかな声で、先程の現象を起こした存在に──正確にいうなら存在達に、怒ればいいと言われれば]
う、ん。でもこう、皆俺の為にしてくれてる、から……実際助かってもいるんだよ?皆悪気はないんだよ。
[なんて、庇ってはみるのだけど。
その為に、生き辛くなってるんじゃ、と言われて目を逸らす程度には、その通りなのである]
[怒った方がいいんだろうか。でも怒ろうと思うにはあまりに馴染みすぎていて、怒りが湧いてこないのだけど、怒らなきゃいけないんだろうか。というか]
ローランドさんが、怒ってる?
ん……分かんない。確かに、一か所にいられなかったのは、そのせいだけど…困りはした、けど、怒ってはいないからなぁ……
[シメオンのこれを知れば、みなそれにあやかろうとして、むしろもっともっとと言われてきた。だから、シメオンを守る存在に怒ろうとする人なんていなかった。もう守るな、なんて初めて言われた]
俺がいたら、たぶん迷惑かけるよ?俺、たぶん一般知識知らないもん。でもさ……
いてもいいなら、俺、ローランドさんと唐草と、一緒にいたいなぁ。
[やっぱり恋愛感情とかは分からない。けど、それが許されるなら。
そう答えたいって思うくらいには、ここにいたいと思ってるんだ*]
[この騒ぎが終わればきっと大騒ぎになる。
先程自分で言った言葉よりも明確に分かった事実として。自分がローランドの元に今のまま留まれば、彼に迷惑をかける。
かといって幸運がない自分というのは、ちょっと想像がつかないのだ]
えーと……でもあの、俺めっちゃ迷惑かけると思うよ?あのさ。あの。幸運もそうだけど、俺の回復魔法って暴発しやすいんだよ。フードがないとすぐ暴発して、周り無制限で、魔力切れて倒れるまで回復するようになるし。
あー……和平が成立すれば、ちょっとは狙われなくなるかなぁ?
それに俺あんまり人と長期間関わったことなくて。えーと。
[ここに残りたいとは思うんだ。だから最初にするりと出た本心を覆い隠すように言葉を繋ぐ]
……。
[残りたいというのは本心だけど、人と関わらなさすぎて人の中で生きる自分、というのがイメージできないんだ、と言ったらどう言われるんだろうか。
話は終わったとばかりに解かれる唐草を名残惜しく眺める。もういっそここに残れと言われれば、言われるままここに居つくのだろう。けどたぶん、彼はそうすることもしないのだろう]
──あの、ね。
[色々言ったけれど。不安はとてもある。迷惑かけたくないなぁ、とも思う。けど]
ええと、例えば、お試し期間?みたいな?のから、挑戦してみる、とか?
そういう……
[そう。色々言い訳してみるけど、結局のとこ]
俺、ここにいていいのかなぁ……
[最初に出た言葉が紛れもない本心だし、極力人と関わらない生き方が寂しくない訳でもなくて。
諦めなくていいと言われるなら、くしゃりと緩んだ涙腺を隠すようにぎゅうっと抱きつこう*]
[ここにいたいと言うのなら、その選択に否を告げるつもりはない。
迷惑をかけると言われても、その迷惑込みで人にできうる範囲でなら守ると言ったんだ。
お試し期間?望むところだ。
お試し期間中に、考えうる"迷惑"への対処法を練り上げてしまうだけだ。
両国の和平なんて素晴らしい大義名分もあることだ。ゾラントの人間とアーケシアの人間を巻き込んで混血児達がなにかをするにはちょうどいい。
だから今は──…]
いいよ、おいで。
[悪巧みは胸の中にしまいこみ、胸元が濡れる感覚には気付かない振りをして、抱きつく彼の頭を撫でよう*]
[赤錆の街に戻れたのはそれから二ヶ月後の事だった。
いくつかの襲撃を処理しつつの"大半はよくある旅路"というなら少し遅く、食べ歩きつつの旅路と考えれば予想より早い。
そんな旅路の中で思っていたことが一つあった。
──迷惑、あったかなぁ……
襲撃はあった。誘拐目的も暗殺目的のものもあったのだが──…男にとってはよくあることであったから、迷惑と言われてもピンと来ない。
誘惑目的のものが出てきたことには驚いたけれど、男も一応アーケシア側の血筋としては凄いらしいから、シメオンのせいとも言い難い。
シメオン君が愛人扱いされたから、お祖父様の継承権云々を簡単に辞退できたってのは、シメオン君への迷惑で僕へのじゃないし?
……んー、迷惑はこれから起きるかもしれない?
ま、オズとクレさんに相談してみよ。
]
[彼に幸運について言われた際、男は自身を"悪運の持ち主"であると伝えていた。
それは決して誇張ではない。
また、奴隷ではないのに奴隷紋を打たれて鉱山に閉じ込められ、生き延びて街の実権を乗っ取り、中立地にしてしまうおうなんて……
敵と味方を作りながら暴れに暴れている彼とその仲間達の生き方は、人がかけられる迷惑を飲み込めるほど波乱に満ち溢れていたのである。
ただそれも、男達にとっては"人にとって当たり前に生きられる方法"を求めた結果でしかない。
だからなのか、男が悪友二人にやってくる迷惑について相談した際、真っ先に飛び出てきたのは──…
『なるほどわかった。俺は"隕石が降る"に一週間分の夕飯を賭ける』
『じゃあ私は"モンスタースタンピードが起きる"に賭けようかな』
『そうか、そのレベル! なら僕は"疫病"で』
なんて、シメオンが考える迷惑よりずっとスケールの大きな迷惑の話だった]
[尚、一年と期間を決めた賭けの結果は、隕石に賭けたオズワルドの一人負けであった事を先んじてここに伝え、
迷惑は起きたものの、予測して賭けたついでに対策を練っていたものだから、被害らしい被害は起きなかった事も追記しよう。
スタンピードも疫病も人為的なものだったので、その分はきっちり首謀者にお支払いいただいた。
また、疫病への対策を進めた結果、赤錆の街には薬学者が集まることになり──…街は更に発展することになったのだが。
経緯が経緯だけに、街のとった政策の結果なのか、シメオンの幸運によるものなのか。
答えはどこぞの神様達だけが知るところであり、地を行く人々には判断がつけがたい]
今日までオズの奢り。最終日だしパーっと使おうか!
シメオン君はなに食べたい?
[後ろで悲鳴が聞こえたけれどきっと気のせいということに片付けて、傍らにいる彼を食事に誘うのだった*]
[ローランドの元に転がり込んで数ヶ月、ここまで一か所に長居したのは初めてだ。
シメオンがいると迷惑をかけるのだ、と思い込んで過ごしてきたが、今迷惑をかけているか?を考えてみると──いや、実際どうなのだろう?
初めのうちは、恐る恐るだった。ローランドの背中ごしにみる世界は思っていたよりも。
思っていたよりも、はるかに波乱に満ちてるな?]
[予想外に色々起こる事件達は、襲撃も誘拐もシメオンの斜め上でこれ明らかにシメオン関係なく起きてるよね?って内容が大半だから、恐る恐るだった同居はいつの間にか気にならなくなり、そうなると居心地の良さだけが残ったんだ。
ローランドの祖父に彼の恋人って勘違いされた時は慌てて否定しようとしたけど、わざとらしく腰を抱かれたから、これ否定しない方がいいやつなんだろうなって予想がついた。
だからそのままにしたんだけど、ローランドさんが席を外した時に彼のお祖父さんにきちんと挨拶をされたから、ちょっとだけ考えて……否定はせずに、笑顔で挨拶をしておいた。めっちゃ誤解されてるけど、まぁいいかなって]
[彼のところに居着いて驚くことはたくさんあったけど、一番驚いたのは彼のお友達達だろう。
迷惑をかけるかも、という相談を持ちかけた時の返答が、隕石やらスタンピートやら……いやそんな大袈裟なものじゃないよ?!ってこっちが慌てたし、実際にみっつのうちのふたつが起こったんだからもっと驚いた]
これたぶん俺をずっと見守ってた皆の仕業じゃないよ、だって彼らは基本的に俺を甘やかす存在だったもん。
だから、ある意味、俺の幸運よりも、ローランドさん達の悪運の方が、強いのかもしれないね。
[不幸な筈の出来事が、ローランド達の立ち回りにより幸運に姿を変えていくのは圧巻だった。シメオンもちょっとは回復とかでお手伝いをしたけど、大体は彼ら3人の手腕によるものだ。
そうして賭けの結果一人負けをしたオズワルドの奢り、何を食べたいかを聞かれたから。どうせだから高いものをふっかけてしまえ、という響きだったのは分かったけど]
一週間近く外食になっちゃったからなぁ……なんでもいいなら、手料理が食べたいな。
[ローランドだけじゃなくて、他の二人も我儘言っても怒らないって理解できてきたから、そんな希望を述べてみよう**]
[シメオンがゾラントで定住を始めて生活に馴染み、人と深く関わるのが苦手だと思っていたけど元来愛想は悪くないのでそれなりに人間関係も築いて、そして気付いたことがある]
(俺って完全にローランドさんの恋人か愛人だって思われてるよねー。)
[勘違いされているのをシメオンもローランドも否定しないし、場合によっては余計に勘違いさせるような言動までするのだから当たり前だ。と、シメオンは思っているが、正確には二人の言動のせいというのが大きい]
[そして現段階で、ほぼ回避不可能なところまで外堀が埋まりかけている。
多分このまま放置すれば、たとえ事実とは違っても撤回不可能になる。
同時に、たぶんそのことにローランドは気付いていない。あの人は鋭いくせに変に鈍感なところがあるから、きっと自分とは無縁なものだとでも思っているんだろう]
うーん。どうしようね。
[たぶん今なら、ローランドが気付けばどうにかなるのだろう。教えるのは簡単である。けれど、どうしようね、と言いながらこの立ち位置は意外と心地よいからこのままでいいかな、なんて思っていたりするのだ。
ローランドが気付いても気付かなくてもシメオンは構わない。ならば]
まぁいっか。
[そのまま放置することにした**]
[すっかりシメオンの物が増えてしまった家の中、男は居間と隔てるものなく隣接した台所で、焦げ付かないように鍋をかき混ぜながら、串に刺した野菜を鉄板の上に並べていく。
鉄板をオーブンへと送り込み、味見とばかりにちぎったパンを鍋の中に浸したところで、背中から誰かに抱き締められる。
そんなことはほぼ毎日の事であったから、男はそれに動じることなく背中の温もりへと声をかけ]
熱いから冷ましてから口にいれよっか
[それからシチューを絡めたパンを差し出せば、温もりは男に抱きついたまま、あーんなんて声を出した。
男は苦笑しながらも、それに応えるように少し冷ましたものを彼の口に放り込み、感想を待ってみる。
そうすればすぐに、おいしい!という言葉と共に、男は顔をキラキラさせた彼に先程よりも強く抱き締められた]
『…………おまえら』
『珈琲のおかわりが欲しくなるね』
[そんないつもの行動をしていると、居間から呆れたような声がして。
そちらへ視線を向ければ、シメオンと共にカードゲームに興じていたはずの悪友二人がこちらを見ていた。
男はクレメンスに頼まれた珈琲のおかわりを準備しながら、頭を抱えて動かなくなったオズワルドが言いたかったことについて想いを馳せてみた。
が、特に思い当たるより先に、オズワルドが口を開き]
『独り身にはいたたまれねーな……』
[なんて言っている]
ここにいる全員独り身だよねぇ。なに言ってんだか。
[変なことを言う悪友にそう言ってやったら凄い顔をされた。解せぬ。
男はオズワルドの変顔に文句を言ってやろうとしつのだけれど]
『あ、私は独り身じゃなくなるから、オズと一緒にされるのはゴメンかな』
[悪友が落とした爆弾を前に、それどころではなくなってしまった。
『お前だけは俺を置いてかないと思っていたのに!裏切り者!!』なんてオズワルドが騒ぎだしたことに、男は"いや僕裏切った覚えないんだけど"更に首を捻り──…その反応に更に騒ぎ出したのは本当に解せない**]
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