情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新
[何か言い掛ける、くちびるの動きを認める。
揺れる眼差しからはこれまでのように軽く受け流す態は感じられない。
詰めた距離の成果は十分といえるもの。
沈黙ののち、肩に触れる微かな重み。
セルウィンの髪がさらと流れ、首筋を擽る。]
――…、
[空気を震わせる音色は薄く、
願望が聞かせた空耳と区別がつかない。]
セルウィン。
[染まる頬が初々しさを醸し出す。
ソマリの高揚は肌には宿らず眸の奥に灯される。
熱こもる声音で名を呼び、
解いた手を彼の腰へとまわし、その身体をゆるく引き寄せた。*]
[名を呼ぶ声に温度があることをその時に知るだろうか。
すぐに顔は上げられず、微かに身動ぐ。
腰元に腕が回れば、僅かにあった距離がなくなり身体が触れ合う。
応えるように自身の手でソマリの無防備になっている前腕に触れる。
掌で腕をなぞりおろしていき、手の甲まで下がったならその更に下方、
指先に辿り着いて、小指から柔らかく握りこんでいく。
中々、上げられなかった顔をそろ、と上げるとソマリからも表情が見て取れるだろう。
顔をあげたものの、中々視線が合わせられずに居ただろうか。
やはり、彼の声はじわじわと身体に染み込む麻薬のようだ。
それでも促されたなら、瞳を向ける。
自然と、唇は内に篭った体温を吐き出すように薄く開かれて]
その声は……卑怯です。
[暗に弱いのだ。と白状したも同然の言葉を口にした。*]
[もっと、とねだる顔は艶めかしい。
意識の少しの混濁がもたらした欲の色。
つまり、正気を剥いでやれば、彼はあでやかに染まるということだ。
与えられた水分が理性を呼び戻せば、彼の声は硬さを増す。
それでも構わず一通りまさぐった。]
体の具合を確かめていた。
君の体のことを詳しく知りたい。
[彼の足元で、抗議のように氷が鳴く。
あるいは、誘うかのように。]
[身動ぐ気配が拒絶ゆえのものでないことは
なんとなしに感じられる。
そうであって欲しいという願望もあったせいかもしれない。
触れるだけ。
ただそれだけで鼓動が跳ねるのは
セルウィンが己にとって特別な存在であるから。
腕をなぞり下りる彼の手指が己の手へと絡む。
柔らかなその動きにピクと小さく指が跳ねる。
意識するがゆえに過敏になっているのか、
ささやかな反応を隠すように
握りこむ手の平を指の腹で撫でて重ね合わせた。
なかなか重ならぬ視線に焦らされるような感覚を覚える。
もう一度名を呼び促せば、彼の眸に己の姿が映り込む。]
――…声に、キミへの想いでも滲んだかな。
漸く、私を見てくれたね。
[意図するものを理解しながら、嬉しげに目を細めて微笑む。]
捻ったのは足首だけだから! それももうそんなに痛くないし。
他はなんともない。
[触診(?)に抗議して主張する。
傷の具合を、ではなく、「体」と言われた意味は別段、深読みもせず。
怪我人の自己申告は信用しないタチなのか、フェリクスは構わぬ態で肌をまさぐる。
ミヒャエルは、変な声が出ないようにと毛布を握りしめた。]
[「なにか他にして欲しいことは」と問われた。
さっき、シャワーを浴びたい、と伝えたが、「浴びさせてもらいたい」わけじゃない。
そんなことを頼んだら、下着まで脱がせる口実を与えるようなものだと思った。
少し気分も良くなったから、シャワーを浴びるくらいひとりで可能だろう。
なら、フェリクスにここから出て行ってもらいたいだろうか? ミヒャエルは自分の心を覗いて自問する。
否。
さっきの続きをして欲しいわけじゃないけど。
このまま放置しておくのもひっかかるのだ。なんで。なんか。]
おまえか、 おまえの国か知らないけれど、
何を企んでいる。
[裏があるんだろうと、その感触が欲しくて問うた。
それともこれは、自分の一方的な妄想なんだろうか。
フェリクスの言動に淡い期待を抱いてしまうのは。]
[微かな震えが分かれば、一瞬動きに躊躇いが生じて。
掌を擽られるたなら肩を震わせてしまう。
だが、その手が重なったなら表情が柔らいだものになる。
微笑いながら否定もしないその様子に眉尻が下がる。
視線を外してしまう自覚はあるが故に。]
そう改めて言われると、見づらくなります…、…
[それでもソマリの声音と表情から嬉しそうな感情を汲んでしまえば、強くも言えず。
自身が口にしたことは後悔はしていないものの、じわじわと込み上げる羞恥心にまた暫くしたら、瞳が伏せられていくだろうか。]
そんなに嬉しそうにしないでください…
[重なった手はそのままに、空いた片手で口元と頬を覆い隠すようにして、そう呟いた。*]
[やわらぐ彼の表情があたたかな春陽を思わせる。
思い出の中の彼と面影が一瞬重なり懐かしさを覚え]
その表情も、好ましく思う。
[眩しげに見つめながらそう伝えた。
見づらくなる、との言葉が聞こえると
ふ、と吐息のような笑み声を漏らし]
お喋りが過ぎたかな。
振り向いてくれるまで口を噤んで待っていようか。
[悪戯な、けれど常の軽口よりも甘さを帯びた囁きを向ける。
白い肌に羞恥の色が刷かれると、口の端を持ち上げ]
好きな相手の、可愛い姿を見れば
誰だって嬉しくなるものだ。
[覆い隠されるくちびるの上、
セルウィンの手の甲越しに口接けを落とす。]
――…私は、キミに惹かれている。
[一度目を伏せ、再び彼の眸へと重ね]
セルウィン、
キミが、好きだよ。
[彼に向ける好意を改めて言葉として見詰める。*]
[なにかを迷うような様子を見せたミヒャエルが、企みを問うてくる。
ずいぶんとストレートな問いだ、と片頬を上げた。]
国からの命令は、君を訓練することだけだ。
[当初の説明を繰り返した後、手を伸ばす。
彼の髪へ。撫でるように、確かめるように。]
特務部隊の───つまり私が率いている部隊の要請は、
有能な人材を確保すること。
私個人は、
君がどんなふうに成長したのか、見たかった。
[企みの一端をあっさりと口にして、
それ以上の意味を視線に込めた。]
[一つの葉ずつ載せられていく好意を含むその音に、
揶揄がないことが分かる度に、耳朶が赤くなる。
その全てを受け止めていたら羞恥に耐え切れないだろう。
笑いと共に落とされたそれに、相槌を打とうとして、ふと、心に靄がかかる。
振り向いていないように見えるのだろうか。
と、一瞬脳裏に掠めた思考は既に、心は決まっているようなものだった。
自身の言葉の足りなさにも自覚することも出来ずに、
僅かに笑みを濁らせていれば、
普段の体を取り戻し始めるその口調に、ついと口を開きかけた。]
――…っ、…?
[不意に手の甲に落ちる二度目のキス。
先程よりも距離は近く、すぐ離れた唇を瞳が追えば、すぐに黄金の瞳と重なって。]
……わ、…たし、も。
貴方と、…同じ気持ちであれば、と…
[手の甲の感触がまだ残っている。
尚更外せなくなってしまったその手に声は濁ったまま、ふるりと睫毛が揺れる。
鼓動が、自身の意思とは裏腹に弾んでいくことを自覚し掌に熱のこもった吐息を吐き出せば、瞳を閉じて。]
貴方を……、好きに、なりたい。
[観念したように言葉を返した。*]
[フェリクスの手がそっと伸ばされる。
殴られる理由もないとばかりに、背筋を伸ばしてミヒャエルは避けも竦みもしなかった。
それでも、触れてくるほのかな温もりに息をつく。 爪弾かれた弦のごとく。
尋ねておきながら、国とか組織の事情は耳を通り過ぎた。
ミヒャエルを戸惑わせたのはフェリクス個人の”望み”。]
前に… 会ってる?
[どんなふうに成長したのか──つまりは、過去と比較できるくらいに記憶に残っているという意味だと。そんな風に届いた。
脈が早くなる。]
[そうであれば、と願い、
会った瞬間に思い出せなかった自分に戸惑い、
今に始まった縁でないなら、もっと踏み込んでいいのかと焦れて、
真っすぐに見つめる眼差しに射抜かれて、
何故だか切なくて泣きたくなった。]
[セルウィンの反応からは好意を感じられる。
自惚れてしまえれば楽なのだろうが、
一般的に、同性であることが障害となるのは認識している。
年を重ね経験を重ねようとも本気で思う相手の前では
ささやかなことにも一喜一憂し、不安にもなってしまう。
笑みが微か曇るを見れば、はたりと瞬く。
何か言い掛けるその気配を感じるのに、
欲に負けて彼の言葉を途切れさせた。]
――――……、
[名残惜しげに手の甲に寄せた顔を僅か離し、待つと
彼のくちびるよりその言葉が綴られて]
ああ、好きになって貰えるように努力しよう。
これからは、他への戯れは止める。
キミだけを想い、キミだけを見つめよう。
[もっと触れたい。
そんな欲を自制しようと思うのに
震える睫と彼の健気な言葉に誘われるように瞼へとキスを落とし]
急かしはしない。
ゆっくりで構わないから―― …
[好きになって、と喉でくぐもる音色を零す。*]
痛ってェなーもう……
[思いきりひん曲げられた指を摩りつつ眉を潜めた。
苦笑を見れば暫く言葉を捜すように視線を上向けたが、
やがて椅子に深く腰掛け直して、脚を組んだ]
別に気は使っちゃいないが。
[ベルティルデが引け目を感じているなど思いもしないから、
椅子の後ろ足に重心をかけてぐらぐらと前後に揺れながら]
っても、ま、半分は冗談だな。
遊びで手を出せる女とは思ってない。
[ただしい意味で伝わらない可能性もあるが、
敢えて意味を明瞭にせず含みを持たせておく。
―――「遊びで手を出したい女じゃない」と
過去、例の噂が蔓延った時に、真偽を確かめに来た友人に告げたことがある。それもどのように受け取られたかは分からないが……
範疇外ではない、それは本心。
それなりに気の合う相手ではある、それも確かなこと。
だが、そもそも住む世界が違う相手であるような、そんな感覚は常に付き纏っていたから]
多分、どっちの為にもならんだろ。
[なぁ?と、肩を竦めた。
それにしても、やたらに軋む椅子だ。
自分が重すぎるのか、それとも古いものなのだろうか。
体重の掛け方を間違えてしまえば、折れそうで怖い。]
……。
………つーか、何でこんな話してるんだっけ? 俺の所為か。
……もう一度言うが、俺の所為なので、
んな畏まって座らなくてもいいから、
風呂とか身支度とか適当にドーゾ。
[空気を変えようと努めてはみるが、効果はあるやら。]
覚えていないか?
[目を見開かれて問われて、小さく笑みをこぼす。]
もう10年かそこらも前のことだし、
私も変装していたからな。無理もないが。
カノートの市場で、君を1日連れまわした男のことは覚えているか?
あれが、私だ。
[余人のいない気楽さで、秘密を明かす。]
私はあの時、任務で君の国に侵入していた。
たがどうにもつまらないミスで追い詰められて、
君を人質に、暫く逃げ回るはめになったんだ。
あの時の君の態度、
君が見せた度胸や私に向けた言葉に、驚かされたものだ。
あの時君と別れる直前に私が何を言ったか、
ちゃんと覚えているか?
次に会うことがあるなら、
私と君が縁で繋がっているということだ。
だから君が我が国に来ると聞いて、こちらに呼び寄せた。
縁を繋ぐために。
[静寂響く夜。
息を潜める子猫を探し始める。
然し頭の中で考えるのは真面目な子猫ではなく、
甘く焦がれた声を出していた子猫。
裸体で無邪気にはしゃいでいた姿を記念に収めただけでも収穫があったと言えよう。
そして―――。]
―――見つけた。
[森の中に息を潜める子猫を見逃しはしなかった。
何を考えているのだろうか、嗚呼もしかして己の事を考えてくれているのだろうか。
そっと近づいて、その腕をグっと掴み引き寄せようか。]
な?俺から逃げるのは不可能なんだよ、カレルくん。
[そう引き寄せた身体を抱きしめて、耳元に甘く低い吐息を吐き出す。
あの時を思い出させるために、首筋につぅっと舌を這わせた。]
―――ねぇカレルくん。
君さ、こういうの興奮する方だろ……?
[あの時と同じように、身体が震えているのはきっと怖さではない。
そう思いながら腕の中から離さず、
擽るように耳許で囁いた。*]
[伏せる瞳は仄かに色付く頬を映し出す。
彼の言葉が途切れるのを感じて、気取られぬように視線を向けたつもりだが、
この距離ではすぐに気づかれてしまうだろう。
僅かに出来た隙間に、彼の表情を窺い見る。
浮名の多いその人が紡ぐ言葉に。
瞼へと落とされる柔らかな唇に。
絆されるように自然と肩の力が抜けていく。
その時、心に宿した感情は確かに温かく。
口元を抑えていた手を外して、ソマリの頬へと添えられる。]
まるで、神前での誓いみたいだ。
[剥げ落ちていく敬語は、先程から何度目だろうか。
口にした揶揄は自身でも驚く程、柔らかな声音だった。
指先で、すり、とソマリの頬を愛しげに撫でて双眸を細めた。*]
…会えた。 また会えた、
[髪型もしゃべり方も、目の色さえ変わっているけれど、カノートの市場の一日を忘れるはずがない。
箝口令を敷かれて報道記録にも残されていない事件でも、ミヒャエルこそは当事者なのだから。
そして彼もまた待っていてくれた。
再び縁を繋ごうと──]
ずっと大事に持っているよ、あの時もらった月長石。
[耳のカフスを見せる。]
[呼吸が浅く、早くなる。
このまま連れて行ってくれればいいのに。
でも、「見たかった」だけなのかもしれないと、小さな震えが走る。
戦争があって。10年という月日が流れて。
成人した自分は──彼に意に適う人間だろうか。
聞くのが、怖い。]
持っていてくれたか。
[約束の石。一族を繋ぐ石。
縁はやはり、ずっとつながっていたということだ。]
間違っていなかった。
[なにが、とは言わず]
――――っ!???
[闇の中、唐突に誰かに腕を取られた。
木立の葉ずれの音に紛れていたとはいえ、まるっきり気配を感じなかった。
いや、それ以前に人間の視覚的にわかりにくい場所に身を潜めていたはずだ。
一体どうやってここがわかったというのだろうか。
そして……首に触れるこの感触、間違いない]
嘘……だろ…………。
[信じられない、という意図で上げる声は二つの意味で。
自信を持って身を潜めていた自分を見つけたこと。
自分を半ば陵辱するかのようにしてきた相手がゲオルグだったということ。
そして、彼が落とした言葉に、抵抗するように首を振る]
そんなことない…!!
[咄嗟に閃光弾をだそうとしてしまったのは、何を守るためだっただろうか*]
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