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― 客室 ―
[たぷたぷと、重い水音がしていた。
バスタブの中で、ふたつの人影が重なっている。
圧し掛かるようにして腰を振っているのは金髪の大柄な男だった。
その下で嫋やかな白い体が揺さぶられている。
金髪の男が動くたにび短い声が上がり、赤い髪が乱れて跳ねた。
室内とバスタブを隔てるのは透明な壁だった。
区切られた空間の中で、濡れた声がくぐもり反響する。]
「おい。高い商品なんだぞ。ほどほどにしておけ」
[部屋の中から声を掛けたのは、黒髪の痩せた男だ。
油断ならない目つきは鋭いが、今は同僚に呆れた色をしている。]
「いいじゃねえか。どうせ痕も残らねえんだ。」
[答えた金髪男が組み敷いた体にナイフの刃を滑らせる。
その瞬間はうめき声が上がったが、血はさほど流れず、すぐに止まった。]
「そういう問題じゃねえよ。ったく、飽きもせずによくやるよ」
「こんだけの上玉、手ぇださねえほうがおかしいだろ?」
[背中で交わされる言葉を意識から遠ざけて、囚われの"商品"は小さな息を吐く。
体が重い。あの甘い香りがどこからか漂っている。
足に絡みつく粘ついた"水"も、手錠も、銀の首輪も、全てが厭わしい。
けれども微かに心の琴線に触れるものがあった。
予感だ。魂響き合わせる者が近づいているという。
その瞬間を思えばこそ、苦痛も屈辱も甘美へと変わる。
背筋の震えを勘違いした男が、嬉々としてまた腰を振り始めた。*]
そのような心配など、しておりません。
それに、言いましたよ? 誠心誠意お仕えしますと……。
離れていれば、それも叶いませんわ。
ルートヴィヒ様……いえ、ルートヴィヒ
[男に後ろから抱き着くと、耳元で囁きかける。
お仕えの中には、別の意味をわざと含ませて……。
今は、これ以上はしない。まだまだ始まったばかりなのだから。]
そうか?
期待しているよ、ありがとう……!?
[彼女の言葉を額面どおりに受け取ったが、後ろから抱き着かれるとしたらそれは話しが変わってくる。
ばっと彼女に向き直り、警戒露わな目でカサンドラを見据える。
彼女のその言葉が自分への挑戦……ないしは年若い跡継ぎをからかうものだと判断したのだ。
そして、彼女からしてみたら自分の存在というものは、ただの人間で、彼女からしたら食材でしかないという現実を目の当たりにした気がする。
メイドという立場であることが当たり前すぎて、自分がそのような目で見られていることを忘れていた。
自分は彼女を少し、違う目で見ていたから、気づきたくなかったのかもしれない]
……ああ、そうか。ボディガードとしての役割もあったね。
私から離れていれば役目が果たせなかったか。済まない。
[とっさのことに、常日頃使っていた言葉遣いの方が漏れてしまう。
そこに動揺が現れたことに自分でも気づかずにパソコンの蓋を閉じた]
[警戒心はあると……。
腐っても、あの一族の子か……それとも女に対しての警戒か。
どちらにしろ、あるのだけは解ったからよしとし、その視線を微笑みで受け流す]
ええ、そうです。
解っていただいたようで、ほっとしました。
[にっこりと笑いかける。
相手があからさまに動揺しているのが見て取れたからである。
ボディーガードと言っても、四六時中張り付いているものではない。
ましてや同じ部屋でなくても、とっさに対応をすればいいのだから。
その対応も、自分には出来るものである。
が、今はそうではない事にしておいたのであった]
[廊下との間の鍵をしっかりかけてから、今度は改めてクローゼットやベッドの下まで安全確認して回る、のだけど]
部屋の中にまた部屋があるとか、もう家じゃねーか!
あっお嬢ーー荷物ここでいースか?うわぁデカっ、ベッドデカっ!ソープかよ
お嬢ーお嬢なんか夢みたいッスねーえっへへへへ
[すごい勢いで、備え付けの大型クローゼットを開けたり閉めたり開けたり閉めたり*]
ソープと夢を並列にするな。
[チョップ。あながち間違いじゃなさそうなのは、はまりこむ客の情報から何となくわかるけども。]
荷物は適当に、わかるところに置いてくれればいいわ。
で、ツェーザルはどうするの?
[どの部屋で過ごすの?という意味合いを込めて。行き先がないならば、別にこの部屋でも不都合はない。もっともミーネ側の都合だが]
ッあ、すぃやーせん
[失言してたことに気づくのはチョップされてから]
じゃあこのへん置いときますね
……で、
[安全確認を終えた部屋を見回して、]
えーと、お嬢早速船の探検でも行きます?
それか休んだり着替えたりすンなら、俺ドアの外いるんで
[お嬢と同じ空間で寝るなんてとんでもない!
なのだが、何泊もの間、廊下でドアを塞ぎシーサーのごときヤンキー坐りしたまま過ごす方がよほど不都合ということに気づいてない]
探検!
良い響きね……
[わざわざこんないいところに来て休むなんてとんでもない!]
[不都合はない、と思っていたが、着替えだけは確かに不都合だなあ、と言われて気付く。こやつ意外と気が周りよる、なんて。]
カッコはこのままでいいや。
別に汚れてもいいような服だし。
むしろ……
[と思案の表情を浮かべたが、とりあえずこの場では飲み込んで。どうせ今解決できることでもない。]
いいや、いこ!
何があるんだろうね?
[聞こえた。
愛しい子の声が胸の奥に触れていく。
それだけで世界の色が変わった。]
ああ───ここだよ。
[溢れる情感のままに声が艶めく。
早く、来て―――…]
[意識に伝わる声が部屋の狼藉者たちに届くことはない。
"商品"を相手に獣欲を発散していた男は体を離し、シャワーを浴びていた。
蹂躙されていた方はといえば、両手を手錠で繋がれシャワーフックに鎖を引っかけて吊られている。
体は弄ばれたそのままだったから、そのシャワーの湯をこちらにも掛けて欲しい、と思う。だがそう頼むのも癪だったので黙っていた。
腰から下はバスタブの中で、浅くぬるい水に浸かっている。
粘つき蠢く"生きた水"だ。
軽い麻痺の作用でもあるのか、力が抜けて立てなかった。]
[金髪がシャワールームから出た頃、部屋のドアがノックされた。
「誰だ」とか「ルームサービスは頼んでないぞ」などと男たちは騒いだが、自分にはドアの向こうに誰がいるのかわかっていた。
微笑んで身じろぎ、その瞬間を待ち受ける。]
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