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[照れて頬を染める姿は、思いのほかあどけない。
いや。同い年のはずだし、その表現が相応しくないのは理解しているが、超獣戦士として戦っていた姿からは多分にギャップがあった。
そんな顔もするのか、と注視してしまったのは不可抗力だ。間違いない。]
短い距離なら、だな。
例の歩道の脇に新しい通路を引くとなると、時間が掛かるし俺の精神力も尽きる。
薄くなっている天井を抜くくらいなら余裕だろうが、基本的には手を触れたものしか変形できない。
[自分の得意とする魔法は物体の変形及び、精製である。
変形は文字通り、物体の形を変えること。連続して変形させ続ければ、鎖でやってみせたように、自在に動かすことも可能だ。
精製とは、周囲の物体から望む物質を取り出し、新たな形を与えること。
見た目は無から有を生み出すようなものだが、素材は必要だし、あまり複雑なものも作れない。
軽く、そんな説明をした。*]
[ なんだか、クレステッドに熟視されている気がした。
彼の端正な顔立ちに見つめられると、いろいろと見透かされそうで心音が早い。]
ええと、
[ 人間が視線を向けてくるのはどういう時だっけ。
鎮まれマイハート。]
ふむ、手が触れるところでですか。
[ 余裕とか言ってしまうのがすごいと感心する。]
橇があっても、動く通路を逆走するのは重労働ですから、他の方法を試したいところです。
クロ君の技で、ここの天井に天窓を開けられれば、俺が飛んで出て、あとは鎖や糸で引っ張り上げるなりして、全員外に出られるかもしれません。
できますか?
[ とっとと事を納めて、彼と飲む約束の実現に漕ぎ着けたいと顔に出ている。*]
そうだな。
やろうか。
[カスパルの提案に、というよりは表情に頷いて、脱出作戦に取りかかった。
幸いにして、洞窟の天井は地上近くまで達しており、薄い岩盤と土壌を動かすだけで十分だった。
諸々の手段を駆使して地上に戻り、無事に呪術師をしかるべきところへ引き渡して、ようやく肩の荷を下ろす。
あとのことも諸々あったが、なにはともあれ、今は心身を癒やす一杯が欲しいところだった。]
食堂にでも行かないか?
[事後処理が終わった頃合いのカスパルを捕まえて、約束の一杯に誘う。*]
[ クレステッドと力を合わせて、騒ぎの元凶を地下から運び出し、事態の収集をつける。
その過程で、クレステッドとは離れることになったのだが、再会に苦労する心配はしていなかった。
クレステッドがくれた鎖は肌身離さずにおいたし、カスパルの鼻はクレステッドの匂いを完璧に覚えている。
そして、期待通りにクレステッドは誘いにきてくれた。
カスパルは尻尾があれば振り切れそうな喜色で迎える。]
[ 食堂へと誘われ、否応もなく頷いた。]
乾杯ですね。
[ 人の多いところはあまり得意ではないけれど、クレステッドと一緒ならきっと大丈夫だ。*]
[カスパルを見ていると大型犬を連想するのはなぜだろう、と考えるが、おそらくは最初の犬鼻の印象が強いからだろうということにしておく。
食事時を外した食堂は適度に人も少なく、個人的な祝杯を上げるにはちょうど良い場所だ。]
ああ。乾杯しよう。
君との再会と、共同作戦の成功に。
[軽く泡立つリンゴ酒が入ったグラスを掲げる。
アーケシアを出たのは、まだ飲酒の習慣がない頃だったから、彼と飲み交わすのはこれが初めてだ。]
改めて思うが、この会議に参加した一番の収穫は、君と再会したことだ。
共に力を合わせることまでできたのは、他の連中には悪いが、願ってもない僥倖だったな。
[呪術師がもたらした混乱はいくつかの被害ももたらしていたが、両国の友好を阻むものではなかった。
むしろ、こと自分とカスパルの関係においては良いきっかけを運んできてくれたようなものだ。
良かった、と思う。*]
[ 今回の和平交渉のために作られた食堂でクレステッドとリンゴ酒で乾杯する。
風味豊かなリンゴ酒は、緑の国アーケシアの産だろう。
美しいカットグラスはゾラントのもの。
グラスの中でも口の中でも弾ける泡が爽やかだ。]
クロ君が褒めてくれるのはとても嬉しいです。
とはいえ他の皆も、当時より成長していますから、俺だけ見て判断しないでください。
俺は──君と共闘できて楽しかったです。
[ リンゴ酒のせいだけでなく、軽く上気した顔で微笑んだ。*]
君が、自分の実力を低く見るのは、昔から変わらないな。
確かに、魔法の技術ならば上のものもいた。
だが魔法を使う以前の、根本のところを含めれば、君を越える者はいなかったぞ。
なんなら今だって、
―――いや。今はこの議論は止そう。
まずは再会と勝利と生還を祝おうか。
[もう一度乾杯して、グラスを傾ける。
リンゴ酒の仄かな甘みと爽やかな酸味が喉を駆け下りていった。]
それで、だけどな。
この再会を一度きりにしないための案があるんだ。
聞いてくれるか?
[テーブルに身を乗り出し、肘をついて顔を寄せる。
他人に聞かれたくないからというよりは、"ここだけの秘密だけど"というような児戯めいた仕草だった。*]
[ クレステッドはなおもカスパルを持ち上げてる。
自信はないが、自分よりも広い世界を見てきたクレステッドが言うなら、そういう面もあるのだと思うことにしておく。
再会と勝利と生還を祝って乾杯を重ね、クレステッドが語る提案を聞くべく身を乗り出した。
彼の様子が楽しげだと、自分の気持ちも浮き立つ。*]
[同じように身を乗り出したカスパルと、間近で顔を合わせる。
やはり、悪巧みをする少年期に戻ったようで、楽しい。]
いずれ、この辺りに、共同魔法研究所を作ろうと思っている。
[先ほど浮かんできたばかりの腹案を、そのまま口に出す。]
アーケシアとゾラントの魔法使いを呼び寄せて、複合魔法の研究をする。
お互いの魔法技術の交換もしよう。
二つの魔法を組み合わせれば、今まで以上のことができるのは既に実証済みだ。
さらに研究を進めれば、これまでは考えもしなかったことができることになるだろう。
可能性は、それこそ無限大だ。
[思いつくまま、展望を語る。
実現にはいくつもの困難があるのは明白だが、そんな困難になど目もくれずに、求める先を見据える。]
そんな場所が完成したら、君も来てくれるか?
いや、一緒に作らないか?
[そうして、その道を共に行こうと誘うのだ。*]
[ 希望をもって魔法の未来を語るクレステッドの顔を微笑んで見ている。
側にいて、その熱を感じられるのは良いものだと思う。]
クロ君が、アーケシアに可能性を見い出してくれて嬉しいです。
[ 嫌われ、捨てられたわけではないと感じてほっとする。]
この場所は古くから人が来ていた場所だから、力ある場所なんだと思います。
[ いろいろと不安はないわけではないけれど、今から恐れても仕方ないことだ。]
俺がいると、野生動物に迷惑をかけないようにと、口うるさいですよ。
[ そんな言葉で賛意を伝える。*]
当然だとも。
俺が生体魔法に向いていなかったというだけで、アーケシアの技術は素晴らしいものだ。
出奔して良かったのは、ゾラントの魔法も技術も同等に素晴らしいものだと実感できたことだな。
これからは、お互いに驚き合えば良い。
[どこか安心したような顔をしたカスパルに、心持ち胸を張りながら答える。]
できることなら、あの呪術師の使った技も研究してみたいものだな。
力の源泉は良くないものだが、引き起こした現象には興味がある。
あれも、この土地の力が関係しているんだろうかな。
[他の誰かが聞いたらぎょっとしそうなことを口にするが、当人は至って真剣だ。]
[遠回しな言葉で賛同を得て、晴れやかに笑う。]
君が来てくれるなら、もう成立したも同然だ。
主に、俺のやる気の面でな。
両国にも、ここいらの動物にも文句を言わせない施設を作ってやろうじゃないか。
[だとすると、大規模な魔法の実験場は地下だなとか思考が及べば]
やはり、奴が作り出したか呼び出したかしたあの洞窟を徹底調査する必要があるな。
崩れていないといいが。
[傍目から見れば唐突なことも言い出す。
この先のことなら、いくらでも話すことがあった。*]
[ クレステッドは楽しげに計画を語る。
彼が素晴らしいと言えば、それはとても良いものに思えてくると気づいた。
彼にはきっとその方面の才能もあるに違いない。
いい教育者、あるいは指導者になれそうだ。]
忙しくなりそうです。
頑張りましょう。
俺は──
君が疲れたら、癒してあげたいです。
[ 掌を柔らかい肉球とさらさらの柔毛に変えて、クレステッドの手を包む。
彼のようにあれこれと発想は浮かばないけれど、これだけはずっと自分の役目にしたいなと思った。*]
[不意に手がぷにぷにと、もふもふに包まれた。
わかっていてやっているんだろうか、この男は。]
なにか悩んでいても、一度に吹き飛びそうだな。
[もふもふ。ぷにぷに。もちもち。
ついでに、今まで考えていたことも全て吹き飛ぶが、仕方ない。
破壊力が大きすぎるのだ。この手は。]
やはり君となら、1人ではできないこともできそうだ。
改めて、よろしく頼むよ、――相棒。
[柔毛と肉球の手を握る。
何気なく口から出た言葉だが、2人の関係はそれがちょうど良いように思えた。*]
[ 肉球で包めば、クレステッドの肩の力がふっと抜ける。
ちょっと抜けすぎたかもしれないけれど、悪くない。]
おかしなものです。
他の人に、こうしたいと思ったことはないというのに。
[ そして、こんな彼の表情を見られるのも特権だと思う。]
[ ほっこりしていたら、急な発言が飛んできた。
「知り合い」でも「学友」でもなく、「相棒」とは。
これまで与えられたことのない呼びかけだった。]
あっ…、 は、 はい。 よろしくです!
[ まさに事業を一緒に担ぐのだと思った。
その言葉が示すように、息のあった相手となって生きていこう。]
── なんだか嬉しすぎます、相棒。
[ はにかみながらも、しっかりと応えるのだった。*]
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