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― 砂漠の城 ―
年越しの祭?
[有能な部下に今後の予定を伝えられて、ああそんなものもあったっけという顔になる。
なにしろ、なにも(戦が)ない年末年始というのも久しぶりだ。]
なら城下じゃあ店も出るんだな?
この際だ。城の備蓄を開けて食い放題にするか。
[『そう言うと思っていました』的な顔をした部下が言葉を続けかけたとき、血相を変えた兵士が駆け込んできた。]
『ほ、報告します!
城に異様な物体が!』
[要領を得ない報告が発せられた時には、既に立ち上がっている。]
どこだ。
案内しろ。
[得物をひっつかんで立ち上がる顔は、じつに生き生きとしていた。*]
― 鎧師イルマの工房 ―
[ 久しぶりに城に戻ってきて、オズワルドの近況を工房で確認する。
相変わらず、研ぎだ修理だと注文が来るらしい。]
── ふぅん、
…武器か鎧か、それが問題だ。
[ 思案げな顔をしていたら、何やら向こうが騒がしい。
人間の姿をしていても、そういうことには鼻がきく。
工房を後にして、楽しそうな気のする方へ向かった。*]
― 帝国旗艦 ―
誰か、一っ飛びして、扶翼官を連れてきてくれないか。
[ 飛行士らに声をかけると、俺が自分がとたくさんの声が返ってくる。
年末だろうと関係なく、飛べる用事があるならすぐさま行きたがる頼もしい連中だ。]
ああ、では、皆の手を借りて、全戦艦に年越し祝いの菓子と酒を届けてもらおう。
で、ザイヴァルに行く者は引き換えに扶翼官を乗せてきてくれ。
[ 誰がどの戦艦に行くかは任せて、皇帝は自室へ引き上げる。]
― ザイヴァル後部甲板上 ―
[年の瀬も扶翼官は忙しい。
年の瀬だから、扶翼官は忙しい。
どちらも正で、つまるところ一年中忙しい、のだが。]
……は?
[届いた思念に氷点下の1音節を返したのは、引いてもいない竿を上げた瞬間だった。]
[たとえどれほど忙しくとも、釣りの時間を捻出すると言われている扶翼官だが、同時に、これまで1匹たりとも魚を釣り上げたことがないとも噂されていた。
残念なことにその噂は真実の一端を突いており、つまるところ本日の釣果もゼロである。]
――それで。
なんの変事ですか。
[扶翼官の釣りの腕前の程は皇帝もよく知っていて、なのにそんなことを言ってきたということは(不本意ながら)滅多にないことが起こっているのだろうという予測である。
さほど緊迫感はなさそうだと思うが、旗艦にして御座艦でもあるシュヴァルツアインから複数の水上機が飛び立ったとの報告を耳にすれば、若干認識を改めた。
緊急ではないが放置できない異変、というところだろうか。]
陛下のところへ行ってきます。
年を越すと思いますから、後の事はお任せします。
[自身の補佐官に後事を託し、迎えの水上機に乗り込んだ。*]
[ 冷静という範疇では表現が甘いレベルの思念が返ってきた。
氷河期の金剛石だ。
扶翼官は通常営業中のようである。安心安心。]
今年も釣れなかったか。
記録更新だな。
[ 何事も前向きに認めておく。
呼び出しの用件は来てのお楽しみだ。
ルートヴィヒが文字通り飛んでくることは疑っていない。]
まもなく扶翼官が到着する。
チコリコーヒーの用意をしてくれ。
[ 当番兵に指示すると、伝声管をコツコツ叩いた。*]
[異変の現場に駆けつけると、既に人だかりができていた。
聞こえてくる声は疑問や好奇心のものばかりなので、どうやら斧槍の出番はないらしい。]
どうした?何が出たんだ?
[声を掛ければ、人だかりが割れていく。
その先に見えたのは、妙な歪みだった。]
[空中の空間が丸く切り取られたようになっていて、その中に全く違う景色が見えている。
中の景色は止まっている時もあれば動くことも有り、時々全く別の風景に急に変わったりもした。]
なんだ、これは。
[真横や後ろからでは歪みの位置は把握できず、前からしか見えない。
試しに歪みの中に斧槍の柄を突っ込んでみたら、風景の中は全く変わらず、柄も普通に後ろから突き出してきた。
つまるところ、これは幻のようなもの、らしい。]
わけは分かんねえが、害はなさそうだな。
なんか妙なものが見えたら報告入れろ。
あとは解散―― …
[集まった連中を散らそうとして、途中で気が変わる。]
いや。
おれが城にいる年の暮れに、珍しい事が起きるってのは、なにかの縁ってやつかもしれねぇな。
よし。せっかくだ。
今年はここで祭をやるとするか。
こいつは神の目ってやつかもしれねえってことで、
ひとつ、派手に騒いでやろうぜ。
[周囲で様子を窺っていた者たちが歓声を上げて、祭の準備に動き出す。
なんと言っても新年はめでたいことだ。
お祭り騒ぎの口実はいくつあってもいい。*]
[ 騒がしくしている方へ行ってみると、人だかりができていて、案の定、その中心には皇帝その人がいた。
斧槍を構えたりしているが、殺伐とした様子はない。
周囲の様子も緊迫しているというより好奇心が勝っているように見えた。
なんだかワイワイとしてきて、]
いつものアレだな…
[ 人を惹きつける天賦の才。
見ていて飽きない。]
[ なにやら宴会になるらしいので、そっと厨房に回って、料理を担当することにしてみた。
岩塩をきかせた素朴な煮込みとか、ナッツを炒めたものとか。
前にオズワルドに出したことのあるものをいくつか。
気づくかな ? ふふん♪*]
― 宇宙戦艦スヴァローグ・情報処理室 ―
[年末年始といえばパーティーに次ぐパーティー、という政治家一家の三男坊は、今年はさっさと宇宙に逃げ出していた。
ほどよく暗くて静かなこの部屋は、まさに昼寝のためにあるような場所だ。
そんな部屋を占領して、年末年始は存分に寝て過ごすという決意を実行中だった。]
ふわぁぁ、よく寝…たけどもう少し寝よ。
[幸せに惰眠を貪る提督の上に、モニターが淡い光を投げかける。
ニュースラインが流れるそこには、年末のささやかな事件が数行の文字で流れていた。
曰く、光子ワームホール生成実験一部成功。
二点間の音と映像を即座に同期させる光子ワームホールの生成には成功した模様だが、発生地点は予測と大幅にずれ、一部は観測不能の状態に――**]
─どこかの森─
[────それは窓のようだった。]
[格子のついた長方形の板硝子。
叩けば固い。
触ればひんやり。
映すものは自分の顔。
一見すればよく見かける窓だ。
森の開けた場所に突然現れて浮いている…
その奇妙さを除けば。]
ねえねえ。これなんだと思うローズマリー?
『あら。なにか面白いものでも見つけたのローレル』
[不思議そうな顔つきで目の前の“何か”を
こんこん拳で叩いている少年の隣に、
同じ顔立ちをした少女がひょこんと歩み寄る。]
ほらこれ。
窓…にしてはヘンじゃない?
『あっワタシ知ってるわ。こないだ本で読んだの』
ほんとう?! さっすがローズマリー!
『あのねあのね、きっと異世界に通じるヤツよ。
遊びにいけちゃうの』
これで??
[少年と少女は、揃って、
じーーーーーーっと“窓”を見つめた。]
………。
『………。』
あのさ…ボク、思うんだけど、
『あら奇遇ね。ワタシも同じことを思ったわきっと』
この窓、開きそうになくない?
『“扉”じゃないものね』
ええええええー。
ちょっとローズマリー、なんかごはんないのこの森!
『そう急に言われても困るわローレル』
[少年少女の新年は、はてどうなりますやら。**]
やれやれ、年を取るというのは残念なことじゃのう。
儂は餅が大好物じゃというのに、倅の奥方が危ないからとなかなか餅を食わせてくれぬのじゃ。ああ情けない
うぬ、どこかで見た事があるようなないようなものじゃな……
[一見したところ、黒光りする木材で作られた長方形の箱のようだが、老人と相対する面には、鏡のような何かが貼り付いている。ただ──]
はて、鏡にしては儂の姿がきちんと映っておらぬ。
扶翼官、到着いたしました。
[皇帝の自室の扉を叩き、許可を待ってから室内へ入る。
扉を閉めた後に己の太陽にして半身である唯一無二へ、冷気纏う眼差しを向けた。]
それで、トール。
私の、海との対話を中断させるほどの変事とは
いったいなんですか?
[釣りを中断させられたという恨みがましい台詞だが、真剣に不満を訴えているわけではない事は、相手は百も承知だろう。
さらに続きかけた繰り言は、チコリコーヒーの香りに出会って途切れた。>>10*]
[ 礼儀正しく鉄面皮の扶翼の挨拶をおおらかに迎える。]
相変わらずで重畳。
[ 立ったまま、届けられたチコリコーヒーに口をつけてみせ、ルートヴィヒにも勧める。]
わざわざ来てもらったのは他でもない。
── 伝声管の向こうには何がある ?
[ 唐突な質問を投げて、傍の伝声管をコツコツと叩いた。*]
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