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……強く、在れたかしら。
[息子の右眼に映り込んだ姿は、これが最後になるかも知れない。
どうか、少しでもそう映せたならいいと願う。
頼りない腕は、たった一人の子を守ることさえできなかった。
弱く脆い自分では護れない、護られるばかりだと知るから、遠ざけたかったのに]
………、
[月夜の宴に、この身を易々と捕らえ、行く先を導いた強引で優しい腕を思い出す。
我が侭な、有るが侭の自分を引き出し、包み込んだ男の腕。
――彼のように、強い腕があれば良かった。
血に濡れ力の篭もらぬ腕で、己の身を抱き瞼を臥せた*]
[ひらひらと舞う蝶の燐粉が何処か悲しい。
零れる煌きは、何故か千の落涙にも似ていた。
男なんてみんな馬鹿なものだ。
蝶の影に彼女を思い出すなんて。
こんな時に、彼女を想うなんて。
――――彼女を泣かせたく無いなんて。
また、彼女に酷評されてしまいそうな口説き文句だ。
子供では在るまいし、明け透けに過ぎる。]
[この城に辿り着いて以来、頭の隅に必ず彼女を意識した。
それは自身の死期を予感させる怯懦の心所以だと理解していた。
彼女は己にとっての、唯一の未練。
果たせなかった約束ばかりが胸を占める。
駆け引きの嘘なら、元老院を唆し、
教会と貴族階級を繋ぐ為の謀なら幾らでも紡げるのに。
どうしても忘れられないのは、約束を反故にしたそれ自体ではなく。
一夜の触れ合い、あの刹那の邂逅だけが、
生涯に一度、義務に囚われぬ本当の―――。*]
[霞み白んでいく瞳の奥に、広がるのは――
陽光の下、純白の花が咲き乱れ、蝶が舞う何処か。
お伽噺を聞かせるような、優しい声で紡がれた世界]
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