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[無限にループする廊下をひたすら歩いている己の姿を想像して、あまりの馬鹿馬鹿しさに声を上げて笑った。]
それではまるで、鼠のようではないか。
奴らを車輪の中に入れると、永遠に回し続けるというぞ。
[鼠と言っても頭の中にあるのはコボルトどもが飼っている巨大なものだし、それにしたってよくは知らない。]
第一、同じ場所を歩いていては飽きるだろう。
……ふ。
歩いているよりおまえやナールの上にいる方が、見えるものも面白いのは確かだな。
……
[疑問系の間が空く。
鼠と豚の見分けもつかないなりに、大きな車輪の中で夢魔を侍らせ、優美に紅のグラスを傾けながら車輪を回し続ける王の姿を想像した]
…見たい
見飽きる気がせぬ
[絶対面白い奴ではないか]
…そうか、私がナールに乗るのは初めてだ
お前と同じ視点を得られるのは喜び
[ツィーアに飛行機能がついたなら。いやそれ以前に、ツィーア本体に視覚があれば、また世界の色づきは違ったものへと変ずるだろう。
ナールの背、人形の眼で夜の大地を見下ろせば、感じ入るように声を響かせた]
うん?
そうか?
さして面白くはないと思うがな。
[ツィーアが考えたことなど、想像の埒外だ。
もし知ったなら、暫くは唖然とするだろう。
その後、大笑いするか怒り出すかは、その時次第だ。]
[人形の目を通した光景に、ツィーアが感嘆を表す。
その喜びを好しとして頷いた。]
いずれは、おまえだけが我と同じ光景を見ることになる。
[どこまでも、どこまでも無が広がる光景を。]
「なにを、するんだ」
[魔王が気に入った人間の男の声で、強張ってなお整った顔で、ヒトガタは囁くように呟いた。
騎士の屍骸から何かを取り出すおぞましい作業を、その場に留められて銀瞳に映す。
新しい記憶を刷り込ませる"改良"の作業に至ったならば、ヒトガタの記憶は明らかな拒絶の反応を示し、儚くも頑迷な抵抗を試みてみせただろう**]
[ もしも。
声に出したことはない。
確りと、そうだと思考したこともない。
己自身でさえ意識しないほどの淡い想像がある。 ]
[ ── もしも。
世界を無に帰す夢想に浸ったあと。
意識及ばぬ思考の端で、もう一つの夢想が揺らめく。
……もしも。自分が死んだなら。]
[世界を無に帰す前に、自分の存在が消えるなら。
その時は、己の死を糧にして、
破滅の環の最初の火を放たせよう。
枷を解く鍵は、 ただ、ひとこと [ ]───]
["改良"の作業を傍で見る人形の嫌悪は、忌避は、困難な作業に没頭する魔王に楽しみをもたらした。
この素体の本質が"改良"によって損なわれては面白くない。
記憶を抽出し、選別する作業にも熱が入る。]
[作業の途中、魔王はあることに気づいて手を止めた。
人間の騎士という連中は、
大なり小なり、今の素体と同じ気質を持っているのではないか。
護るための剣、などという戯言を真面目に口にするような。
素体の壊れやすさの原因が非好戦性にあるのなら、この騎士の記憶のみを増やしても、戦闘技能の向上には役に立てども問題の解決にはつながらない。
ならば、と思い立った魔王は作業を中断して外へ出る。]
[魔王の前に引き立てられたオークとゴブリンは、騎士と同じく死体へと変えられ、記憶の欠片に分解された。
狼牙の狂猛。紫毒の狡知。
これらが持つ卑しく愚かしい性質までは注がぬように。
素体が持つ高潔で慈悲深い、魔が愛する玩具としての気質が歪まぬように。
取り出し分解し組み立てた魂のパーツを、人形へ流し込んでいく。]**
[弱々しくも頑迷な拒否の言葉。
ヒトガタの抵抗は王にとっては児戯にも等しいだろう。
圧倒的な力で組み敷かれ、流し込まれる何かに紛い物の自我が焼け付く感覚、
啜り泣くように 「それだけは」 と喋った]
「ガ……っ ぐ、う ルル
ぎ 」
[本来混じり合うことない魂のパーツ、それこそ拒絶しあう反発で記憶が壊れ砕けるのが当然の荒業。
誰にもなし得ぬ不可能を可能にするのは、魔王の膨大な魔力と、ずば抜けた才気のなせることだった]
面白そうだ、ラーグ
……むぅ
[高負荷に耐えかねて悶え苦しむヒトガタの裡で、チリンと核が鳴った。
どうやら、五感に直接働きかけがある類の"仕置"の方がこれより楽しい、と気づいて。
ヒトガタを改良するためだ、と納得はしているが]
触れられたい、もっと
私にもわかるよう
[もがき伸びた流動鉱石製の腕が、王に縋り付くように指を曲げた]**
[抵抗するを組み敷く快。
新たな作品を組み上げる興奮。
耳に心地好い苦悶の声。
繊細な作業を勘と力業でこなしながら、
縋りつく指の力とツィーアの言葉に笑った。]
私の手で、直接中に注がれる方がいいか?
[縋りつくを引きはがして押さえこみ、掌を胸に当てる。
ず、と溶けた胸の中に手が沈み込んだ。]
[最後の、なかなかはまらないパーツを直接触れて押し込むように、内側から魔力を注ぎ込んで融合を促す。]
これで、完成だ。
[納得いくまで調整してから、手を引き抜いた。
仕上がりを確認し、立て、と命じる。
人形が立ち上がったなら、ふと手を伸ばして空中より剣を呼び出し、人形へ向かって振り下ろした。]
[押さえ込まれた仰臥の背が浮き上がるほど、ヒトガタの体躯が反った。
喉の構造を痙攣させるだけの悲鳴が、長く細く続く]
ああ、これならば快い
お前を感じるのはいつも私の喜びだ、忘れてくれるな
[素体の記憶が融合していく様を、核は知覚はしない。
魔力注ぐべく胸の中をかき回す感触だけを愛おしく把握しながら、調整が済むを行儀よく待った]
「う…、 」
[床を転がり、胸を押さえ蹲ったヒトガタの下、涙と混じり、唇からも粘液が床へ伝う。
立て、と命じられれば緩慢に頭を揺らし、
やがて、立ち上がった]
「………」
[苦痛の余韻に染められたままの銀の瞳が瞬き、振り下ろされる剣の軌跡を追視する。
飛び退り距離をとる回避行動の代わり──発現する狂猛]
[つんのめるように前方へ身を投げ出し、刃の下を潜る。
床についた片手を前肢の蹴りのごとく弾かせ、跳ねた。
生き物ならば須らく急所である、王の顎を目掛けて掌底を突き上げるまでの獰猛な一連*]
[振り下ろした剣は、空気のみを裂いた。
目覚めたばかりの鈍い動きから一転、人形の身体が獣のように跳ねる。]
好い。
[突き上げられた手を直前でつかみ、軽く上体をひねって人形をそのまま背後に投げ飛ばす。]
好いぞ。素晴らしい。
これで、簡単には壊れなくなるな。
[発現した資質に、まずは満足を示した。]
[宙を飛んだ人形は壁の魔導管に衝突して床へ落ちる。
弱き人間の記憶だけを参照するならば、背部への強打で咳き込みもしたところ。
ヒトガタはすぐさま立ち上がり、オークのそれを思わせる低い姿勢で身構え、]
「……く、そ」
[眉を顰めて片手で顔を覆った]
成功か?
壊れずに餌を集め来やるか
新しい遊びも出来ようか──
[弾む波動、我が王が示す満足にこそ、ツィーアの喜びは募る]
[投げ飛ばされたあとの人形の動きも、直後の嘆きも、どちらも満足いくものだった。]
これは好い。
完璧ではないか。
おまえは、我の望み通りに仕上がった。
[手を伸ばし、人形の頬に触れ、愛でる。]
成功だとも。
これがあれば、おまえは好きな餌を取りにいけるぞ。
そうだな。新しい遊びもできるだろう。
おまえの"手"で、命を刈り取る楽しみもな。
おまえを早く戦わせてみたくてならない。
[興奮した面持ちで言葉を綴る。
早く次の戦場へ行こう、と心が弾んだ。]
[近づく手へ瞼震わせて怯えを滲ませる表情、
顔を歪めながらも、触れられるに従順であろうと努める葛藤も、最初の素体の特性が色濃いもの]
…ゆこう
私が私の餌を獲れば、私もお前も嬉しいな?
[興奮は兵器にも伝播する。
科された枷を甘く鳴らし、魔導の波がうねった]
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