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[差出元はラヴィになっていたものの、中身には違う署名がされていただろうか。
燃料の融通。それだけ聞けば、到底受けられるものではないけれど。
話せばわかるというメッセージに、暫し考える。
スノウにもらったデータと照らし合わせて、顔と乗船データを知る。
総会に出席予定の学者。最初に認識したのはその程度。]
[初めて対面した相手。
自分よりは年上で、しかし若く見える相手に思ったことは、
なんだかほっとする、暖かな印象を持つ人だな、ということであった。
それが恋天使の能力のせいだとは、知らず。]
[――男は平静を装っていたが、その内心は幾らか動揺していた。
女性の整備士だというから、勝手に"豪快な姐御"といったタイプと思っていたのだ。
それが、予想に反して、若く可愛らしい相手が待っていたものだから、その落差にである。
もっとも――本来の男であれば、異性の容姿など気にも留めなかっただろう。
男は、頭蓋骨の外側よりも内側に収まっているものが重要だと考えるタイプであったので。
――いずれにしても、初対面から、親しみやすい笑み(>>160)を向けられたなら。
恋天使の力を受けていなくとも、少なくとも、彼女に悪意を抱くことは難しかっただろうけど]
[どうしてそう思ったのかはわからない。
だがなぜか、この人ならば信用してもいいと思ったのだ。
根拠はない。
―――それはあのとき、自身を拾ってくれた人に対して抱いた感情と似ているような気もするが。]
……?
[ふと、相手が動揺しているような気がして、目を瞬かせる。
女の笑みは所謂営業スマイルと、本心を悟らせない防御反応が合わさったもので。
親しみやすいと思われているとは思わなかった。]
[目の前の相手は女があまり関わらないタイプの雰囲気の人であった。
それが普段の彼であるかは、ともかくとして
その柔らかな雰囲気にあてられたのだろうか?
普段ならそんなことを感じることもない。
なぜなら人に対して関心を持たぬようにしているから。
でもこの男性には、無意識に、関心を持っているのだった。]
[――もし男の助手がこの光景を目にしたならば。
亜空間のなかで隕石雨と遭遇する心配をしただろう。
もちろん、男とて、世間体とか社交というものは知っている。
必要があれば、愛想笑いくらいは浮かべもする。
ただ、それは計算と打算によるものであって――、
相手に自然と微笑むだなどというのは、絶えてないことだった]
[――どれだけ親しくなっても、相手が先に死ぬからと。
いつからか他人と関係を深めることを避け、研究に没頭し、科学と結婚した。
自分の研究に影響がない相手なら、他人の感情など気にも留めずに生きてきた。
それなのに、どうしてだろうか。
彼女に対しては、男は自然、好印象を得ようと振る舞っていた。
それは、男が求める物資を彼女が有しているからというだけでは、説明がつかないものだった]
[もしもの話とはいえ、物騒であるし、悲観的でもある。
恋天使の力がもっと強く働いて、明確に恋愛を錯覚していたならば。
あるいはもっと穏当な理由、たとえば護身のためだとか、誤魔化したかもしれない。
ただ、そうするには、男が恋愛から縁遠くなった期間は長く、
そして、科学研究がすべてと打ち込んでいた期間もまた、長かった。
そのためか、恋天使の力の影響がこの件には及ばずに。
男の本音そのままと、ならば自爆だという斜め上の発想が垂れ流されたのだろうか]
[目を瞬かせる。
相手に呼ばれた自身の名前。
それはなぜだかとても甘く、優しく、響いた。
もう親とも言えない両親や、乗員に呼ばれるのとは違う。
それは感じた記憶のない、響きに聞こえて。
その微笑みと同じく目を、耳を、奪われ一瞬固まった。]
[その微笑みから感じるものは当然好印象でしかない。
相手の振る舞いは功を奏していたことだろう。
普段は相手のことなど見ているようで見ていない女。他人に対して無関心でいたかった女。
しかし目の前の相手に対してはそんな葛藤など些細なことのように吹き飛んで。
―――もっとこちらを向いてほしい、
と、思うのだった。]
[どうしてこんなに動揺してしまったのか、自身にもわからない。
ただ“居なくなってほしくない”と、そんな思いが浮かんで。]
[―――本当はそんなことをしてほしくないと。
寄生されても生きてほしいと少しでも考えてしまったのは、
ただ、自身のエゴでしかないのだ。
それは、元の場所にちゃんと帰ってほしいという、
女が本来持っていた願いとはまた、別のものだろうが。]
[だからできればそうならないように、この船を、この人を、守ろうと思った。
具体的な方法など、何もその手になかったけれど。]
[――ただ、彼女がその結論に至るまで。
考え込み、迷っている様子に、ちくりと胸が痛んだ。
そんな顔をさせたいわけでは、なかったのだけれども――]
[だって、そうだろう――もし、それが役に立つときがあるならば。
それは、この船がほとんどガルーに乗っ取られているということだ。
そんな状況では、目の前の彼女だって、どうなっているか判らない。
その可能性を、男はひどく嫌なものに感じていた
――他人の生き死にへの興味など、とうに失ったと思っていたのに]
[どうやら、研究以外に能のない自分でも。
彼女を和ませることくらいは出来たらしい。
――そのことは、男の心に温かな感覚をもたらした]
[――科学とは、事実を積み重ねていく世界である。
"信じられる"と"信じたい"のあいだには、深い溝がある。
その違いを、男が知らないはずはなかったが――]
[――いちど逡巡した理由に、男は気付いていない。
正確にいえば、気付かないようにしていた。
彼女にとって、そんな相手がいるとして――その関係は、たとえば。
――どうにも、その先を考えたいとは思えなかったので]
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