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[ 二人が話を終えてから
どれほど時間が経った頃だろう。
王宮の一室の扉は固く閉ざされ、
内側からも鍵がかけられて
その後暫く開く様子は無かった。* ]
[一頻り見て回って、中庭に出た。]
…ここが全ての発端で。
得る代わりに喪った場所で。
…… はは、
時が経つのは… 早いな、
それともここ最近が巡るましかっただけか、
[答えは、ない。
彼女はその金の目に、凛とした色を湛えて俺を真っ直ぐ見つめるだけ。
ここから見た空は、遠いのか近いのか、広いのか狭いのかも分からないほどに、闇色に融けていた。
降り注ぐ、潤いを齎す筈の水は只管に冷たく、体温を奪っていく気がした。]
あぁ、どうか止まないでくれ。
この身が風に乗る前に流してくれ。
[静かに静かに、零すように口にする。]
この国に
…抱えてしまったこの重さを消してくれ、
[来た時は、身一つに少量の荷物ばかりだった。
俺自身、そのまま立ち消えるだろうと思っていたのに、長居してしまった。
─── 思い出を、作ってしまった。
翼に重い荷などないというのに、ただ飛び立つのが苦痛なのだ。
忘れられるのに恐ろしさを感じたなら、それは旅鳥にあってはならないのだ。]
我儘、だな。
何処へでも気儘に行くと言いながら、
他の者には忘れてほしくないなどと。
[真上を見仰ぐ。
この身も押し流すような、豪雨であればよかったのに、と、切に思ったが。
それ以上の言葉は口にしなかった。]
[明朝、東屋の付近に2、3の白い羽根が落ちているばかりで、俺はそこには居なかった。
“
そう書かれた手紙が、読まれるのかも分からないまま、その扉の下に差してあるばかりだ。]*
[つい。と、細い指先が唇を塞ぐ。>>49
それは幼い日、くすくすと笑い零しながら内緒話を交わしていた日々とと同じような、親し気な仕草で。その記憶に思わずヘーゼルの双眸がほんの僅かに瞠られた。
続いた願いに頷きが返ることはなく、けれど瞳見交わせば通じただろう。声はなく、先を促す態で沈黙を保つ。]
[続いて語られたのは、これまで聞いたことのない彼女の過去。抑えた口調は、それだからより一層の思いを滲ませて響くように聞こえた。
人としての、と。>>51
繰り返すように音なく唇が動く。
彼女の言葉を聞きながら、同時に思い出したことがある。
───── ああ、いつから、
いつしか彼女が執るようになった、丁重な態度。言葉遣い。
それを自分は、距離だと思った。……壁、だった。>>0:274
それを自覚したのはいつ頃の話だったろう。
…─── 君は、もうずっと前から、
それに気付きながら、身分の違いの所為だろうか、だなんて。
思えば随分暢気な勘違いで思い悩んでいたものだ。彼女にとって彼女にとってもラメールは憎き国だったのではあるまいか。彼女の祖国で争い、死を齎し、苦しめた国だったのではあるまいか。
それも知らず。───なんて
[それなのに。彼女は約束をしたのだという。
国に、人々に自分と同じ苦しみを与えるためではなく。
…───救うために、と。>>53
その意図を理解して、ウェルシュの表情が僅かに歪んだ。
時同じく、意識に浮かぶ言葉>>0:326がある。
それは僅か一か月ほど前の、…既に遠い昔とすら感じられるほど以前の、最後の平和な頃の記憶で。]
……… そうか、
[ぽつ。と、音が零れる。
一見脈絡のないその言葉を、彼女はどう聞いただろうか。]
最初に君を裏切ったのは、 …… 私 、か。
[正確には世継ぎを巡る争いが。
彼女の心に、最後の絶望を与えてしまったのではなかったか。
あの時>>0:312誓ったはずなのに。それを守れなかったのはウェルシュ自身であり…この国そのものだったのではなかったか。]
[は。と深い息が落ちる。
彼女の言葉>>55は止まらない。続く言葉、生を諦めるかの言葉にウェルシュは一度視線を落とした。
自分は好き勝手をしてその癖に。ウェルシュは無言のうちに、自らの手で手を胸の前に握った。その感触を確かめるかの間を、僅かに置いて、
───── ぱしん。
左の掌が彼女の頬に鳴る。
頬が赤くなる程の強さでも痛むほどの強さでもない。
けれど視線を逸らした彼女の頬に、小さな音を鳴らしたなら]
──── ふざけるな!!!
[怒鳴り声は、扉の外にまで響いたか。構うことはない。
怒りの矛先は己自身にか、彼女へか。怒りなのか哀しみなのか、もやは綯交ぜになった激情のままに叩きつける。
ウェルシュは両の腕を彼女の肩へ伸ばした。逃れようとしても構わない、掴む。半ば強引に肩を押さえて、睨みつけるように間近に彼女の顔を覗き込んで。]
………何?
それで勝手に死ぬって?
死んでも気にするなって言うのかい?
君は、私からまだこれ以上に大切な人を奪うというのか。
兄上をその手で奪っておいて、
…………… ふざけないでくれ!!
君に頼まれなくても、私は生きるさ。
……知っているかい?
王はなくとも民はあり、王がなくとも国はある。
逆に民がなくば王はなく、…国なくしても王はない。
生きるよ。……生きて、ある限りは。
[誰かにとっての利用価値がある限りは。音にしない響きは、伝わっても伝わらなくてもどうでも良かった。
南の国の王は、無意味に人の命を奪わぬという>>53
ならばラメール最後の王族であるウェルシュは、傀儡か幽閉か人質か、いずれ明るい未来ではないにせよ、暫し生かされてはおくだろう。
ウェルシュの頬に苦い笑みが上った。それを自覚することなく、言葉を続ける。]
[最後の声は、細く。殆ど音にならない声は届いたか。
痛いほどに強く。両肩掴んでいた指先から、緩々と力は抜けて行き。]
…─── 約束を、
[誓った約束、彼女は覚えているだろうか。数日前にも繰り返した>>2:165、それは今となっては空しいばかりのものだれど。]
君を守ると言った約束を、
……もう、果たすことは出来ないけど。
[言いながら、ウェルシュはある物を懐から取り出した。
それは銀のイトスギの枝葉の繊細な装飾品、今は行方知れずの古い友の忘れ形見で。]
これを持っていって。
そして白鷹連れた人を見つけたら渡して欲しい。
知らず、私が傷つけていた人なんだ。
[君と同じく、と。そう心の中にだけ続けて、押し付けるようにしたそれは受け取られたか。受け取られずともそれは、傍らの机の上に置かれて。]
……。だから、行くんだ。いいね?
[やって来る南の隣国、それが彼女を狙うというなら守る術はウェルシュにはない。だから行けと、間に合わなくなる前に行ってしまえとその背を押す。
願うこと。それだけが、最後に自分が彼女にしてやれる最後のことだから。]
[淡い色の双眸と視線が絡んだ。音はない。
彼女から贈られる餞の言葉、それには僅かに頷きが返る>>57
一歩、離れればその距離が再び埋まることは二度となく。
名残り惜しむように止まったのは僅かの間、やがてウェルシュは促しに従うように踵を返した。]
……いや。見張りは不要だ。
ああ、鍵も要らない。彼女の自由に、しておいてくれ。
[兄を手に掛けた彼女の罪の告白を聞いたのは、この耳のみ。
だからウェルシュがそう言ってしまえば、王宮の者らは戸惑いながらもその命に従った。声は扉の向こう、彼女の耳にもそれは響くだろう。
開けたままの扉、それが閉まる前にウェルシュはもう一度だけ振り返った。]
……─────、
[最後に向けたのは淡い微笑み。それと共に微かに動いた唇の動きは、音にされることはなく。そのまま静かに扉は再び閉ざされる。]
[暗い雨音の中、軍馬の嘶きが遠く響く。ざあざあと落ちる雨の雫は、路地に流れた血>>5:102を洗い流してゆく。王都の人々は不安に慄き、雨の中で眠れぬ朝を迎えようとしていた。
夜半に勢いを増した雨は朝方にかけ、次第に小雨に落ち着く風であった。
───ぽつん、と。軒先から大きな雫が滴って、地面に落ちた白い羽根>>61の上に飛び跳ねた。どんよりと雨雲の垂れた空が、次第にほの明るさを増していく。
長い夜が、次第に* 明けようとし始めている *]
[ 長い長い話を終えた後、
返ってきたのは一言の言葉だった。>>65
…違う、とも、そうだ、とも答えない。
沈黙が暫し娘と彼の間に横たわる。
確かに、一助になっていた。
世継ぎを巡る争いも――王が殺された事実も。
何も知らずに
……叶うならば。
真に
絶望の炎に、後悔の焔に、恐怖の劫火に、
焼き焦がされてしまいそうで――目を逸らした。 ]
[ それは実際には、
軽く叩いた程度だったのだろう。
痕すら残らないほどに軽い、
…けれど、とても重い衝撃だった。
思わず目を瞠って
低く紡がれる声を聴いた。>>67
荒げた声>>68を聞いた。
伸ばされた手が両肩を掴む。
視線を逸らすことは――叶わない。
睨むようなヘーゼルの視線と目が逢った。 ]
―― っ ふざけて、なんか
[ 言い返そうとした言葉が詰まる。
瞳の奥が熱くて、鈍く痛んで
零れ落ちそうな何かを
堪えるように強く強く唇を噛んだ。 ]
……、………
[ そのまま次の言葉を聞き届ける。
生きると。>>70
そして、彼もまた堪えるように言う。
生きて欲しいと。>>71
殆ど声にならない音すら
距離の近さ故に耳が拾った。 ]
[ …拾って、しまう。 ]
[ 掴まれた肩に痛みは無かった。
ただ少しずつ離れていく指の先に>>72
抑え難い寂寥を感じて――… それでも
最早いつかのようにその手のひらは掴めない。
ただ、再び形に成る声を
言葉が在るのならば聞くだけ。
互いに触れられる距離にありながら
すでに、刻まれた溝は海ほどに深く、
彼岸ほどに離れてしまっている。
差し出された装飾品を無言のままに受け取る。
白鷹を伴う人が誰か名を聞かずとも判った。
噫、彼にも別れを告げたのだった、と。
不意に思い出す。
…反射的に、言葉が出る。 ]
っ …はは
……本当に……――――、
[ イトスギの繊細な細工
いつだか目にした時に相対した人>>1:62
大好きだったと自分に告げた彼>>43
吐息が音に成らずに落ちる。声が、掠れた。 ]
[ 滴が一粒零れる。
確認するような言葉>>73に微かに頷いて。
餞の言葉を最後にその背を見送る。
振り向く顔に浮かべられた微笑み>>75と
透明な言葉には黙したままで一度瞳を伏せ ]
[ 苦く切なげな微笑みで応えた。 ]
[ その直後、
―――― 扉の閉まる音が向けた背を叩いていた。 ]
― しばらく後の話 ―
[ 激しい雨粒が窓を叩いている。
客室でもなければ、
使用人の泊まる部屋でもなく、
人一人が暫く居るには丁度いい
王宮の一室に、今は人の姿は無い。
只、机の上にぽつねんと
折られた筆と一枚の絵だけが在る。
古めいた紙切れ>>2:183は
長い間仕舞い込んであったように
日に焼けては居ても傷んではいない。
それは独特の色遣いと線で描かれた
夜明けの空を飛ぶ鳥の傍に沿うように
一羽の白い鳥が書き足された* 絵だった * ]
― 夜明け ―
[夜の果てが過ぎた頃。
海の見える高台に、リュートを爪弾き歌を奏でる吟遊詩人の姿があった。
明星が残る空のもと、朗々と紡がれる物語は誰の耳にも入らずに。暁に輝く海へと消えていった。]
― 暁天はかく語りき ―
黎明に、明星(あかぼし)二つ。
星に集いし者たちの、争う果てに星落つる。
明ける空に、残りしものは……
[――吟遊詩人ディルドレ。
暁の国が栄えた時代、大陸に名を馳せた吟遊詩人。
彼女が紡いだとされる歌は、詩篇や民謡という形で語り継がれ今も各地に残っている。
"暁天はかく語りき"と題されたこの詩は序歌として引用されているが、暁の国の末路に関する詩篇は見つかっておらず。行く末を見届けることなく東の地へと渡ったという説や、戦禍の中で命を落としたという説もあり、その後の足取りについては未だ不明な点が多い。
後世の研究により、暁の国の斜陽を巡るいくつかのバラッドから成る詩篇がディルドレの残した最後の詩であると言われている。
暁の時代は後世の芸術家や好事家に好まれた題材であり、未完の詩の先もまた幾人もの詩人の手によって紡がれている。史実を始めとし、当時描かれた詩歌や絵画などを想像の種火として、現代においても暁の国を巡る様々な物語が生み出されている。 **]
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