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母上。
花嫁修業をしてくれ。
このドレスに負けぬよう、着こなせるようになりたい。
[母は何事かと言う顔をした。
ギィの顔と、その手にあるドレスを交互に見て、首を傾げる。
心の中でアプサラスに謝罪し、母に彼女から送られた手紙を渡す。
怪訝そうな表情のまま、母は手紙を読み、やがて、大きく大きく息を吐いた。
「“貴女”をちゃんと見て下さっているのね」
母の柔らかい声に頷いた。]
あぁ、そうなんだ。
そういう人なんだ、彼女は。
[「素敵な方ね」と母は笑った。]
[それから母はドレスを見、娘の顔へと視線を戻す。
「今までさぼっていた分、覚悟なさい。時間がありません、厳しく行きますよ。歩き方ひとつから指導します」]
あぁ、望むところだ。
[しっかりと頷いた。]
[たった数日で季節は更に進んだように思えます。
冬特有の冷たい乾いた風が休むことなく窓を叩くのですが
胸の奥が暖かい私には届きません。
無地のヴェールの四隅に大小の蝶を一刺し一刺し丁寧に
刺していきながら、そろそろ荷が届いたであろう隣国の
あの方を思うのです。]
どんな顔をされているかしら。
怒っていなければ良いけれど。
[少し我儘が過ぎたかしら。
でもあれはあの方が望んだから我儘を言ったのよ、と
まだ何も言われていないのに勝手に頭の中でお話をしていました。]
[刺繍の道具の横には今までもらったお友達からの手紙。
勇気を頂いたお手紙を読み直しながら、
その言葉を忘れぬように縫っていくのです。]
シルキー様も私より随分成長されたことをおっしゃるのね。
[文章自体はまだまだかもしれませんが、シルキー様の
考えは素晴らしいと思いました。]
あ、そうだわ。
[そこでふと、1つ思いついた私は休憩を含めて
手紙を書くことにしたのです。
ただ便箋には少し悩みました。
だってお友達ではないけれど大切なお手紙ですもの。]
[友人の幸せを祈りながら手紙を送った後、
少しの休憩のはずでしたが、少し事件がありました。
お父様の猟犬たちが騒いで、召使たちが私を呼んだのです。]
一体どうしたのです?
[謝罪を繰り返しながらも召使の顔には困惑が浮かんでいます。
心配になって何度も説明を受けて、ようやく理解出来ました。
私宛の荷手紙が届いたけれど、猟犬が騒ぐので確認したところ
形容しがたい匂いがするのだと。
捨ててしまいたいが、隣国の領主の印がある為どうにも出来ないと
私に泣き付いてきたのでした。]
ディーター様が変なものを贈ってこられるはずが
ないでしょう?
[そんな騒いで失礼なと思いつつ、まずは手紙を開きました。]
……ディーター様……これは……。
[顔色を窺う召使たちに見せた私の顔も困惑していたでしょう。
大変、大変心の籠った素晴らしいものでしたが。]
悪いものではありません。
領主様からの心尽しの荷です。
私が開けましょう。
[中身の予想が付いていたため、驚くことはありませんでしたが。
海の幸とは少し縁遠い地。
慣れぬ匂いと、砂漠と森育ちの召使たちは
見たことのない形の贈り物に
小さな悲鳴を上げる者さえおりました。]
[この魔物の様なものはと問われましたが、私は海に住むイカだと
教えるくらいしか出来ませんでした。
市場の視察で見たことがある程度で、食べ方も判りません。
料理人に何とか調理出来ないか頼んでみたのですが。
……その日館の中はどんな香水よりも干物が焼けた匂いが
自己主張しておりました。]
[昨夜の夕餉は領民から届けられた鶉と魚だった。
浮き立つ領地の空気に、落ち着かないような気がする。
鶉のパイと、取れたばかりの白身魚のスープ。
不安に揺れるよりも喜んでくれる人がいることが、何よりも幸せである気がした。]
[遠方の地よりもぞくぞくと届く今回の大合併の情報と慶事と、それに付随する私的な手紙。
目を通して返事を書く腕がむくまぬように、侍女頭が目を光らせている。]
そこまで根を詰めたりはしないわ。
[苦笑しても、母親代わりに長く面倒を見てくれた侍女頭はすぐには頷かない。
このまま婚期を逃して、修道院の世話でもして終生を終えるのか――。
と思われていた身としては、強く抗議も出来ない。
婚約を祝う手紙はいくつもあれど、見知った人からの手紙は殊更に心を動かす。
その中でも一通だけ、別におかれた手紙。
受け取ったのは昨日のことであるのに、なかなか返事が書けないでいた。]
――― ハッ!
[葦毛色の愛馬の腹を蹴り、早駆けから諾足に切り替えさせる。
領都を見下ろす丘上に建つフェルマー邸前では、
馬番と補佐官が主人の帰りを粛々と待っていた。]
どぅどぅ、……出迎えご苦労さん。
やはり、例の場所に橋を架けるなら、
うちの予算だけじゃ賄えなさそうだ。
民には悪いが、定期船の航路を伸ばすってことで手を打つ心算だ。
[鬣を揺らす愛馬に制止を掛けながら、視察状況を口にするも、
頼るのは先日第三領土まで開通させた汽船。
第四領土の造船技術を駆使し、
第三領土の良質な石炭を燃料とする領内貿易の要。]
[荷の正体が判った後、私は髪に干物の匂いが付いていないか
確認をしてもらいました。
森の恵みや焼き畑の炎の残り香、作物、土の香りは
慣れてはいますが、海の香りに馴染むのは簡単には
行かないようです。
部屋に戻ると急いでお返事の為に便箋を広げました。]
仕方がないだろう、
増水で流れちまうような橋を架ける訳にはいかない。
それに測量が終わってからだ、公事ってのは金と時間が掛かる。
[馬を降りてぴしゃりと云いきれば、馬の手綱を引く。
馬小屋へ馬を預けるのは領主の仕事ではないが、
第四領主フェルマー家の家訓50項は、出したらしまう、だ。
恐縮する馬番は新入りなのか、自発的な労働に戸惑いを見せるも、
先代から仕える年老いた補佐官は慣れたもの。
露骨に木製のトレイを掲げて見せて、己の眼を細く眇めさせる。
その上に載っているのは―――、各領主家からの封書。]
………、……。
―――…まぁ、新人なら仕事も覚えねばならんよな。
[咳払いをひとつ挟んでから、手綱と交換に封書を摘み上げる。
手袋越しにも、手紙は寒風に晒され良く乾いていた。]
――――……、……あった。
[送り主の名は努めてさりげなく確認したが、
零れた一言は無意識の範疇に過ぎて飲み込み損ねた。
霊峰を越えし文に、気を揉み続けるなんて、
自身には到底似合わないと知りながらも。]
[祝いの贈り物は山と届くけれど、その実どれほどが本当に心を砕いた贈り物であろうか、と。
ふと手紙を封筒に包みながら考える。
若い女性が好みそうな甘さはない。
そんな色ではあるが、爽やかな風を思わせてくれるオパールグリーンの紙に祝辞の言葉を乗せた。
包む手漉き紙の封筒は無骨な厚さ。
どこか温かみのあるそれが、変に気取ったものを選ぶよりも手紙を宛てた人には相応しい気がした。]
[拡げた最初の封書は気持ちの良い青年から。
踊るような文字列は北方とは異なる潮香が立つよう。
羽ペンをインクに浸しながら読み進めれば、思わず破顔一笑。
己と然程、年も変わらないのに、屈託のない伸びやかさが伺える。
これが南方領の気風と云う奴だろうか。
個人的な見解だが、北方は厳格で、南方は明るく、
西方は穏やかで、東方は華やかな気風があるように思う。
この区分で行くと、第三領と第四領は気風が逆転しているが、
そこは、領主の年齢差故かもしれない。]
[外套の上からひざ掛けをまとい、はあ、と手に息を吹きかけて溜めていた返事を書き綴る。]
……ふう。
随分お待たせして、嫌われていないだろうか。
[それから、今だけは特別と温かいミルクにブランデーをひと滴垂らして。脳裏に躍る文字を手繰り抱きしめるように、婚約者からの手紙をもう一度読み返す。胃だけでなく、胸の真ん中をほこほことさせて取り出すのは、とっておきの便箋。
弱音とは裏腹、口許には笑みが浮かんでいる。
ついでに鼻下に白ひげを蓄え、丁寧に硝子筆を躍らせた。]
[返事を送ろうとした一人は、既に成婚のために手紙も届けられない、と聞かされた。
残念ではあるものの、また会う機会もあろうと、贈り物を考える。
珍しい絹織物、上質な香油、あるいは職人手製の装飾品。
手土産には当然の品ではあるが、結婚後の贈り物となれば、伴侶の好みも反映されようか。
楽しい悩みが増えたことに、小さく笑む。
同じく慶事を告げる友からの返事に
――すれ違った手紙との区別のためか律儀に書かれた日付の几帳面さも彼女らしく――
不安だったものへ、背を押してもらったような気がした。
ほう、と零したのはため息ではなく、安堵の吐息。]
まぁ。ギレーヌ様から!
[湯浴みの後に刺繍を再開しようと部屋に戻ると
待ち望んだお手紙が届いておりました。
私は髪を整えるのも後回し。
急いで、それでも封を傷付けず丁寧に開けようとして
手が震えている事に気付いて笑いそうになりました。]
どうしましょう。ドキドキするわ。
[胸に手を当てて、どのお返事が来たのか判らないから
逸る鼓動を抑えながら手紙を開きました。
最初の手紙とは違う少し乱れた文字と文章。
それが猶更あの方のお気持ちを表しているようで
私はそっと胸に手紙を押し当ててあの方を感じようとしたのでした。]
[相変わらず入違っている内容に、
それでも笑ってしまうのは私が我儘を通してしまったから。
どんなお返事が追いかけて来るのか怖いけれど、
どんなお返事でも私には大切になるでしょう。
刺繍を放り投げて早速机に向かった私は
一番のお気に入りの便箋を探してお返事を書きました。]
[渉外担当の者に、ベルティルデの体型がわかるような資料をお願いして(一瞬にやにやされたがそうじゃないと一蹴したりなんてこともあったり)、部屋に戻ると、机の上にまた、個人的な手紙が届けられていた。]
……懐かしいな、あいつ。
[一人は釣り勝負をして自分がうっかり圧勝してしまった相手。
まだ未婚の女性だというのに、つい「あいつ」なんて同性の友人を呼ぶように言ってしまう。
楽しい気持ちで返信をしたためる。]
……ふふ、ふふ、ふふふ。
[最後の一文を眺め、思わず不審な笑みがこぼれる。
慣れぬアルコールにふわふわとした心地でも、今度はしっかりと宛先を確認して、再びベッドに沈む。
今度は夢も見ないほどぐっすりと眠った。
――そして、翌朝。
霊峰の一部は既に雪化粧を施されて、厳しくそして美しい自然と、その先に住まう者のことを想いながら。
郵便屋の方が確かだが、ここはあえて"友"に託そうと、手紙や包みを鳩の足に括りつけ、空に放つ。]
[次の一通は、読んでいる途中、少し眉が寄ってしまった。]
理想の、夫婦……?
[婚約者からの手紙を取り出して読み返す。
公的文書のような簡素かつ簡潔な文。
いや一点、彼女の思いが書いてある。「誠実」と。]
ううーん、夫婦で誠実、ねえ。
そりゃあ大事だろうけど。
[もっとこう、互いを思いやるとか支え合うとかじゃないんだなあと改めて、宙を見ながら考える。
自分はこの婚約に多少なりとも浮かれていたが、相手はそうじゃないのかもしれない。
温度差は、埋めておきたいな、なんて思いながらも、多少の嫉妬心も交えて返事をつづった。
明日は朝から遠方に視察に行くから、手紙は家の者に託さなきゃな、なんて思いながら封を閉じる。]
[一度羽ペンを擱くと、次の封書を開く。
些か手が震えるのは致し方ない。
しかし、そんな忸怩を、手紙は一行目から粉々に砕き、
男が自然と噴き出してしまうのも道理であった。]
――― は、はっはっ。
第三領とは言語が違うってのか、お転婆め。
[笑気で構えていた心を軽くしたが、
同時に胸に流れ込んできたのは安堵の色。
彼女が婚約を定められてから、
何を想い、如何過ごしてきたのかは分からない。
だが、仮に空元気だとしても、筆を執れるようにはなったのだ。
それが何故か、とても清々しく思えて気が晴れた。]
……分かっているよ、嬢ちゃん。
お前さんだって多感な年頃だ、
悩むこともあろうし、呑み切れないものだってあるだろう。
[身体を弛緩させて椅子に身を任せると、
だらしない姿勢でペンを握り直す。
何を書くべきか、何を書かざるべきか。
恋文すらも書いたことのない朴念仁は、
未来の妻へ宛てた手紙すら、たっぷりと時間を掛けた。]
[最後に紛れていた封書には、送り主に似合わぬ乱れた文字列。
光に透かして見ても、裏は見えてこない。]
―――…運命、か。
俺は生まれながらに領主たらんと育てられたが、
別に山脈を越えて、国どころか世界を見に行っても良かった。
だが、結局腰を落ち着けたのはこの河川領だ。
命を運ぶ道くらい、自分で選びたいものだよな。
[ふ、と淡く笑う吐息を吐いて、レターボックスに紙切れを仕舞う。
貞淑を善とするオベルジーヌでは、成婚後しばらくは、
独身者と信書を送り合ってはならないとされている。
見解は、そう、例えば祝いの席で聞けば良いのだ。]
[この日受け取った手紙は三通。
そのうち一通の差出人は弟の親友だが、
先日と違うのは、ラートリー宛のものだということだ。]
これは――私も失礼なことを、言ってしまったな。
悪い人物ではない。むしろユーモアのある人物か。
そも、うちの愚弟かて、悪い付き合いをしているわけがないな。
[手紙に綴られた必死の弁明の文字から、
差出人がどんな顔をしているか想像がつくようで、
くすりと笑みを浮かべる。
―――が、次の瞬間、はっとしたように
先週出した手紙を思い出した。
それは、この弟の親友の、婚約者に宛てたもので。]
ああぁ……老婆心が過ぎてしまった……
[先週出したのは年若いシルキーを心配しての手紙。だが、今受け取った真摯な手紙――そして手紙の問いかけを読めば、シルキーの婚約者の懐の深さが、見えて来るではないか。]
[手紙を出して再び屋敷へと戻ると、玄関先になにやらシベリアオオヤマネコのような、愛らしい動物が3(6x1)匹。
これも立派な『郵便局員』で、配達に来ていたのである。
少女が手紙を受け取ると、彼らは『職場』へと戻って行った。
もっとも、その中にあった金鳳花の封書の送り主には成婚の後で返すことができないらしいので、贈り物をすることにした。]
…国語、教えてくれる?
『初めからサボらなければいいのですよ…』
言っとくけど、遊びたくてサボってるわけじゃないんだからね!
[とかなんとか。教わりながら書くことにした。そのため、書き直された文字もある。]
[さっそく開けると、笑顔がかわいいスノーマンの絵がお目見え。]
シーツを蹴飛ばしてって…さては体験談だな?
[などと言いながらお返事をしたためるその相手は、婚礼を伝えられた公女様。]
[書斎で手紙を書き終え、くぅっと伸びをする。
こちらの地方は朝から小雨がぱらついていた。]
……静かだな
[暖炉の薪がはぜる音以外は、しんとした空間。
ふと窓の外に目をやれば、眩い白がはらはらと舞い降りている。]
―――雪か!
道理で寒いわけだ。
[北の領地に、冬の訪れ。]
……。
……。
こう、夫婦というのは、
寒い日には寄り添うて、
体温を分かち合うのだろうか。
……いや、ええと
…………私は何を言っているんだ。
[ふるふると首を横に振り、
火照る頬に両手を添え、ぺちぺちと冷えた指先で熱を散らした。]
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