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戦いはいよいよ現実のものとなった。
吹き上がる戦火は、人々に選択を迫る。
自ら望んで戦いに身を投じるもの。
守るもののため、武器を手にするもの。
才覚一つで、戦乱の時を乗り越えようとするもの。
戦火に紛れ、己の目的を果たそうとするもの。
戦いを見守り、あるいは止めようとするもの。
己の思惑を果たせるのは誰か。
思いの剣が交錯する先へ、歴史は進む。
どうやらこの中には、村人が3名、人狼が1名いるようだ。
[夜が更けるにつれて入札が順次締め切られ、落札者が決まっていく。
真夜中の鐘と同時に全てのオークションが終了した。
落札された宝飾品はモデルと共に、買い手の要望通りに梱包され、引き渡される。
望めば島内のどこへでも送り届けられた。]
[ 落札の結果はバーラウンジで聞いた。
他の出品を覗く気も起きず、彼とのこれからを想像して過ごしていたのだ。
望み通りの展開にも有頂天になる様子は見せず、契約の書類にサインをする。]
ああ、よい買い物をしたと思っているよ。
それでは彼をガラスケースから出して。
付属品はすべてそのままで、礼拝堂へ運んでくれ。
[ 聖職者が常駐する本物の礼拝堂ではなく、ホテル併設の結婚式用の模擬礼拝堂だが、十字架が一番似合うのは、やはりそこだろう。
指示を出した後、ナイジェルは珊瑚石に似た赤い酒をボトルで一本購い、ゆっくりと礼拝堂へ向かう。]
[鐘が鳴り止むより前に、黒服たちが現れてガラスケースを開ける。
下ろされるのかと思いきや、十字架ごと台車に乗せられた。
黒服たちが出品物と会話を交わさないことは分かっていたから、余計な問いかけはしない。
布に包まれて運ばれる間は、期待と不安とその他の様々な感情に心を遊ばせていた。]
― 礼拝堂 ―
[布を解かれたのは、天井の高い建物の中だった。
周囲を見回して、それが礼拝堂だと知る。
説教台を退かして十字架を据え、黒服たちは速やかに退出していく。
ドームの高い位置にあるステンドグラスから、月光がとりどりな色を帯びて十字架に注いでいた。
静けさが戻った後、再び顔を伏せて目を閉じる。
高鳴る心を胸に、運命の訪れを待った。]
[ 仮面はつけたまま、礼拝堂に赴く。
一番目立つ場所に、彼が安置されているのを見つけた。
彼は希望どおり磔刑のまま、ただ先ほどまでの漂白されたような色合いから、ステンドグラスのもたらす色彩のパレットへと変化している。
主催者も月光もいい仕事をしてくれているようだ。
静寂の中、ドームに自分の足音がよく反響するのを耳にしながら彼の前まで歩いてゆく。]
愛しい者よ、おめでとう。
君は僕が競り落とした。
さあ、記念すべき初夜を共に過ごそう。
[先触れは、靴音だった。
硬質の音が、一定のリズムで近づいてくる。
反響に包まれて、体が微かに震えた。
空気を揺らす波が、肌の奥まで響かせるかのよう。
靴音が近くへ来ても、顔は上げなかった。
目の前で音が止まり、反響が一瞬の静寂へ吸い込まれた時も、まだ動かなかった。
いくつもの感情がない交ぜになったこの胸の高鳴りを、できる限り長く味わっていたかったから。]
[瞼を開いたのは、その声が耳に届いたから。
喜び一色に塗り替えられる心に押し上げられて、顔を上げる。
焦がれた待ち人が、そこに立っていた。]
ナイジェル。
[囁きの声で、情感を込めて、その名を呼ぶ。]
早く、もっと 来て …
[もう待てない。溢れた想いが語尾を掠れさせる。
体を揺らし、彼の言葉を歓迎した。]
[ 溢れんばかりの切なさを秘めた彼の声で呼ばれることのなんと甘美なことか。]
僕が愛でようとする者の名をその唇に乗せておくれ。
君のことをもっと知りたい。
[ 今は許された距離まで近づき、珊瑚石のネックレスを巻いた手首に軽く触れる。]
ソマリ。
[触れられて呻くのと、手指を握りしめるのと、求めに応えるのを同時にする。
猫を思わせる名を口にして、淡い金緑の瞳を光らせ、口を開いて噛みつくまねをしてみせた。]
亡霊ではないよ。
君のためにある命だ。
愛でるも散らすも、望むままに。
[微笑みが妖艶さを纏う。
何をされるのも喜びだと朱差す目元が語る。]
ソマリ。
よい響きだ。
[ 彼が口にした抑揚を繰り返し、心に刻む。
噛み付く仕草には、わざとらしく首を振り、彼の首の後ろに手を回した。]
お仕置きされたいのか ?
悪戯なソマリ。
だがまずは物語を聞かせてくれ。
この美しい磔刑のアイデアを思いついたのは君なのかい。
[ 問いかける間も、指は髪を梳く。]
[ナイジェルの手が首筋に伸びる。
近くなった体温に、息を零した。
もっと体温と匂いを感じたいと首を伸ばす。
その髪の中へ指が潜り込んで、顎が上がった。]
磔は、私を売りに出した者の仕業だよ。
聖なるものにくくりつけておかないと、私の中の悪魔が目覚めると、彼らは信じたらしい。
私はただ、私の運命を探して流離っていただけ。
彼らが私を捕らえて飾り立て、あそこに陳列した。
聖者が流す血の代わりに、この珊瑚を掛けて。
[夢見るような口調で経緯を語る。
滔々と紡がれる言葉は虚実の境を縫うかのよう。]
こうして君に巡り会えたのだから
全ては意味があったのだよ。
ああ、もっと、 触って ――…
[求める言葉ばかりは真情を含み、首筋を彼の手へ擦りつける。]
悪魔、ね。
確かに君の美しさは、敬虔さではなく情欲を掻き立てる類のものだ。
珊瑚石に似て、ね。
[ ソマリの長い髪の先端を仮面の口元に運ぶ。]
運命を探して、流離っていたとは ?
王家に縁のあるものと説明されていたのはネックレスの方だと思うが、君もそうなのかい。
いわくつきの品は、そそるよ。
その力を、もっと魅せてくれ。
[ 甘くねだる声に、指先を耳朶から鎖骨へ、サテンの襟へと滑らせる。]
[髪の先まで神経は通っているのだろうか。
白い仮面が髪を食む。その仕草に体が反応する。]
時折、何もかも投げ出したくなる。
生まれも、地位も、力も捨てて、
この身ひとつを世界に投げ込んでみたくなる。
そうしてみた結果が、今の私だよ。
[望まれるままに語り、触れられるままに身を捩る。
あえぐように、胸が大きく上下した。]
好奇心でこんな真似を ?
本当に君は猫のようだな。流離のソマリ。
[ 指で喉の下を撫でてやる。]
それで、ひとつきりの身柄を僕に買われたわけだ。
蠱惑的でミステリアスな君をショーウィンドゥに飾れば、きっと大人気だろう。
君自身はどうなんだ ?
皆に欲望の眼差しを向けられて、嬉しかった ?
[喉の下を撫でられて、目を細める。
猫のように喉は鳴らないが、息は零れた。]
君で良かった。
[ちらり、と舌を覗かせて、舐める仕草をする。]
買われたことに異論はないよ。
私は、君のものだ。
[首を傾けて指を誘う。首の横の柔らかな場所へと。]
賞賛も欲望も無意味だよ。
どれもこれも退屈なもの。
私にとっては君だけだった。
私の魂に火を付ける熱を持つひと。
ナイジェル。
君が欲しい。もっとほしい。
その眼差しで、私を溶かして。
[未だに彼の素顔は仮面の後ろに隠されたままだ。
暗い穴の奥から覗く瞳に、魅了される。]
あんな風に鑑賞される立場に置かれながら、君は主体性を失わず、むしろ主導権を握ろうとすらする。
実に貴顕階級らしいね。
[ 感嘆と興味の混ざった声でソマリの答えを評する。]
素敵だ。
もっと君を知りたい。 秘密の扉を開きたい。
存分に、開いて。
奥まで覗いて。
私も、君のことを知りたいから。
深くまで触れて、触れあって、
君を感じたい。
[求めに応え、欲望を上乗せする。]
魔性の麗人は、さすがに誘うのが上手だ。
もっとも、僕が君に触れるのは、悪魔を屈服させるためではなく、愛しさからだよ。
[ 告白して、ソマリの唇にそっと覆いかぶさる。]
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