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どうやらこの中には、村人が3名、共鳴者が2名、銀狼が1名いるようだ。
…良いのかい?
口移し、してくれるのかい?
[人ならざる身の悪癖が顔を出す。
目を瞬かせ、キラキラと輝く瞳を彼に向ければ、そのまま彼が突き付けたグラスにと白いワインを注ぎ。それから彼の横にそそっと座っただろう。嬉しいな。って雰囲気で尻尾をぱたぱたさせる勢いで、彼をみて。あ、そうだ。ってその耳に手を寄せ]
…お花。
今気づいたけど、君の眼の色は花と同じだね。
小さな花の色。
[この色も好きかもしれない。と低い声で告げた。
触れる手には少し強い力を籠めかけて、律しては気づく]
[夜が更けゆく中で、花たちの饗宴はますます色濃く匂い立つ。
既に何人かちらほらと消えていく人影もある中で、主催者は機嫌良く祭の参加者たちに声を掛けていった。
夜はまだまだこれから。
良き出会いをお楽しみ下さい。
いずれも、どれが優秀作品になってもおかしくはない力作揃い。
どの作品が栄誉を手にし、どの作者が闇に魅入られるかは、おたのしみ。]
[再び食堂に現れた時には、花束をひとつ抱えていた。
薄紅色と白の蓮の花は、未だ夜の懐で眠っている。
一度ひらいて閉じた二日目の蕾は、触れれば目覚めそうな風情で薄くほころんでいた。*]
[……しまった。どうやら失敗だったようだ。
嫌がらせのつもりだったのに、輝く笑顔で期待満面な瞳で彼はこちらを見ている。
グラスにウキウキと白ワインを追加されれば、逃げ場がないのを感じた。
それが自分に対しての悪意だったのならはねのけただけなのだけれど、彼はどうにもそういう風ではなくて。ただ、単に嬉しそうで。
どうして?と頭に疑問符が満ちる。
なんか自分の知らない宗教とか文化で、口移しだと幸せになれるおまじないとかそういうのでもあるのだろうかと思ってしまう。
だって、この人は自分が好きなあの人が好きだったわけで。
彼ではないと嫌だとかそういうのはないのだろうか。
本気でわからなくなるけれど]
[ 客の途切れた合間に、奥の小さい食堂の支度を整える。
そこは、カーテンを締め切った一種の暗室になっていた。
テーブルクロスも黒だ。
「闇に映える花」のテーマを演出するために、人工的な闇を作り出している。
光源は一本の蝋燭のみ。
混ぜ込んだドライフラワーの花影をほのかに浮かびあがらせるキャンドルは、料理の邪魔をしないよう、あえて香りは控えてある。
このテーブルに置くに相応しいのは、闇にも花にも映える白をベースにした料理だろう。
アルファルファのサラダにジャスミンを撒き、ハーブソルトとオイルでシンプルに味をつけたもの。豆乳仕立てのパスタに薔薇を散らしたもの。薄いライスペーパーに花を包んだ生春巻きなど── ]
…っ !
[ 閃くような痛みに目をやると、薔薇の棘に指先を刺されていた。
取り除いたと思っていたけれど、まだ残っていたらしい。
止血するほどの傷でもないが、手袋は替えなければ。]
[ と、人の気配── あるいは覚えのある香りを知覚して、ノトカーは迎えに出る。
玉髄公の姿を認め、微笑んだ。]
おかえりなさい。
外はいかがでした ?
[ 問いかけつつも、目は、彼が抱えている花束に吸い寄せられる。
チューリップ ? いや、もっと大きい蕾だ。
暁の色をほのかに透かしたものと、清楚な白。
まるで彼の子供ででもあるかのように大事に抱かれていると思った。*]
[改めて食堂を訪れると、奥のカーテンを巡らせたスペースに気がつく。
厚い布を寄せて現れたノトカーは、先ほどよりなお魅惑的な香りを纏っていた。
本能を刺激して止まない香りの正体を察して、目を細める。
刹那の、捕食者の眼差し。]
[けれども、お帰りなさいとの挨拶を聞けば笑みがほころんだ。
再度の訪問を迎えるのに、これ以上の挨拶はない。]
ずいぶんと目も鼻も楽しませてもらったよ。
素晴らしい作品ばかりだったけれども、
触れても口に入れてもいいものはここだけだったな。
[散策の感想と共に、花束を彼に差し出す。]
蓮の花が手に入ったのでね。
1日目の花が閉じた後の、もっとも美しい蕾だ。
君の手で剥かれるのを待っているはずだよ。
[手に入れた経緯は話さず、これも料理に使って欲しいという要望だけを告げる。*]
[ 他の出品に関する玉髄公の感想に頷く。
優雅な中にも好奇心旺盛な性格の感じられる彼のことだ、もしかして、他所でも、作品を食べていいか尋ねたりしたのだろうか。
想像すると、微笑ましい。
何か別格の親密さを覚える。
それは、彼から蓮を手渡された時も感じたことだ。]
…これは貴重なものを。
ありがとうございます。
[ 瑞々しく、すらりと育ち、一番美しい時に刈り取られた── 一目で上等な花だとわかる品だ。]
これほどのものをいただいた以上、あなたに幸福を味わってもらえなかったら、僕はいさぎよく負けを認めましょう。
[ 仕込みの間、前菜を召し上がっていてほしいと告げ、奥の部屋へと導く。
試食のテーブルには、離席する旨を掲示しておいた。*]
[美しい花を解する心は通じ合うものだ。
これはと選んだ蓮を受け取った彼の顔は仄かに上気し、口数が増えたのも浮き立つ心の現れと見えた。]
私は最初から君の手腕と発想に脱帽しているからね。
勝負事なら、私はとうに負けている。
[微笑んで答えた後、導かれるままに奥の部屋へ入った。*]
お待たせしました。
[ 表の食堂へ戻ってみれば、声から推察したとおりの審査員がいる。
テーブルに並べた試食はすべてなくなっていた。]
お楽しみいただけましたか。
[ 問いかけると、相手の視線がノトカーの胸元に向き、不満げな様子になる。]
[ 「それを」と、大食漢の審査員は、ノトカーの胸元に指を突きつけるようにして、玉髄公の紅い花を示した。
「それを、外して、食わせてもらいたい。代わりに、おれのをやろう」
なんだか、空恐ろしいほどの執着を感じさせる声音だった。
審査員同士で軋轢があるのかもしれない。
自分の料理を駆け引きの道具にされるのは嫌だった。]
申し訳ありません、これは食用ではありません。
[ 一歩も引かずに応対する。
玉髄公に選ばれたという思いが、ノトカーを強くしていた。]
代わりに、ひまわりなどはいかがですか。
[ 提案してみるが、相手は苛立ちを燻らせている様子だ。
ひまわりの種を噛んで、ストレス発散してほしい。*]
[外のやりとりが剣呑になったのを察して、カーテンに覆われた特別室より出る。
見れば、ノトカーとひとりの審査員が向かい合っていた。
あちらの審査員は、声にも態度にも不満が現れている。
それはそうだろう。
ご馳走を目の前で攫われたようなものだろうから。
もっとも、こちらも譲る気は毛頭無い。]
失礼。
[声を掛けると共に、ノトカーと審査員の間に割って入る。
向かい合った相手の顔色が、赤みを増した。
ノトカーに印をつけた相手だと気付いたのだろう。
不機嫌から怒気へと気配が変わる。]
彼は少々酔っているようだ。
[邸宅に満ちる花の香りにか、血と肉への渇望か。
いくらか抑制を欠いているのがわかる。
このまま引き下がる気はなさそうだが、審査員同士の私闘ともなれば招待してくれた主催者の顔を潰すことになる。
面倒なことだ、と口の端を引き上げた。]
彼は私が目をつけた子だよ。
見苦しいまねは止めて、大人しく引き下がりたまえ。
[ノトカーには聞こえない声で、相手の審査員に言い放つ。
自身の容姿と声をどう使えば相手がどう感じるは熟知していた。
ごく短い挑発で、相手は首まで真っ赤に血を上らせる。
退け、という怒鳴り声と共に相手の拳が振り上げられたが、それが振り下ろされることはなかった。]
[まともに目を合わせていたのが向こうの敗因だ。
凝視の魔力が相手の精神を絡め取り、眠らせる。
一歩前へ出て、力なく落ちてくる拳を掴み、崩れ落ちる体を抱き留めてやる。
あとは会場の係員に引き渡せば、終わりだった。
後日、なおも言いがかりをつけてくるような愚か者なら、その時にまた思い知らせてやればいいだろう。]
怪我はなかったかい?
[ノトカーに向き直って無事を問う。]
[ 騒ぎを聞きつけた玉髄公が仲介に入る。
食事を中断させてしまって申し訳なく思う一方、彼が来てくれた心強さに、ノトカーは小さく息を漏らした。
玉髄公が酔っていると告げた相手から、そこまで強い酒の匂いはしていなかったけれど、見る間に赤くなり足を縺れさせたから、玉髄公の声には暗示効果でもあるのかと驚いた。
相手が拳を振り上げた時には、反射的にそこにあったトレイを掴んでいた。
もはや相手はノトカーに注意を向けていなかったから、攻撃を受けるおそれはなかったのだけれど、とっさに玉髄公の助勢に入ろうと体が動いたのだ。
幸い、暴力沙汰になることもなく、相手は警備員に引き渡された。]
僕は大丈夫です。
果敢に対応していただき、助かりました。
[ 玉髄公が触れてしまわないよう、金属製のトレイを背中に回して、礼を言う。]
あなたの方こそ、ご気分を害されていなければいいのですが。
[ 戻って続きを、と促す笑顔に屈託はなかったから、それ以上は、済んだこととして脇に置いておく。
誠心誠意、玉髄公をもてなすことで報いよう。]
では、すぐにデザートをお持ちします。
[ あわせるのは、「感謝」の花言葉をもつカーネーションの工芸茶にしよう。
そんな算段をしながら、奥の部屋へと続くカーテンを玉髄公のために開いて通す。*]
[騒動の間、背後でノトカーが動いたのは逃げるためではなく立ち向かうためだと察せられた。
その責任感を、あるいは好意を好ましく思う。
彼の口から無事を聞けば、頷いて微笑んだ。
もはや邪魔が入ることはないだろう。
奥へ向かう彼の背中で、係のものに目配せする。
もう、食堂の展示は片付けてしまって構わないと。]
[掲げられたカーテンの下を通り、奥の部屋へ入る。
続いて入ったノトカーの背後でカーテンが閉まる寸前、さりげなく彼の腰へ腕を回した。*]
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