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[ 顔に触れてきた彼の手は、存外に冷たくはなかった。
黄金の眼差しに覗き込まれる。魂のありかを探らんとするごとく。
私だけを見なさいと囁く呪は、命の果てるまで続くのだろうと理解した。
そのまま、闇に引き込まれる。]
― 厩舎 ―
好きな馬を選ぶといい。
[ 誰に確認したわけでもないけれど、どのみち、他の聖騎士候補生たちはそれどころではなかろう。
エディは手際よくも優しい手つきで馬を扱っていた。
最初に撫でてやっていた馬は、講堂からの帰り道で行き合った長髪の候補生の馬らしい。
"蛇"がかまけている子だ。
むろん、そんなことは口にしなかったが、エディは何か感ずるところがあったらしい。
その馬を残して、月毛の馬を選ぶ。
鑑定眼はなかなかのものだった。]
[ 自分用には、連銭葦毛の馬を選ぶ。
おとなしい馬であったが、堕天使が手を伸ばすと、わずかに鼻を震わせた。
狼の匂いでもしたか。
乗馬は早めに切り上げた方がいいかもしれない。
宥めるように岩塩を与えて鞍を置く。]
鐘楼を一回りしよう。
[ 護衛という課題なのだから、行き先はこちらが設定した。
拍車をつけていない踵で軽く馬腹を蹴って駆けさせる。]
[ 誰かが乱暴に剪定したように、咲き初めの紅薔薇がいくつも地面に落ちている。
花をつけていた枝の切り口からは、鮮血のような雫がしたたり、それが細い流れを作っていた。
馬が嘶いて後ろ足で立ち上がる。
右手一本で手綱を捌きながら、エディの方を確認した。*]
[馬で並んで駆けるのは、課題だと分っていても楽しい。
乗馬の訓練だと言って、草原を駆けまわったことを思い出す。
行き先に指定された鐘楼はどこからでも目立つ。
あれなら目的地を見失う心配はないだろう。]
[駆ける間は、監督官の馬のやや後方左手側の位置を保つようにする。
監督官に近寄ろうとするたびに馬が嫌がる素振りを見せるのが気になったが、それ以外は特に危なげもなく馬を操っていた。
いつ襲撃があっても対応できるように気を張っていたら、薔薇園に差し掛かったところで連銭葦毛が不意に立ちあがる。]
監督官殿!
[何が起きたのか把握しようと馬を進めた途端、月毛もまた急に止まり、足踏みして暴れはじめた。]
[馬を御すのに暫くは必死になる。
が、馬の脚に絡みついた赤いものを見れば、なにかでかぶれたのだと判断した。
馬を抑えるのを諦め、飛び降りて地面に転がる。]
危険だ!
一度、降りた方がいい!
[痛みに暴れる馬を制御するのは困難だ。
監督官が馬を降りるのを助けようと手を伸ばす。
自分の足元に赤い流れが忍び寄っているのには、気づかなかった。*]
[魔界の瘴気は次第に結界の内部を侵し、生き物も生きていないものをも狂わせていく。
或いは、聖騎士の雛にも影響が及ぶこともあろうか。
一度乗り越えてしまえば強みともなるだろう。
凛と立つ修道士たちを従えて、魔王は魔と人とがそれぞれに関わるさまを眺めている。]
[魔空間にのどこかに、概念的に冊子が置かれている。
今魔界で一番ホットな雑誌、『月刊 聖騎士を飼おう』である。]
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――月刊 聖騎士を飼おう 創刊号――
「巻頭特集・聖騎士を飼う前に知っておきたい10のこと」
1.聖騎士の戒律を知ろう
「敵に立ち向かうときは強く勇敢に、民衆には優しく献身的に、人々の見本となるよう品行方正で容姿端麗であり、法や上位の者に背かず規律を乱さないこと」
聖騎士は、このような戒律を大切にする生き物です。
これに背くような命令を出すと怒って反抗することもありますが、うまく使えば躾が楽になりますよ。
2.聖騎士は運動好き
聖騎士は、体を鍛えることが好きな個体が多いです。
そういう子を運動できない環境に置くとストレスで弱ってしまうことがあります。
聖騎士を飼うときは、運動できるだけの広い場所か、運動器具を用意してあげましょう。
戦闘訓練用に使い捨ての下級妖魔を与えるのも良いですね。
……
『月刊 聖騎士を飼おう』
〜テ☆オさまののお悩み相談室〜
Q.飼っていた聖騎士が堕ちてしまい、暗黒騎士になってしまいました。
どうすれば闇堕ちさせずに聖騎士を飼えるでしょうか。
A.それは残念だったね。
聖騎士はちょっとしたことで闇堕ちしやすいんだ。
何度も戒律を破らせたりしなかった?
人殺し大好き♪になんて育てなかった?
毎日キノコを食べさせちゃったりした?
聖騎士を飼うときは、基本的に聖騎士のやりたいことをさせてあげること、
飼い主を守るとか、門を守るなんていう仕事をさせてあげること、
そういった基本が大事だよ。
あとは愛かな。
たっぷり愛情を注いであげて、
「君はそのままでいいんだ」って時々抱きしめてあげれば素直に育ってくれるよ。
試してみてね。
[ エディが馬を捨てて飛び降りる。
的確で冷静な判断だ。
こちらへ飛んできた勧告にうなずき、鐙を外しかけたところで ──、口元を抑える。
血臭だ。
薔薇が滴らせる樹液は、かすかに血の匂いをさせていた。
それに気づいた嗅覚が賦活し、鼓動が跳ね上がる。
自分のものではない衝動に、視界が眩んだ。
魔狼が、覚醒しつつある。]
[ まだ早すぎる──
押えこもうとするが、長くは無理だ。]
…行け
[ 背後に手を振り、付き従ってきた錬士に合図した。]
懺悔室に籠れ、
── これは命令だ…!
[ 護衛と相反する命令であることはわかっている。だが、正しく判断してほしい。
どうか、わたしにおまえを襲わせないでくれ。*]
[頷いた監督官が馬から降りようとする。
その動作の途中で、口元を抑えた。
なにか異変が起きたとみて、手を貸そうと駆け寄る。
それを、手の動きで止められた。
懺悔室に籠れ、という急な命令に足が止まる。
だが聖騎士として、そして戦場では上官の命令は絶対だ。]
……わかった。
気を付けて。
[それでも多少の不服と心配とが声に混ざる。
踵を返し、走りだそうとしたとき、足元に忍び寄っていたものに捕らえられた。]
───!
[足を取られてその場に転倒する。
粘つくものが足首に絡んで離さない。
視線を向ければ、馬の脚に絡んでいたものと同じ赤が右足に巻き付いていた。]
くっ……
[咄嗟に剣に手が掛かるが、切れそうなものには見えない。
引き剥がそうともがくうち、樹液に混ざる薔薇の棘が肌に当たって、いくつもひっかき傷を作った。*]
[ 駆け寄るエディが足を止め、命令を承知したことを伝える。
決して、盲目的に掟に従ったのではない、自己判断の責任を覚悟した声で。]
…すまない
[ いい子だ。本当に。]
[ 彼が安全圏まで逃げのびるのを確認している余裕はなかった。
鞍に突っ伏して馬首を叩き、能う限り逆方向に走ってゆこうとする。
けれど、出どころのわからない肉食獣の気配と、脚に絡む粘液とで興奮状態になっていた馬は、数歩進んで再び棹立ちになり、乗り手を振り落とした。
──意識を保っていられたのは、そこまでだ。]
[ 背を丸めて地面に伏す身体が細かに痙攣し、傍目にもひと回り、否、ふた回りは大きく膨らんだ。
銀の髪はくすんで色を変え、剛毛と化して密生する。
頭ばかりではなく、全身のほとんどが燻し銀の獣毛に覆われていった。
重そうに上げられた頭部は狼そのもの。
太い首は広い肩と厚い胸板に滑らかに続き、それが、湾曲した背骨と逆関節の後肢とに支えられて人のように二本足で立つ。
人狼と呼ばれる魔物の姿がそこにあった。]
るぅるぉぉぉぉ…
[ 新しい血の匂いを嗅いで、長い舌を出し、ギロリと振り返る。*]
[ かつて、人狼の王と、天軍を束ねる大天使とが1対1の戦いした。
激戦の後、狼王は死んだが、その魂は肉体を捨て、己にとどめをさした天使に取り憑いた。
人狼は、そうしてより強い者へと乗り移り、長く世を渡ってきたのだ。
だが、取り憑かれた後も、天使は身体の支配者であり続けた。
魔物をその身に封じることで災いを終焉させ、だが、自身は穢れを断罪されて、天を追われた。
月のうち、ほんの一晩かそこら、魔の力が強くなる満月の時期にだけ、魔狼は目覚めて糧を求める。
好物は人間だ。
ゆえに天使は、魔狼が人間と接することを防ぐため、魔界に降りた。
──今に続く物語である。]
狼王か。変わりないようだな。
[突然割り込んだ声にも動じることのない魔王は、面白いことになった、というように笑う。]
しかし難儀な時に居合わせたものだな。
此度は人を狩るではなく飼うが趣向よ。
殺さず愛でるが、ぬしにできようかな?
[愉悦の気配で手渡される(気分の)『聖騎士飼育のしおり』なる小冊子。]
〜〜〜〜〜
『聖騎士飼育のしおり』
聖騎士飼育支援委員会 発行
「魔界は今、聖騎士を飼うのがブーム!
でもどうやって聖騎士を手に入れたらいいかわからない、
上手く飼い馴らせるか心配、
そんなあなたのために、パッケージツアーをご用意しました。
風光明媚な修道院で、あなただけの聖騎士を見つけてください。
聖騎士を雛から育てるので、飼いやすさもUP。
仲間と交流しながら、聖騎士飼いライフを始めましょう。
※注意事項
聖騎士は貴重な生き物です。なるべく殺さないようにしましょう。
自分のもの以外の聖騎士を魔改造するのは禁止です。
〜〜〜〜〜
[新たな声が聞こえて来て、おや、と零す。]
その声、どこかでお会いしましたね。
ああ。堕天使と会った後、かな。
[堕天使と出会った後、しばらく周辺で狩りをしていた時のことだ。
また堕天使に会ったらからかってやろうと思っていたら、銀の狼に出くわした。
お互いに獲物だと思っていたから、少しやり合った覚えがある。]
私の、聖騎士が、
勝手に死のうとするなんて……。
ああ。どこで育て方を間違えたのでしょう………
[魔空間に流れた声は、しょぼん、という風情]
[力任せに足を樹液から引き剥がした時、再び馬の嘶きが響いた。
反射的に振り向いた目に、落馬する監督官の姿が映る。]
監督官殿!
[地面に伏せた監督官の身体は動かない。
いや、微かに震えているようにも見えた。
尋常ではない事態に、迷いが生じる。
命令通りに去るべきか、自身の心に従って助けに戻るべきか。
この逡巡が、結果的に致命的な遅れとなった。]
[監督官を信じるならば、命令に従うべきだ。
そして、彼は信じるに足る人物である。
手助けをせず部屋に戻る、と決めたその目の前で、地に落ちた監督官の身体が大きく膨れ上がる。
信じがたい事態に混乱し立ち竦む間に、監督官の姿は見る間に姿を変え、新たな形を得て立ちあがった。
おとぎ話か、悪夢の中でしか見たことのない異形の怪物がそこにいる。
煤けた銀の被毛持つ、二本脚の狼。
振り向いたそれと目が合って、短く喉が鳴った。]
[逃げるべきだ、と本能が叫ぶ。
だが足がすくんで動かなかった。
理性が理解を拒絶する。まさか、こんな。
剣の柄を握りしめ、一歩、後ずさる。
かちかちと煩く聞こえる音は、自分の歯が鳴っているのだと不意に気づいた。
剣を手にした賊であれば、何人いようと恐れはしないものを。
常識を崩壊させる魔物の存在と、なにより規範と目指していた人物の変容が、若者の精神を砕かんとしていた。*]
なぁにぃ? 殺すなだと?
[ ポンと脳裏に本がお届けされる。
爪でひっかけて開けば、魔王の玉音で内容が読み上げられた(気分)。
物騒な聖騎士を飼うとか、ワケわからんと思いながらも、「ぬしにできようかな?」などと言われれば、挑戦ととる戦闘種族。]
ふふん、目の前にいるこの若ぇのが、天公の選んだ雛ッてやつだろうか。
またぞろ、天使みたいなヤツを選びやがって。ナルシストめ。
くっく、くっく…
怯えてるぞォ
足の一本くらい、喰ってもいいよなァ?
その方が逃げずに飼いやすかろう。
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