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あ……
[多くの馬車が群れになってやってくる。
きっとあれが、妻を連れた一行だ。
穏やかな微笑みのまま、その行列が家の前に着くのを待つ。
ひときわ豪華な馬車が目の前で止まり、扉が開く。]
長旅、お疲れだったろう。よく来てくれた。
[御者を制して、自分の手を差し出して、降りるのを手伝う。]
……?
[7領の土を踏んで、彼女が最初に発した、初めまして、に一瞬きょとんとする。
が、続く言葉に、ふっと相好を崩した。]
初めまして。
君の夫であるディーター・ドゥカスだ。
私も、君とずっと寄り添い支え合うことを、誓う。
[そっと手を取って、甲に口付けをして、小さい花束を差し出す。]
ずっと、待っていたよ。
このときを。
[深い慈しみの顔と声で、妻となった女を見つめて、これからの二人で作る幸せを思った。*]
[手の甲に、口づけが落とされて。
慈しみの声と表情が、視界も、聴覚も、世界も、
何もかもを塞ぐ。]
ディーター様、どうしましょう?
[南国特有のおっとりとした声音で新妻は問う。]
私、貴方に、
二度も恋してしまったみたいなのです。
[差し出された花束に、小さく顔をうずめながら告白する。
いくら花束で顔を隠しても、耳までもは隠せない。
秋の咲き初めの薔薇のように真っ赤に色付いた初々しさと艶やかさで。
ただ、倖せに笑む。**]
[その日、祝辞とお礼を込めてオクタヴィア様には壁に飾った便箋を
鮮やかに彩る赤いブーゲンビリアを。
シルキー様には真心の愛を意味するダンデライオン。
ベルティルデ様には髪の色と共に彼女を思わせるカンパニュラの花を
イニシャルと共にハンカチーフに花咲かせて贈ります。
最後にヴェールを付けぬまま花嫁衣裳を身に纏い、
お父様とお母様の前で感謝とこれからの互いの未来の
幸を祈る舞を贈りました。]
お父様、お母様。
お二人を理想とし、ギレーヌ様と手を取り
広がった領地と民を必ず守り抜いてみせます。
[娘から新たな領地の主となる私に
お父様とお母様は前を向いて見送ってくださいました。]
[婚姻が勅命で決定してから初めて顔を合わせる日。
手にはこの日の為に刺した四隅に蝶の飛ぶギレーヌ様へのヴェール。
そして贈っていただいた扇子。
胸には常に私の傍にいてくれた水晶をレースで包んたネックレス。
纏った花嫁衣装はギレーヌ様と揃いの衣装。
馬車から降ろす足は若草に痕を付けぬように。
無粋な音を1つ立てることも無く、そっとあの方のお顔を
見る事が出来たなら。
何とか弾む声を抑え込んで私は名乗るのです。]
ギレーヌ・ドラクロアス様。
[名を呼べたのが精一杯。
初めて見る姿に、私は胸がいっぱいで涙をこぼす前に
ヴェールを差し出しました。]
どうぞお受け取り下さい。
あなたの伴侶から、愛するあなたへ直接お渡しする
初めての贈り物です。
[ギレーヌ様はどう答えてくださったでしょうか。
受け入れてくださるなら、私がギレーヌ様にヴェールを掛け、
私はギレーヌ様からヴェールを頂き、共に手を携えて
神の前に進み出るでしょう。]
―その日。―
[緊張と不安と興奮と。
様々な感情を抱え込んで、ただ、彼女の到着を待つ。
何度も何度も手紙をやりとりし、彼女の気持ちに触れ、彼女に気持ちに触れてもらったつもりではあるけれど。
今更ながら、実際会って、アプサラスに嫌われてしまったらと、そんな弱気が浮き上がる。
緊張に身を硬くして、不安で思考を揺らし。
それでいて、彼女にようやく会える興奮に瞳を輝かす。
手にはヴェール。
じ、と。彼女がやってくる方向へと、視線を向ける。]
[誰よりも早く会いたくて、これから婚礼が行なわれる教会にて、一番前で待っていた。。
贈られた花嫁衣裳を身に纏い、馬車の到着を待つ。
揃いの花嫁衣裳。
馬車から現れる姿に、思わず一歩、踏み出した。
名を呼ぼうとして声が詰まり、ただ彼女の顔を見る。
彼女の声。彼女の表情。
幾度も幾度も想像し、思い浮かべたそのままで。
そして、ギィを見てくれるその瞳が、手紙に現された感情のまま、純粋なまでの愛情で。
途端、不安が、氷のように溶けていく。]
ずっとお会いしたかった。
我が伴侶、愛しい人――アプサラス。
[ようやく、ようやく、敬称を外し、名を呼んだ。]
私からの贈り物も、どうか、受け取って欲しい。
[ヴェールを交互に掛けて。
そっとそっと、指先で、アプサラスの頬をひとつ撫でた。
感じる体温は彼女の存在をしかと感じさせて、小さく、小さく、声が漏れた。
あとは二人共に、神の前へと進み行く。
祝いの声はすべてに満ちて。
“子どもたち”の喜びの声と、共にある暖かく心強い伴侶の存在に。
ただひたすらに、幸せだった。]
[オベルジーヌに新たに生まれた五組の夫婦。
祝い事は国中を駆け巡り、山も川も浮かれるよう。
その当事者の一人である己は、
珍しく格式ばった正装に身を包んでいた。
姿見に映した自身に一頻り照れ隠しの悪態を吐き、
草花を束ねたささやかな贈り物を片手に馬の鞍を跨いだ。]
恋を知る前の娘を娶っちまったが、
これも山と川の思し召し―――だな。
[青い空を仰げば、今日もよく晴れていた。
眩しい程の陽射しに瞳を細め、呼気を吐く。
夫婦になったからと、眼に見えて変わることはきっと少ない。
だが、これから変わっていくことは五万とあるだろう。]
春になったら、嬢ちゃん連れて新領を見て回るかね。
姐さんとアデルのとこは冬の方が行き易そうだが。
……ディーターのところの水産業は気になるし、
ギィも冷やかして――…、ああ、二人の花嫁衣装も拝まなきゃな。
ウェルシュにも人のことが言えるのかとどやさないけねぇし――、
[馬の鼻先は霊峰を向く。
未来の予定と願望を独り言に詰め込んで、
されどその口元に浮かぶのは笑みで、瞳は撓みがち。]
それに――…、
[立派なレディを囀る雛と、果てない先を目指す。
長い道のりだが、きっと退屈はすまい。]
一生を懸けた、恋もしなきゃな。
[拙く枝を掻き集め、まろぶ雛を羽翼に囲い。
* 山と川と、花に囲まれた巣をつくろう。 *]
[ふわり。
二人の花嫁が進むたび、ヴェールが揺れる。
百合の花に蝶が舞う。
互いが生まれ育った地は新たな地になった。
その子供たちを育てていく喜びを
二人で分かち合う誓いを立てた。
真珠の耳飾りを付けた二人の女性が馬を駆り、
祭りに混じり踊る姿を見たと言う噂が若い領主たちの
耳に届くのはそう遠くない未来**]
― 第二領土 ―
[いち早く冬の訪れを迎えた雪原に、蹄の音が響く。
冷気に鼻先や頬を赤くしながら、駆けて駆けて、駆ける先。]
迎えに来ましたよ。花嫁さん。
[漸く、そして久方ぶりに会えたかの人に微笑むと、
鞍を降り、恭しく膝をついて頭を垂れた後。
アデルの立てた計画では、手をとり甲に口付け少しだけ背伸びしたような、男らしい余裕ある笑みを浮かべラートリーをエスコートする、はず、だったのだけど。]
……やっと、会えましたね…!
[会いたさが募り過ぎて、終盤はどうにかなりそうだった。
あらゆる段階を踏むのはもう疲れたと、飛びつくように彼女を抱きしめる。
身長は、ヒールのある靴を履けばまだラートリーの方が上かもしれないが。記憶の中のそれよりずっと華奢で、腕の中に納まる背中に。あたたかさに鼻の奥がツンとした。]*
―アウスレーゼ邸―
ちょっとキツイって!もうちょっと緩くして!
『これくらい我慢しておくんなまし!』
ドレスのコルセットって、こんなに締め付けられるの…!
『これが、普通でございます!』
それにしても、いろいろあったなぁ…
『あんなにお転婆だったシルキー様が、ねぇ。』
悪かったわねお転婆で!
『あっ、認めるのですね?』
ちがう!絶対ちがう!!前言撤回!!
[この地の隠れた特産品である、絹でできたドレスに着替えながら。
相変わらず賑やかな屋敷だが、この光景も今日でしばらくは見納めである。]
[――それから暫くして。
ディータに紹介してもらった靴屋で誂えたブーツに身を包み、ワインとグラス二つを籠に入れ、訪れたのはとっておきの、秘密の場所。
たどたどしいステップは笑顔を呼び、指先を、掌を合わせ交差し熱を分け合う。
白いドレスの胸元にあしらわれたブローチ、月の下に彩る星飾りが、まるで流れ星のように揺れるのに見惚れた。
月を照らす太陽は、まだ幼さを残してはいるけれど。]
[今までにあった、あんなことやこんなこと。
これから起こりうる、あんなことやこんなこと。
いろんなものを抱えながら、小さな花嫁は大人へと向けて装いを整えていく。
夫となる人が迎えに来るころには…
アウスレーゼ邸の門下より広がる、青々と茂る草花の間に、光りの如く輝く白い石畳のその先に。
純白のシルクに身を包み、シルバーのティアラを冠した、まだあどけなさの残る女性の姿があるであろう。
…一通の手紙とともに。]
[アデル・ヴェステンフルスは成人を迎えたその日からアデル・アンダースンに名を変え、ふたつに分かれていた霊峰をひとつに繋げた領土ではますます登山が盛んとなった。
かたちばかりでなく正式に兄を支え、この地を支え、それから賢妻を支えていく日々の中、幸せな夢をみた。
どこまでも広がる草原を駆けていると、名を持たぬ鳩が飛んできてアデルの身体を浚い、霊峰を越えて第三領土から時計回りに蒼穹を翔る。
不器用で素直になれずにいた騎士は、幼い姫を得ることでますます強くなるだろう。揃いの真珠を耳に飾る二人の姫が舞うことで、豊穣の秋は約束されたようなもの。
美男美女で固める南方から西。
儚くも淡い光は、未来を明るく照らすだろう。
どれもこれも、実際この目で確かめた記憶の断片。]
[――やがて、故郷である第一領土を超えて巣に帰ると。
夜を照らす月のような慈愛に満ちた花嫁が、腕の中に雛を抱えていた。
それは、そう遠くない将来訪れると確信している、
幸せな未来の予感。]**
[オベルジーヌの国に、新たに五つの夫妻が誕生した。
政治能力に難があり、他領に比べ情報に疎いファルネーゼの領にも、
各領土の合併と婚姻が知れ渡る事となった。
第九領は、ファルネーゼ家が正式にマクグラス家と一つとなることを、
心から祝福する声で満ちていた。それは、領民の人柄からくるものか、
或いは、存外オクタヴィアが慕われていたと言える事かも知れない。
書類の上での婚姻を済ませてから、一月以上が経過していた。
遠く、秋の空を見上げていた娘は今、高く澄み渡る冬の空気の下、
全身を移す姿見の中、白いドレスの自分を覗き込んだ]
なんだか、私が私でないみたい。
ドレスって、もっとわくわくして、うきうきして、
ひたすら空っぽで、楽しいだけの物だと思っていたわ。
[くらりと倒れてしまいそうな心地は、
結い上げた髪を止める飾りの重さのせいにして。
もしも、ふたりの歩む道が短いものであったとしても、
その道程も行き先も、決めるのは私たちふたり。
――そんな誓いを立てるため、扉の外で待っているであろう伴侶の元へ、
忙しないヒールの音を響かせる。**]
[結婚式は、第10領側ではなく
第9領側で執り行われることになった。
それは、第10領側で栄えている街が、
合併後では端に当たる為、というのを理由に挙げて
周りを説得したのだったが。
花嫁が慣れ親しんで育った場所で
結婚式を挙げさせてあげたい、というのが本音であった。
そして、今。]
…もっと、緊張するかと思ったんだけど。
笑ってしまうくらい、楽しみなんだ。
おかしいと思われるかな?
[花嫁の準備を待ち続ける花婿は、そわそわとしながらも、
晴れやかな表情で、扉の前に立つ]
[悩みが消えることは無いのだろう。
それでも、彼女と分け合ってしまったから、
それまでとは比べ物にならないくらいに、
気持ちは軽くなってしまったのだ。]
君を幸せにするのではなくて…
…君と、幸せになりたい。
[短いならば短いなりに。
ただ、願うならば――永遠に。
2人の道を、今歩き始めるために。
[響いたヒールの音は、扉の前で止まった。
静かに、扉が開いて――]
あ、そうだ、忘れていたよ。
[真珠のイヤリングを、慣れない手つきで彼女の耳へとつける。
アデルからの手紙と共に送られてきた貝殻。その中に入っていた
真珠を、大急ぎでアクセサリー職人に加工して貰ったのだった。]
……これが2人の道を照らす星になりますように。
[星の光は、道標となってくれるもの。
迷っても、いつかは進むべき方向へとたどり着けますように、と。**]
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