情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新
……ヨアヒム兄ちゃんも、オットー兄ちゃんも馬鹿だよ。
[頬を涙が伝うのに任せたまま、沈んだ声で罵るのは、まるで自ら死を望んだような二人のこと。
カタリナを亡くして、取り残されたペーターだからこそわかる。
……残される者が、一体どんな気分を味わうものなのか]
死ぬ覚悟なんて決めんなよ、だって死んだらそれっきりなんだぜ。
生きてくれなんて託さないで、一緒に生きられるように頑張れよ……!
[彼らは彼らなりに、抱えたたくさんのものがあったのだろうけれど。
そんなもの、知りたくないし知るつもりにもなれない]
オレは絶対に、誰かを残して死んだりなんてしない……!
一緒に生きようって言える大人になってやる……!
[残されるのはこんなに辛いのだから、誰かを残していくなんてごめんだ。
乱れた声を張り上げて、唸るようにしゃくりあげる。
そうして、夜が耽るまで声を上げて泣き続けた*]
……ジム?
[獣から漏れる恨みがましい咆哮――否。それは、ひとの言葉だった。
紛れもないジムゾンの声に、一瞬、判断が遅れ、よろよろと近づいてきた獣に左足を噛まれた]
――――!!
ア、アアア、グ、アアァ
[肉を裂く激痛に、悲鳴が漏れた]
[脂汗を浮かべながら、人の言葉を取り戻したジムゾンを見る。
どうせ動かない足だ。左足をくれたまま、毛皮に手を伸ばす]
……よう、ジム。
目は、覚めたか?
[痛みにえづきながらも、努めて変わらぬ口調で問いかけた]
[左足に食らいつき、痛みにうめき声を上げるシモンごと
どさりと引き倒す。怒りに任せてがりり、と足を食いちぎろうとした刹那――上から降ってくるのはまるで平和なシモンの声。]
――アア?
[口は離さず唸り声だけをあげ、ぎろりと睨みつけた。だがそれは狂気に満ちた獣の瞳というよりは、怒りっぽく短気で不機嫌そうな。
いつも男が彼によく向けているような目だった]
[辺り一面、白い雪に覆われていた。時折吹く冷たい風が肌を刺す。しかしその風の音さえも聞こえない。とても静かで悲しい光景だった。]
オットー。お前が誰の為に死んだのかは俺は知らない。
一緒に生き残りたいと思っていたのが俺だけだったなんて知りたくなかった。
でも、知れて良かった。こんな俺でも会えて良かったと言ってくれて有り難う。……それでも矢張り俺はお前と一緒に生きたかった。
[アルビンの呟きは雪に吸い込まれる様に消えた。*]
― 翌朝 ―
[宿屋の中は静かだった。生き残っている人間は大分減ったのだから当然だった。
談話室へ降りても誰の姿も居ない。宿屋の外に出れば足跡を見つけた。その足跡を追えばディーターの遺体を見つける。]
……。
…。
[更に血痕が点々と続くがアルビンはその先へ近づこうとはしなかった。]
[獣は、ジムゾンは、どうしただろうか。何か言っただろうか。
懐からナイフを引き抜きながら、やさしく、言い聞かせるように言葉を紡いでいく]
……もう、終わりにしよう。
もう、苦しまなくていい。
俺は、お前だけじゃなく、見殺しにしたリーザや、ディーター、それにこの手で殺したオットーの命を背負って生きなきゃならないから。
あの時、お前とそう約束したから。
だから俺はお前と一緒に逝ってやる事はできないけど、生きてりゃそのうち死ぬから。
それまで、みんなと一緒に、あっちで待っててくれや。
[一言、一言。
口を開く度に、頭を、首を、優しく撫でる]
[つん、と鼻の奥が痛む。
目の前が、揺らぐ。
リーザを失ってから、乾いていた感情が戻ってきたように
関を切ったように、涙が溢れてくる]
俺がいなくて寂しくても泣くなよ?
泣き虫ジムゾン。
[ぼろぼろと、零れる涙を拭いもせず。
漏れる嗚咽もそのままに。
――手にしたナイフを、獣の首に突き立てた]
[命を奪う感触。
命が失われていく感触。
それらを決して忘れないように――
ジムゾンが動かなくなり、冷たくなっても、その胸に抱いていた**]
[まるで癇癪を起こした子供に優しく言い聞かせられるような言葉。
酷く懐かしいその響きが、ゆっくりと身に染み渡っていく。
首を、頭を、そろそろと撫でられ>>53、気づけば黒い獣はぼろぼろと涙を流していた。束の間、静かで穏やかな時間が流れる]
(この馬鹿、馬鹿。馬鹿―――。)
[言いたいことは沢山あるような気がするのに、言葉が出ない。己の命が危ないことは頭の隅でぼんやりと分かっているのに、伝わる体温が優しすぎて、どうしても体が動かなかった。
嗚咽を漏らし、涙を流しながら伝えるシモンに、ようやっと一言告げる]
……お前が、泣いてんじゃねぇかよ。
[そういうこちらだって、似たようなものだったけれど]
[そして、こう付け足した]
……ふざけんな。
俺はもう、寂しくなんかねぇよ。
[泣き笑いでそう言い終えた後、―――一息に、首にナイフが突き立てられた]
―――っ…!!
[体に異物が入り込んでくる感覚。
特に痛みは感じなかった。急速に意識が冷え、気が遠くなっていくのが分かる。血を流し、シモンに抱きしめられたまま冷たくなっていく。
…かつて人と生きようとした一匹の人狼が、命を落とした瞬間だった]
[意識が完全に消える間際。一つ伝え忘れていたことがあるな、とぼんやり思い返した]
(なあ。カミサマってのがただ存在を肯定し、
受け入れてくれるだけのものなら。
俺にとってはきっとお前らと過ごした時間が、
それそのものだったんだ。
――――あばよ、親友。)
[それは、屍人の聲を聞くことが出来る彼に、最期の言葉として届いただろうか**]
―朝―
[今日もまた、悲鳴や騒ぎとは無縁の静かな朝が訪れる。
柔らかく差し込む朝日に照らされる宿の中は、けれど妙に現実感を欠いていた。
泣きはらしてはれぼったい目を擦りながら、身支度を整えて部屋を出る。
談話室には人の気配はなく、宿の中で誰か新たな犠牲者を見つける事もなかった。
代わりに発見したのは、外へ向かう少し古い足跡――おそらくは昨晩のもの――に被さる、真新しい足跡]
……アルビン兄ちゃん、きちんと弔おう。
[泣き出しそうな衝動に何とか耐え切ってから、佇む商人へ向けてそう切り出した。
このまま、こんな場所にディーターを置き去りにするのは気が引ける。
ペーターひとりの力では大人を運ぶのは難しいけれど、アルビンの力を借りることができれば、遺体を宿まで運ぶ事はできるはずだ]
それで、他の二人を探そう。
[失われたたくさんの命に振り回されて、呆然としているだけなんてもう嫌だ。
ペーターの力では、何もする事なんてできないかもしれない。
けれど、はじめから諦めて何もしないよりは、何かしようとして無理だったほうがずっとマシだ。
現実にただ押しつぶされているのではなく、きちんと未来を見据えていきたい。
例え、進む道の先が暗く重たいものであったとしても]
[――教会で、親友同士の決着に幕が下ろされるその頃に。
雲の切れ目から眩しい朝日が射し込んで、残された者の心には不釣合いなほど澄み渡った青空が顔を覗かせた**]
[他の二人を捜そうと言われればこくりと頷く。
大切な幼馴染み達は死んでしまったが見す見す死ぬ気も無かった。そして全てが終わった後で、]
モリス爺やカタリナの事もちゃんとまだ弔ってやってないんだ。
ゲルトやヨアヒム、パメラや村長。オットーも今は従業員室へ安置しているけれどあのままじゃ可哀想だ。
クララだって…、村の仲間だったんだからきちんと弔ってやりたい。
[薄く目を伏せて小さく祈祷の言葉を紡いだ。顔を上げて見渡せば、すっかり雪に覆われた村の様子が窺えた。今度は、空を見上げる。灰色の空。白い雪がゆっくりと落ちて来ると思えば、雲の切れ目から朝日が差し込んで来て、
教会で最後の人狼が死に絶えて全てが終わった。]
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 エピローグ 終了 / 最新