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――回想:記録保管庫――
[ドロシーはやはり銃を託してくれることはなかったが、傍にて欲しいと望んでくれたから>>4、カスパルはただ無言で頷いた。
後ろを向いて欲しいといわれ、理解できずその場で首を傾げたものの背中を押されれば大人しく従った。
安全装置が外される音がする。>>5
彼女の場にふさわしくないトーンの声に「次」と「未来」の話を強請られて、見えていないのを良い事に唇をゆがめた。>>7]
“次”は、何も知らないあなたに。
寝物語として俺の未来を語ろう。
……だから、俺が護れる存在に生まれて来い。
[もしも三度目があるのなら。
発症した同僚でも、喰らうための存在でもなく。
この手で慈しめる存在になってくれ。}
[銃声を聞く。
サイレンサーもなしに発砲したため、耳をつんざく音は保管庫の外にも響き渡った事だろう。
ドロシーの体が床に崩れ落ちるのを抱きとめ、べったりと血で汚れるままにまかせて、その場で数秒の黙祷を捧げる。]
……カスパル=ズィーネ中尉より緊急報告。
XX時XX分、記録保管庫
ドロシー=ディレイ中尉の死亡を確認。
[オフにしていた通信機にそう連絡し、後は他の者が来るのに任せる。
彼女が書き記していたメモが発見され>>*6、後に自室からフィオンのお椅子レコーダーとアンプル、保管庫にから持ち出された手記が見つかり>>3:26、一連の事件は狼化病を発症したドロシ=ディレイの犯行だと結論付けられ、本部の者が到着する前にこの騒動は終結した。*]
…いこうか。あっちにはサシャがいる。
紅茶とチョコレートもあるよ。
少し休もうね。
[手を差し出した。
ドロシーが『生きる未来』を選んで欲しかったのは事実だが。
後悔がないからだろうか。
不思議なほど気持ちは落ち着いていた。]
――騒動の終結後――
[ドロシーの遺体と共に発見されたカスパルは、騒動調査を仕切っていた者としてもきつく訊問を受けた。
だが、ドロシーとサシャが双方自害していることは検死結果からも疑い様がなかったことと、ドロシーのメモは確かに彼女の筆跡であること、彼女が自害した銃は訓練場から彼女自身によって持ち出された物であること。
状況証拠がいくつも詰み上がり、結果的にカスパルは無罪とされた。
到着した本部からの責任者にフィオンから託された包みを届ければ、その場に留まるようにと強く命令される。
その場で狼化病の検査を受けろと命じられ、精査の結果上は発症していると判断される数値が示されていた。
診断を告げられ、検査のやり直しを提言する。
発症していないのは、カスパル自身が誰より知っている。
渇きも飢えもなく、血は錆びた鉄の臭いのままだ。
発症しているなどありえない、と再三度断言したカスパルに、治験参加命令が下された。]
[治験のため護送された先は、分厚い壁と扉と格子のはまった窓がある他は清潔で快適な病室だった。
白い壁に囲まれ柔らかい布の服を着せられながら、連日の血液検査や画像検査を受け、心理テストをいくつも施行される。
似たような状態の者は他にも居たが、何らかの投薬をされている者がほとんどでカスパルのような状態の者は稀だったようだ。
余暇は概ね読書にあて、主治医に勧められた長編を読み終える頃、一人の来客が来た。]
…何の御用でしょうか。
[知らぬ相手に怪訝な視線を送ったが、相手は気を害した様子もなくフィオンの上司と名乗り、彼が包みに託していた手紙を差し出す。>>2:71
それは、カスパルの命の嘆願書だった。]
[目の前にティッシュを差し出されて、涙を零していることを自覚するも、涙を隠す余裕はなかった。
手紙をもう一度読み直し、彼が残してくれた想いに嗚咽を堪えた。]
なあ…あなたは、フィオンの前世を知っているか?
わからないんだ、俺の記憶の中にフィオンもいるのに。
あいつはどうして、俺にここまでしてくれたんだろう。
……それが、わからないんだ。
[ここに来てからもまだ悪夢は見続けているが、もう懐かしさを感じる思い出のようなもので、日に日に鮮やかさは失せて行く。
何度思い返そうとしても、記憶は何も教えてくれない。*]
― 何処かの戦場 ―
[ 激しい銃撃戦と爆音が吹きすさぶ中、建物と同化した怪獣の着ぐるみが伏せている。
色彩は建物のそれと酷似した色に塗りなおされ、その口からは銃口が伸びていた。 ]
Baaaaaaaaaaaaang!!
……ヒット
[ 不注意な敵兵を一撃で撃ち抜いていく。
まだ気づかれた様子がない事を確認し、カシムは次弾の装填をしていく。 ]
Baaaaaaang!!
[ ――…あの事件から、数か月が過ぎた。
事件への調査が始まった頃、フィオンの遺言通り本部の者へ包みを渡した。
それがどの様に反映されたのかはカシムには分からない。
また、同時に転属願いの申請を行った。
以前からは考えられない前線への転属希望だった。
それらは滞りなく受理され、カシムは前線へと転属される事となる。
同時に重要な証拠となる包みを届け切ったことで、サシャの遺言もあってか遺品であるライフルと怪獣の着ぐるみを正式に譲り受けることになった。
……着ぐるみはその時に盗品であった事も判明するが、カシムが代金を支払うことで事なきを得ている。
なぜ、前線へ転属したのか。
それはカシム自身もよく分かっていない。
恐らく死に場所を求めているのだろうと、ぼんやりとした考えは浮かぶには浮かぶがそれだけではない気もする。
それともサシャのライフルを使う場所を求めているのだろうか?
これもまたそうである気もするし、それだけではないように思える。
戦場で着ぐるみを着ている理由については突っ込んではいけない。
当初は狼化病の所為で頭がおかしくなったくらいに白い目で見られていたが、最近では生存率の高さから本部が真面目に導入を検討し始めてるという噂すら流れるほど何も言われない。 ]
……ヒット
ここはこれくらいでいいでありますか
[ 暫く狙撃を繰り返しそろそろポイントを移動しようと立ち上がるも、ふと首筋に嫌な気配を感じとる。
勘の赴くままに振りむけば、そこには小柄な少女がこちらへとライフルを向けているところであった。 ]
――…あっ
[ その容姿がサシャとダブり致命的な硬直を促す。
終わりは唐突にやって来た。
――…最後にカシムが聴いたのは「ぱんっ」と短く乾いた音であった。* ]
[嗚咽を零すカスパル様を、そっと部屋の隅から見守っている。
かつての上司が何を思って、自分の書いた上司宛の手紙をカスパル様に渡したのかはわからないが。
見えないだろうが、頭を下げておいた。]
この手紙が読まれているなら、僕は既にこの世にいないでしょう。
狼化病の疑いをかけられ命を落とした娘がいます。
どうか彼女の名誉の回復を。強く希望します。
この手紙を託した方は、とてもお世話になった方です。
そして、狼化病のキャリアです。
僕の最後のお願いです。
僕と同じように治療を施し、普通に生きられるようにしてあげてください。
能力の高い方ですから、無駄にはなりません。
お世話になりました。どうぞお元気で。
[前世の僕は、カスパル様の事情は知らなかったけれど。
たまに夢でうなされる彼の呻きから
おおよその想像はついた。
なんとか、生きて幸せになって欲しくて
あのような手紙を残したのだが。
彼が家族のもとに帰れますように。
…笑って?カスパル様…]
[提供できる限りのデーターを提供し、カスパルが仕事に復帰するまでに、丸一年は経過していた。
配属先の希望を問われたが、特に希望はないと伝えたところ、本部勤めを命じられる。
仕事を開始する前日に実家へ足を運べば、何年も会っていなかった家族に出迎えられて、抱きついて来た弟妹を抱きしめ思わずその場にうずくまった。
数年後には活発だった前線での戦線は縮小され、不安定な情勢が残るものの国同士での合意がなされ、世界は少しだけ平和になる。
その後、首都の近くの街の片隅にとある夫婦が移り住む。
夫は軍属で時折帰宅が遅いこともあったが、夫婦がそろえば穏やかな空気が流れ、子供を囲めば明るい笑い声があがる、どこにでもいそうな幸せな家庭だったという。*]
― 夕焼け小焼け ―
〜〜〜♪
[集落から少し離れた森の中で、
少女が唄を口ずさみながら地面に絵を描いて遊んでいる。
まだ十に満たない歳だろうか。
木の枝を動かす度に、ふわふわの金色が肩口で揺れた。
少し遠くから少女の名前を呼ぶ声が聞こえれば、
木の枝を放り投げて少女は声のした方へと駆け出して。]
おとーさんっ!
[迎えにきた父親に飛びつくと、
少女は今日の出来事をひとつひとつ話しながら家路を辿る。]
明日はね。フィオンちゃんと遊ぶの。
ねぇおとーさん。また寝る前にあの話聞かせてね。
[つまらないだろうあんな話と言われれば
そんなことないもんと頬を膨らませて繋いだ手を引っ張った。
近づく家からは母親の作るシチューの香りがする。
道を行く人々の表情は穏やかで、
地面には夕陽に照らされた影が長く伸びていた。
穏やかな日々と、幸せな日常と。
願うのは長く永くこの時が続きますように。]
ーそして巡る月ー
[サシャは軍の記録が、殉死と書き換えられた。
二階級特進とはいえ、新兵だからそこまでではないが。
話は美化に美化を重ね、戦場の狙撃姫などという称号がついたとかつかないとか。
暫くカスパル様を見守っていたが、ある時何かに引っ張られる感覚があり、意識が途切れ…。]
『フィオンちゃーん、また明日ねー!!』
また明日ね〜!
[どこの輪廻かはわからない。
手を振って別れた『ドロシーちゃん』は、近所の幼馴染。
そのお父さんは『カスパル様』
初めて僕を見た時の、カスパル様の顔が忘れられない。
僕は知らないふりをしてあげた。偉いでしょ?
今度は、カスパル様も、ドロシーちゃんも狼様だから。
もう、悲しい別れはきっとない。
人の血を、肉を望むなら僕のをあげるからね…
カスパル様の幸せを脅かすものは、何人たりとも許してなるものか。]
[などと思っていたフィオンだったが
ドロシー共々年頃が近づくにつれ
カスパルから相当に殺気がこもった視線を
向けられるようになったのは、また別の話。
遠い昔、フィオンが望んだ、平和な未来。
他人の幸せだけを願い、命を散らした彼を憐れみ
神が与えた奇跡なのかもしれない]
−幾星霜の時の果て−
[姉が口ずさむ。]
まわる 回る 廻るよ 『運命』は まわる
まわって オオカミ 探し出せ
まわって 仲間を 見つけだせ
[妹が続く。]
とり むし けもの くさき はな
ないて ばかりじゃ かわらぬさ
まもるもののため たちあがれ!
[8歳くらいの姉と、5歳くらいの妹。
母のお使いを終えた幼い姉妹は、近日中に開催される誕生日会に持っていくプレゼント選びのために寄り道していた。
『会』の主役は、近所のカシム。]
あっ、かいじゅーさん!
おねーちゃん、これにしよ!カシムおにーちゃん、これゼッタイすきだよ!
怪獣のキーホルダーかぁ。カシム、怪獣より鉄砲のおもちゃのほうが好きそうだけど。
じゃぁこれは?かいじゅーさんが、てっぽうもってるの!
その鉄砲持ってる怪獣のお人形にしよっか!
でも、今日はお金ないから、また明日ね。
[品定めを終え、家路につく。]
ドロシーおねーちゃんと、フィオンおにーちゃんもくるかなぁ?カスパルおじちゃんにも会いたい!
みんな呼んだって言ってたから、きっと来るよ。
…よし、お家まで競争だ!
あっ、おいてくなんてずるい!おねーちゃん、まって!!
…この平和が、永く続きますように…
[幼い姉妹の元気な声が、よく映えた空の蒼と海の碧、そして森の翠に吸い込まれていく。
姉妹の先祖の願いと共に−*]
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