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[今は私が使う手袋やドレスの裾への刺繍だけでなく、
お友達への贈り物の為に、お母さまの傍で
あれやこれとアドバイスを受けながらの模様作り。
私とお母様が一緒にいられる時間はあまり長くは無いでしょう。
お互いそれが判っているからこそ、この時間はゆっくりと
過ごしながら、お母さまからお父様の秘密の話を
沢山教えてもらうのです。]
なんだか、普通の民のお母様と娘みたいね。
もっと……厳しい事をずっと言われ続けると
思っていたわ。
[不意に漏らした本音に、お母様は少し寂しそうな顔になりました。
それから微笑んで、私におっしゃいました。
殿方を夫にするなら幾らでも知識も経験も伝えるけれど、
私の相手は殿方ではないでしょうと。
だから、二人で作っていきなさい。
ですが領地と領民を第一に考えなさい。
彼らがいるからこその領主なのです、と。
最後の言葉は凛と響きました。
私も背筋を伸ばしてお母さまの言葉を受け止めます。]
ええ。
お母さま。
私はギレーヌ様と共に大きくなった領土と民を愛し守っていきます。
[私の言葉に緊張を緩めたお母さまの目元に光るものが
見えたのは気のせいだったでしょうか。]
― ヴェステンフルス邸 ―
[両領地の合併と成婚の法的手続きが済んだというのに、アデルはまだ第一領土にいた。
結婚というもの、家族や土地が増えるということはなかなかどうして面倒ごとも多い。色んな書類にサインしたり、第二領土について調べたり。
寝る間際に星を眺め、ラートリーはじめ友からもらった手紙を眺める僅かな時間だけが、憩いのひとときであった。]
ありがとう、助かるよ。
[厩舎にて。
乗馬の供によく連れていた男と、話す。
とある場所に花を届ける。その仕事を終えてくれた男の報告。
喜んでいたとの話に、ギィは嬉しげに頷いた。
目の前のいるのは、芦毛の牝馬。愛馬の姪にあたる若い馬だ。
馬の顔を撫でてやる。]
何か領内で変わった事はあったか?
[父やその側近、そして使用人たちからは話を聞くが、もっと領民に近い目線での情報が欲しかった。
笑う男が言ったのは、「娘たちの髪型が変わりました」。]
髪型?
[男が話すには、今まで流行していたのは王都風の手の込んだ編み込みだったとの事。
だがここ最近流行っているのは、無造作にひとつに束ね、それを上質なリボンで束ねる事。
丁度それみたいに、と、ギィの髪型を示す。]
……私の真似をしているのか?
[「幸せな結婚ができると評判です」に照れて笑った。]
[幾つかの会話。
やはり父やギィ自身に集まってくる情報とは違う。
急だった合併に、領民たちは戸惑いもある。生活習慣も違うだろう他所とひとつになれと言われても、すぐさまはい分かりましたとはならない。
訪れる冬への対策、今後の統治の方向、元第6領地の人々の関係。
御せますか、と言う男の問いには首を傾げた。]
無理に支配する必要は無い。
父は少なくともそうお考えだ。
あるものを生かし、良きものを伸ばす。足りぬものには助けを。
その見極めが領主の仕事だとな。
ドラクロアスは騎士の家系だ。家柄よりもその能力で領主となった。故に、能力の大切さを知っている。
優れた能力ならいくらでも力とする。身分も性別も、優れた能力と比べるなら、意味はない。
足りぬなら、力を借りて、助けて、補えあえばいい。
それこそ、家族のようだろう?
[笑うギィに、幼馴染と同等の男は「変わりましたね」と目を細めた。]
“家族”ができたからな。
妻と夫と、それと子どもたちがたくさんだ。
[不思議な顔をする男にはただ笑った。]
また何かあれば伝えてくれ。
[立ち去る男の背にそう声を投げ、再び馬に目線を向ける。
この牝馬は性格も良く、見た目も美しい。勿論その能力もとびきりだ。
アプサラスに贈ろうと考えている。乗馬用の服は彼女が来てから好みを聞こうと思っていた。
その馬の首筋を撫で、話しかける。]
[心を新たにお母様の部屋を辞すと、あの方からの文の知らせが
ありました。
途端に春が訪れた様に私の心が温かくなりました。
花嫁修業にギレーヌ様が頑張っておられるのに、
私ははしたないと怒られる寸前の速さで部屋に戻ります。]
まぁ、荷物まで?
[初めての贈り物に私の指は震えてなかなか封を開けることも
儘なりません。
こんな調子では荷を破いてしまうかもしれません。
大事に膝の上に置いて今までとは違う色付いた便箋に
目を通しました。
読み終えるなりやはり震える手で慌てて荷を開封して。
これを選んでくださったお心遣いに荷物と手紙を
ぎゅっと抱きしめることしか出来ませんでした。]
今日な、街の教会で結婚式があったんだ。
私達と同じ、娘同士の結婚式だ。
花を贈ったよ。
私達と同じように、彼女たちも幸せになるようにと。
同性の結婚なれば、まだまだ偏見もある。
だが、少なくとも、幸せになろうとする彼女たちを祝福する者がいるんだ。
[領主が同性婚をした領地だからこそ、偏見が薄いのもあるかもしれない。
それならば、愛しいと思う者の性別を気にせずに、その思いを伝えられる未来の為に、誰にも恥じぬ姿を見せたいと思う。
芦毛の馬はじと話を聞いてくれた。]
[彼女から初めて届いた手紙は、どこか古びた年代を感じる香りがしたがそれも、もう消えてしまった。
アデルはアデルで手持ちの羊皮紙が尽きてしまい、せっかくだから新天地であるお隣か、他の領土から仕入れようか考えはしても手配までは届かない。
先に用意しなければならないものが山ほどあるからだ。]
では、よろしくお願いします。
[恭しく腰を折り、両手を構える。
兄に武術を、叔母にポルカを教わりながらの体力づくりは少しずつでも身についているようで、あれから風邪は引いていない。
そのままの優しいアデルでいいと、彼女も友も言ってはくれたしそれが己の美点ならば大事にしようとも思うが。
優しさだけでは民を導くことはできないと、
隣の地を収めるうら若き領主に向けた手前、アデルもまた強い領主になろうと努めている。]
[詳細は彼女と顔を合わせ、直接話して決めるつもりだが。アデルには既に時期領主となり得る兄がいるから、彼に第一領土側の自治を任せ己がアンダースン家に婿入りするのが妥当だろうとおおまかな段取りを組んでいた。
牧歌的な小国でも、領土合併によりこの先生活が豊かになれば、他国との外交の機会もあるだろう。
国境と隣り合わせのアデルたちの土地は、更にその隣の第三領土を含め王都を護る双璧となるのがよいのでは、と。
これまで政治的な話題にも混じらずにいたツケを払いながら、それでもアデルなりに国を想い、民を想う旨を伝え、そして。]
……ん。もう少しだな。
[――大勢の民と、たったひとりのことを想い。
空にまたたく星を背景にランプの灯の下、拡げるのは金古美の金具と領地の端で取れた、貝が孕む宝石。
昔はそうと知らなかった、彼女の勇ましいだけでない柔らかな部分をアデルはもう知っているから。
喜んでもらえるといいなと微笑み、ながら第二領土に向けて手をふり、囁く。]
"おやすみ、ラートリー"
[せめてこの、想いだげでも風に乗って届けばいい。]
[贈り物は二つ。
どちらを先に手に取るべきか悩みに悩んで
どちらも取ると言う不作法を披露する。]
柔らかくて暖かいわ。
これなら今すぐ外に出ていきたい位。
[あの方自らが仕留めたと言う雌鹿の皮の手袋は
柔らかく暖かで外でもこのまま動けそう。
それを良い事に、手袋のままもう一つの透かし細工をされた
扇子を広げてみたのです。]
まぁ素敵。
閉じたままでも開いてもどれも手が込んでいるわね。
[半開きから全て開かなければ現れない細かい工夫に
そっと扇子に唇を寄せて。]
ありがとうございます。
ギレーヌ様。
[目の前にいないあの方の代わりに、扇子と手袋の
甲に唇を軽く押し付けました。]
ギレーヌ様に何か贈りたいけれど、何を贈れば……。
[こんな素晴らしいものを頂いて、私が何を贈れるか。
机に扇子を広げながら考えるひと時もまた幸せな時でした。]
窓もドアも開いてる なんて不思議なの お皿もこんなにたくさん♪
[…まるで舞台女優のごとく、屋敷の数ある部屋のうちのひと部屋で歌いながら踊っていると。]
『シルキー様!お手紙が届きましたよ!』
[階下から声が聞こえてくる。]
いま行く〜!
[…ドタドタ…すってーん!
ローブの裾を踏んで盛大にコケた。が、気にしない。]
おっ、来てる来てる♪
[受け取るや否や、自室へと駆け上がり。
はやる気持ちを抑えながら、封を切る。
受け取った手紙の差出人は、お隣りのお兄様。]
[…どうやら『お手紙届きましたよ』が最強の呪文であることは、こちらも同じようである。]
…えっ…?
[封を切ると、見覚えのある手紙が顔を出し、思わず戸惑いの声が漏れる。
しかし。それはすぐに、銀木犀の香と重くなって返って来た手紙と共に笑顔へと変わる。]
…ホント、不器用なんだから。
[一筆こそなかったが、暖かい手紙。さて、どう返そうか。]
[最初に王都から手紙が届いて一月以上が経過した。
北方に吹く風は冷たく、呼気も白く濁る季節が到来する。
それでも領民が厳冬に鬱屈を覚えず、何処か明るいのは、
オベルジーヌ国内で合併が恙なく進められているお蔭だろう。
民に政の深層までは知れまいが、
眼先に見える領主家同士の結婚を喜ばぬ偏屈もいまい。
庇護の傘が拡がり、幸いは川上から広く流れゆく。
第一領、第二領の成婚を領民が知った折には、
領都のマーケットはちょっとした祭りと化した。
慶事が近隣の領土由来と云うことも在るのだろうが、
此れで残すは北方に一組、南方に一組。
――― 即ち、第四領主の結婚も近いことを意味するが故。]
家の為、土地の為、民の為。
……いやはや。
良き領主として努めてきた心算だが、
一人の女の為の俺と云うのは考えたことが無かった。
[本日も政務机を前に、だらしなく椅子に身を任す。
掌から零れたのは二通の封書。
一通が若き弟分で、――― もう一通は。]
――― 若人に促しておきながら、
俺が示しをつけないてぇのも、無い話だろ。
[込み上げそうになる年甲斐ない羞恥を飲み干し、
気を落ち着かせるように大きく深呼吸。
こんな時ばかり、顔が見えない手紙は良いものだと称賛した。]
[館へ戻れば届いていた手紙。
ぎゅと胸に抱く。
渡してくれた使用人がまだ目の前にいる事を思い出し、慌てて表情を整えた。
先の手紙だ。「どんな表情をされたか〜」と言う一文に、アプサラスからの手紙を読むたびに、自分がどんな顔をしているかを意識するようになった。
笑っていたり、紅くなっていたり、と。
思い出すと照れくさくなる。]
[部屋へ戻り、手紙を開く。
開いた白い便箋から、ひらりと舞い落ちた花びらに気付き、拾い上げる。
時をおいても、いまだ赤い花びら。
そっとそれを机の上に。
手紙を、読み始める。
書き出しから頬を染めて、視線は思わず机の上の花びらに。
楽しげにお喋りするアプサラスの姿が浮かぶような、そんな言葉が連なる手紙。]
……なんと呼んでくれてもいいのにな。
[そう呟いた後、小さな声で、彼女の名を敬称を付けずに呼んでみる。
思ったより照れくさい。
誤魔化すように咳払いして続きを読む。]
[歩き方のコツ。
指先。
剣を扱う時と似ているかもしれない。末端部分まで意識を伸ばす。自分の身体全体を認識する。
他の言葉も合わせて考えた。
約束の話、踊りの話、蝶の話。
アプサラスの声が聞こえるような手紙。
目ではなく、耳と心で楽しむような錯覚さえ覚える。
刺繍の話にはくすりと笑って。
どんな絵なのか気になった。
そして、糸の話。]
…………。
[読み終えた手紙。
結びの言葉に添えられたのと同じ気持ちで、指でつまんだ赤い花びらに、ゆっくり唇を寄せた。
やがて、机上に花びらを置きペンを取った。]
…結婚かぁ…早いものね。
[一月前に勅命を受けるまでは、考えてもいなかった。
戸惑いと、不安と。期待。
いろんなものが渦巻いたこの一月が、あっという間に過ぎて。
いろんな事があったなぁ、と物思いに耽るのは、『領主の顔』ではなく『少女の顔』。
未だ渦巻く期待と不安を抱え、慶事を機に大人への第一歩を踏み出そうとする少女を祝福する領民たちと、それを包み込む荘厳な霊峰、オベルジーヌの碧い空。
それらの空気を感じながら、少女は今、門出の途を歩みはじめる−]
「ベルティルデ様の洋服のサイズが届きました。
婚礼服を調えます。」
[執事にそんなことを言われて、えっと驚く。]
ああいや、そうじゃなくて。
いや、そうでもいいんだけど。
そういう儀式的なのは任せるよ。
じゃなくて、個人的に贈りたいものがあって。
[途中まで怪訝な顔で聞いていた執事だが、最後はにやっとして。
いきなり下着はやめたほうが……なんて言う。]
はあ?! お前らそんなんばっかだなあ、違うよ。
うちの普段着を、一つくらいと思ってな。
あんまり文化は変わらないけど、それでも領内の生地を使ったりしてさ。
[時間作って、声をかけてくれた仕立て屋に注文に行かないと、なんて思うが、はたして成婚までに間に合うのか。]
……あ。
ラートリーさんも、成婚か。
[1,2領の領主家同士の成婚の知らせを聞いて、めでたい、と思うと同時に。
もらった手紙を読み返し、返事はしばらくお預けか、と、机の端に置く。]
やっぱり結婚って、女性にとって一大事だよなあ。
[結婚が決まった男たちもそれなりに照れと恥じらいと喜びがあるが、女たちのほうが恥じらいが強く、憧れを抱いているように見える。
と、ラートリーの手紙を読んで思う。]
[そろそろ手紙が来る頃だろうか、
それとも、まだまだ来ないのだろうか。
返事の内容が例え何であれ、
結局の所、待ち遠しく、そわそわとして落ち着かないのは同じなのだろう。
とにもかくにも、届いた、手紙は、いつもの彼女のようで、
どの様な気持ちで書いたのか
測り知ることは、できなかった、けれど。
読んでいるうちに、涙が、ひとつ、こぼれた。
きっと、そうだ。私は、
話を、聞いてもらった上で――
何事もないかのように、否定してほしかったのだ。
政略結婚は、無駄ではない。
けれどここに書かれている意味はそうではない、はずだ。
結ばれた事に、意義はあるのだと。
…嬉しい。
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