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[遠方の地よりもぞくぞくと届く今回の大合併の情報と慶事と、それに付随する私的な手紙。
目を通して返事を書く腕がむくまぬように、侍女頭が目を光らせている。]
そこまで根を詰めたりはしないわ。
[苦笑しても、母親代わりに長く面倒を見てくれた侍女頭はすぐには頷かない。
このまま婚期を逃して、修道院の世話でもして終生を終えるのか――。
と思われていた身としては、強く抗議も出来ない。
婚約を祝う手紙はいくつもあれど、見知った人からの手紙は殊更に心を動かす。
その中でも一通だけ、別におかれた手紙。
受け取ったのは昨日のことであるのに、なかなか返事が書けないでいた。]
――― ハッ!
[葦毛色の愛馬の腹を蹴り、早駆けから諾足に切り替えさせる。
領都を見下ろす丘上に建つフェルマー邸前では、
馬番と補佐官が主人の帰りを粛々と待っていた。]
どぅどぅ、……出迎えご苦労さん。
やはり、例の場所に橋を架けるなら、
うちの予算だけじゃ賄えなさそうだ。
民には悪いが、定期船の航路を伸ばすってことで手を打つ心算だ。
[鬣を揺らす愛馬に制止を掛けながら、視察状況を口にするも、
頼るのは先日第三領土まで開通させた汽船。
第四領土の造船技術を駆使し、
第三領土の良質な石炭を燃料とする領内貿易の要。]
[荷の正体が判った後、私は髪に干物の匂いが付いていないか
確認をしてもらいました。
森の恵みや焼き畑の炎の残り香、作物、土の香りは
慣れてはいますが、海の香りに馴染むのは簡単には
行かないようです。
部屋に戻ると急いでお返事の為に便箋を広げました。]
仕方がないだろう、
増水で流れちまうような橋を架ける訳にはいかない。
それに測量が終わってからだ、公事ってのは金と時間が掛かる。
[馬を降りてぴしゃりと云いきれば、馬の手綱を引く。
馬小屋へ馬を預けるのは領主の仕事ではないが、
第四領主フェルマー家の家訓50項は、出したらしまう、だ。
恐縮する馬番は新入りなのか、自発的な労働に戸惑いを見せるも、
先代から仕える年老いた補佐官は慣れたもの。
露骨に木製のトレイを掲げて見せて、己の眼を細く眇めさせる。
その上に載っているのは―――、各領主家からの封書。]
………、……。
―――…まぁ、新人なら仕事も覚えねばならんよな。
[咳払いをひとつ挟んでから、手綱と交換に封書を摘み上げる。
手袋越しにも、手紙は寒風に晒され良く乾いていた。]
――――……、……あった。
[送り主の名は努めてさりげなく確認したが、
零れた一言は無意識の範疇に過ぎて飲み込み損ねた。
霊峰を越えし文に、気を揉み続けるなんて、
自身には到底似合わないと知りながらも。]
[最後にお手紙を書いてからの一週間、怒涛のような毎日でした。
と言っても、娘はやっぱり、ぼんやりお手紙を待っているだけ。
焦る両親があれよあれよと手続きを進め、知らぬ間に領土はくっつき、
土地こそ第十領より広かれど、権力の弱いファルネーゼの娘は、
その姓をマクグラスと名乗る事となる。
――― が、それも書類の上でのこと。
婚礼の儀も未だ成されて居ないどころか、
夫となる人物と顔を合わせることさえ、未だ叶っていない]
[一週間ほど前のあの日、私は父に、各領地間の婚姻を聞きました。
それは勿論、ギィさまのことも。
そのお相手はアプサラスさま。仲の良いお友達の一人。
私のことをお日さまのようにあたたかい、なんて言ってくれたけれど、
彼女だって明るくて、歳下なのに気立てが良いのも知っている。
不思議と、その事実に悲しくなったりはせず、
ああ、とあっさり空気のように吹き抜けて行ったのでした。
それから私は、二階の窓の木枠に肘をついて、
空を仰いで溜息を吐くということを、しなくなっていました]
[姓の変わったその日、私の元に届いた郵便は四通。
使用人からそれらを受け取って、まず目に入る白いメッセージカード。
第七領の印が入った赤ワインの瓶を見て、
あちらの次期領主、ディーターさまからと直ぐに察しがついた]
あら、あら。お祝いの…?
ディーターさまは、ベルティルデさまとご成婚なされるのでしょう?
何をお返ししようかしら。
[赤ワインの瓶は、大事に保管するように言いつける。
ベルティルデさまからは、事前にご挨拶を受けていたけれど、
ディーターさまからはこんな素敵な贈り物。
今はまだ、独身者へ郵便を送るのは禁じられている。
領主の父に話を聞けば、一番乗りはどうやら自分たちらしかった。
つまるところ、まだお返しの結婚祝いは送れないけれど、
二人の成婚の報せが届けば、すぐにでも祝いの品を用意しようと]
[二通目、アプサラスさまから。
以前、お花の育て方についてお話したら、
思いがけず喜んで頂けた事を思い出す。
常の暇に任せて庭の花を愛でていたら、
庭師のおじいさまとうっかりすっかり仲良くなって、
いつの間にか、それなりにガーデニングの知識を蓄えていた。
そんなことで喜ばれるのなら、暇にしているのも悪くない、と思えた。
相変わらず、謎の絵が添えられているけれど]
…今度は、なにかしら? 人? なのかしら?
……ボール遊びをしているアプサラスさま?
[辛うじて棒人間に見えたそれが、まさかオクタヴィアとは思うまい。
猫に触りたいのは人の常よね、なんて頷くすれ違いも、また。
彼女が憧れのギィさまと結ばれる、なんてこと、忘れたわけではない。
けれど、ああ、アプサラスさまはやっぱり、可愛らしくて良い娘だわ、
なんて、そんなことばかりが浮かぶのだった]
[祝いの贈り物は山と届くけれど、その実どれほどが本当に心を砕いた贈り物であろうか、と。
ふと手紙を封筒に包みながら考える。
若い女性が好みそうな甘さはない。
そんな色ではあるが、爽やかな風を思わせてくれるオパールグリーンの紙に祝辞の言葉を乗せた。
包む手漉き紙の封筒は無骨な厚さ。
どこか温かみのあるそれが、変に気取ったものを選ぶよりも手紙を宛てた人には相応しい気がした。]
[三通目は、他の手紙よりも少し分厚い。
便箋を開いてすぐ、違和感に首を傾げた]
…あら? ウェルシュさま宛だわ。
アデルさま、お間違えになっているのかしら。
[確かにここに届くようになっているから、間違えたのは送り主だろう。
今はもう夫とはいえ、他のひとに宛てた手紙を読むなんてはしたない。
――そう思いはしても、思わず読み進めてしまったのは、
単純な好奇心。知りたいという欲求。
アデルさまは見た目こそ可愛らしいけれど、
歳下なのにしっかりしている印象だったけれど。
手紙の文面は人柄そのままのようで居て、
けれど宛先間違いを起こす可愛らしさに、思わず頬が緩んだ]
[内容は、既知の婚姻のこと。それから、政略結婚への想い。
やっぱり、たくさん考えていらっしゃる、なんて関心してしまうけれど、
徐々に、勝手に読んでしまっていることへの罪悪感が湧き上がる。
もう閉じてしまおう、そう思ったけれど、続く文面に目が止まる]
…贈り物? 私に?
[文面からするに、ウェルシュさまが相談なさっていたのかしら。
それから、おほしさまの貝殻がふたつ。
これはもう、絶対に読んじゃいけないんだって思っても、
思わず頬が緩んでしまう。うれしい、胸がじわりと熱くなる。
ウェルシュさまが、私のことを考えてくれているようで嬉しくて。
けれど、このお手紙を、私はどうしたら良いのだろうと首をひねる。
まるっと転送してしまうのが正しいのか、
それともアデルさまへお返しするのが正しいのか――
一先ず、置いておいて。
また、ウェルシュさまにお手紙を送るときに書き添えようと決めた]
[拡げた最初の封書は気持ちの良い青年から。
踊るような文字列は北方とは異なる潮香が立つよう。
羽ペンをインクに浸しながら読み進めれば、思わず破顔一笑。
己と然程、年も変わらないのに、屈託のない伸びやかさが伺える。
これが南方領の気風と云う奴だろうか。
個人的な見解だが、北方は厳格で、南方は明るく、
西方は穏やかで、東方は華やかな気風があるように思う。
この区分で行くと、第三領と第四領は気風が逆転しているが、
そこは、領主の年齢差故かもしれない。]
[外套の上からひざ掛けをまとい、はあ、と手に息を吹きかけて溜めていた返事を書き綴る。]
……ふう。
随分お待たせして、嫌われていないだろうか。
[それから、今だけは特別と温かいミルクにブランデーをひと滴垂らして。脳裏に躍る文字を手繰り抱きしめるように、婚約者からの手紙をもう一度読み返す。胃だけでなく、胸の真ん中をほこほことさせて取り出すのは、とっておきの便箋。
弱音とは裏腹、口許には笑みが浮かんでいる。
ついでに鼻下に白ひげを蓄え、丁寧に硝子筆を躍らせた。]
[最後の四通目は、]
……ギィさまからだわ!
[横になって手紙を読んでいたのを、思わず起き上がってしまった。
私、何を書いたっけ。何せ二週間も前のこと。
感情に任せて書いてしまったことは覚えていて、
失礼なことなんて書いてしまっていたらどうしよう、なんて
今更後悔したって仕方のないことを思う。
緊張した面持ちで便箋を開き、一文字ずつゆっくりと目を通す。
けれど、その内容は領主補佐から領主の娘へと送られる、
至って平静に、私たちの婚姻を祝うもの。
当たり前だ。何を期待していたのかと言われれば、
…分からない。どんな返事が欲しかったのだろう。
お返事を頂けたことは、飛び上がるくらい嬉しかった。
けれど、明るく、社交的だと褒められていても、
胸が熱くなるような気持ちは生まれなかった]
[ギィさまは憧れだと、私は告げた。
憧れって、きっと、遠いって意味なのだと、私は急に理解をした。
だって、私がいま、考えていることときたら、]
…ウェルシュさまのお手紙、まだかしら。
[なんてこと。
暇な娘と違って、あちらは領主の身。忙しいのも当たり前で、
その上あんなに返事のしにくい手紙を書いたのだから。
けれど、手紙を待つ間も、ちっともいやじゃなくって、
待つ時間さえ楽しい気がした。
お返事を送れない今、私は夫からの手紙を待ち侘びて、
頂いた手紙を大事に仕舞った後、落ち着かずに外へと飛び出した]
[返事を送ろうとした一人は、既に成婚のために手紙も届けられない、と聞かされた。
残念ではあるものの、また会う機会もあろうと、贈り物を考える。
珍しい絹織物、上質な香油、あるいは職人手製の装飾品。
手土産には当然の品ではあるが、結婚後の贈り物となれば、伴侶の好みも反映されようか。
楽しい悩みが増えたことに、小さく笑む。
同じく慶事を告げる友からの返事に
――すれ違った手紙との区別のためか律儀に書かれた日付の几帳面さも彼女らしく――
不安だったものへ、背を押してもらったような気がした。
ほう、と零したのはため息ではなく、安堵の吐息。]
まぁ。ギレーヌ様から!
[湯浴みの後に刺繍を再開しようと部屋に戻ると
待ち望んだお手紙が届いておりました。
私は髪を整えるのも後回し。
急いで、それでも封を傷付けず丁寧に開けようとして
手が震えている事に気付いて笑いそうになりました。]
どうしましょう。ドキドキするわ。
[胸に手を当てて、どのお返事が来たのか判らないから
逸る鼓動を抑えながら手紙を開きました。
最初の手紙とは違う少し乱れた文字と文章。
それが猶更あの方のお気持ちを表しているようで
私はそっと胸に手紙を押し当ててあの方を感じようとしたのでした。]
[相変わらず入違っている内容に、
それでも笑ってしまうのは私が我儘を通してしまったから。
どんなお返事が追いかけて来るのか怖いけれど、
どんなお返事でも私には大切になるでしょう。
刺繍を放り投げて早速机に向かった私は
一番のお気に入りの便箋を探してお返事を書きました。]
[渉外担当の者に、ベルティルデの体型がわかるような資料をお願いして(一瞬にやにやされたがそうじゃないと一蹴したりなんてこともあったり)、部屋に戻ると、机の上にまた、個人的な手紙が届けられていた。]
……懐かしいな、あいつ。
[一人は釣り勝負をして自分がうっかり圧勝してしまった相手。
まだ未婚の女性だというのに、つい「あいつ」なんて同性の友人を呼ぶように言ってしまう。
楽しい気持ちで返信をしたためる。]
……ふふ、ふふ、ふふふ。
[最後の一文を眺め、思わず不審な笑みがこぼれる。
慣れぬアルコールにふわふわとした心地でも、今度はしっかりと宛先を確認して、再びベッドに沈む。
今度は夢も見ないほどぐっすりと眠った。
――そして、翌朝。
霊峰の一部は既に雪化粧を施されて、厳しくそして美しい自然と、その先に住まう者のことを想いながら。
郵便屋の方が確かだが、ここはあえて"友"に託そうと、手紙や包みを鳩の足に括りつけ、空に放つ。]
[次の一通は、読んでいる途中、少し眉が寄ってしまった。]
理想の、夫婦……?
[婚約者からの手紙を取り出して読み返す。
公的文書のような簡素かつ簡潔な文。
いや一点、彼女の思いが書いてある。「誠実」と。]
ううーん、夫婦で誠実、ねえ。
そりゃあ大事だろうけど。
[もっとこう、互いを思いやるとか支え合うとかじゃないんだなあと改めて、宙を見ながら考える。
自分はこの婚約に多少なりとも浮かれていたが、相手はそうじゃないのかもしれない。
温度差は、埋めておきたいな、なんて思いながらも、多少の嫉妬心も交えて返事をつづった。
明日は朝から遠方に視察に行くから、手紙は家の者に託さなきゃな、なんて思いながら封を閉じる。]
[一度羽ペンを擱くと、次の封書を開く。
些か手が震えるのは致し方ない。
しかし、そんな忸怩を、手紙は一行目から粉々に砕き、
男が自然と噴き出してしまうのも道理であった。]
――― は、はっはっ。
第三領とは言語が違うってのか、お転婆め。
[笑気で構えていた心を軽くしたが、
同時に胸に流れ込んできたのは安堵の色。
彼女が婚約を定められてから、
何を想い、如何過ごしてきたのかは分からない。
だが、仮に空元気だとしても、筆を執れるようにはなったのだ。
それが何故か、とても清々しく思えて気が晴れた。]
……分かっているよ、嬢ちゃん。
お前さんだって多感な年頃だ、
悩むこともあろうし、呑み切れないものだってあるだろう。
[身体を弛緩させて椅子に身を任せると、
だらしない姿勢でペンを握り直す。
何を書くべきか、何を書かざるべきか。
恋文すらも書いたことのない朴念仁は、
未来の妻へ宛てた手紙すら、たっぷりと時間を掛けた。]
[最後に紛れていた封書には、送り主に似合わぬ乱れた文字列。
光に透かして見ても、裏は見えてこない。]
―――…運命、か。
俺は生まれながらに領主たらんと育てられたが、
別に山脈を越えて、国どころか世界を見に行っても良かった。
だが、結局腰を落ち着けたのはこの河川領だ。
命を運ぶ道くらい、自分で選びたいものだよな。
[ふ、と淡く笑う吐息を吐いて、レターボックスに紙切れを仕舞う。
貞淑を善とするオベルジーヌでは、成婚後しばらくは、
独身者と信書を送り合ってはならないとされている。
見解は、そう、例えば祝いの席で聞けば良いのだ。]
[この日受け取った手紙は三通。
そのうち一通の差出人は弟の親友だが、
先日と違うのは、ラートリー宛のものだということだ。]
これは――私も失礼なことを、言ってしまったな。
悪い人物ではない。むしろユーモアのある人物か。
そも、うちの愚弟かて、悪い付き合いをしているわけがないな。
[手紙に綴られた必死の弁明の文字から、
差出人がどんな顔をしているか想像がつくようで、
くすりと笑みを浮かべる。
―――が、次の瞬間、はっとしたように
先週出した手紙を思い出した。
それは、この弟の親友の、婚約者に宛てたもので。]
ああぁ……老婆心が過ぎてしまった……
[先週出したのは年若いシルキーを心配しての手紙。だが、今受け取った真摯な手紙――そして手紙の問いかけを読めば、シルキーの婚約者の懐の深さが、見えて来るではないか。]
[手紙を出して再び屋敷へと戻ると、玄関先になにやらシベリアオオヤマネコのような、愛らしい動物が3(6x1)匹。
これも立派な『郵便局員』で、配達に来ていたのである。
少女が手紙を受け取ると、彼らは『職場』へと戻って行った。
もっとも、その中にあった金鳳花の封書の送り主には成婚の後で返すことができないらしいので、贈り物をすることにした。]
…国語、教えてくれる?
『初めからサボらなければいいのですよ…』
言っとくけど、遊びたくてサボってるわけじゃないんだからね!
[とかなんとか。教わりながら書くことにした。そのため、書き直された文字もある。]
[さっそく開けると、笑顔がかわいいスノーマンの絵がお目見え。]
シーツを蹴飛ばしてって…さては体験談だな?
[などと言いながらお返事をしたためるその相手は、婚礼を伝えられた公女様。]
[書斎で手紙を書き終え、くぅっと伸びをする。
こちらの地方は朝から小雨がぱらついていた。]
……静かだな
[暖炉の薪がはぜる音以外は、しんとした空間。
ふと窓の外に目をやれば、眩い白がはらはらと舞い降りている。]
―――雪か!
道理で寒いわけだ。
[北の領地に、冬の訪れ。]
……。
……。
こう、夫婦というのは、
寒い日には寄り添うて、
体温を分かち合うのだろうか。
……いや、ええと
…………私は何を言っているんだ。
[ふるふると首を横に振り、
火照る頬に両手を添え、ぺちぺちと冷えた指先で熱を散らした。]
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