[足が地を蹴る。戦鎚を手離した両手が地に着いた。瞬間、間合いが一瞬で縮まる。四足の獣じみた疾走は、先ほどまでとは段違いに疾い。]
愉しいなァ、愉しイ、!
[歪んだ声で緋色の獣は哭いた。
ガチン、とナネッテの喉笛の位置で牙が鳴る。彼女は咄嗟に身を退いただろう、至近距離で細い瞳孔と紺青の瞳が睨み合う。
左手を鉤爪のように曲げて横に薙ぐ。
肩の罅は手の甲まで広がっていた。パキン。音が鳴るたび、剥がれ落ちた皮膚が地に落ち、赤い花が咲く。
無造作な一撃は玲桜の燭に届いたか。
だとすれば、服はおろか皮膚を、もしかしたら肉をも裂くそれは、まるきり獣の爪のごときものだった。*]