[雷獣の牙が届く直前、競り合いから力を抜き、僅かに首を巡らせた。
それにより、喉笛裂かれる事こそなかったものの。
牙は右の肩へと喰らいつき、桜の香を持つ紅を滲ませる]
……は……はは。
っははは……。
[紅を滴らせつつ、魔が浮かべるのは、笑み。
笑う声は、無邪気ささえ感じさせる表情には似合わぬ艶と狂気を帯びているけれど]
ああ……久しいな、この感触も。
喰らい喰らわれ、己が存在を賭けて征く。
ただひたすらに高見目指し、狂い咲きし頃以来だ。
[遠い過去を懐かしむように呟いた後。
魔は問答無用、とばかりに喰らいついた雷獣を打ち払い、刃を引いて後ろへと飛びずさる。
蒼の花弁が、慕うようにその周囲を舞った]