― 手の届かないもの ―
[あの家は、全てがそろっていた。
嘗て自分が持っていた全て。
学者のかわりものの父、理解のある母、ぶっきらぼうだが優しい兄に、護られていることすらも意識しないように護られている妹。
親愛に付き合いはすれども、どこかで距離を取った。
世界の真相を知るために、差し出したのは全て。
だから この契約に そむいてはならない。
ここにいれば―― 真理よりも、そんなものよりも
ほしいものは、大好きな、大好きな家族だったと
卑しくも生き残る為に掲げた大義名分が欺瞞だと
……突きつけられるような気がして。]