[ 男が黒虎の姿を見せるのは、そう珍しい事ではない。街に入る時以外は、殆ど虎の姿で暮らしているから、むしろ、こちらしか知らない、という、アイリのような人間の方が多いかもしれなかった。
だが、逆に、普段獣形であるからこそ、戦いの最中にその姿に「戻る」というのは、男がそれを本気の戦いと位置づけた証拠でもあった ]
グルゥウッ!
[ とはいえ、それを、今、男自身も意識はしていない。手負いの身で獣化した瞬間から、思考よりも本能が勝ち、ただ目の前の獲物を狩ることしか考えてはいなかった。
眉間に打ち下ろされた打撃は、避け切れなかったが、衝撃に怯むどころか、怒りの唸りをあげて、その腕に喰らいつこうと牙を剥く ]
ガアッ!!
[ その牙を躱して、黒虎の身体の下に敢えて潜り込んだ男の拳が、腹を突上げ、傷ついた脇腹を更に痛めつける。一際大きく咆哮をあげ、のたうつように身を震わせた黒虎は、己の身体の下に在る敵手を押し潰さんと、全身の体重をかけ、その両肩を前肢で押さえつけながらのしかかった** ]