― 失くしたもの ―[物心がついたときから、科学《それ》は身近にあった。 それについて知れば、知らない、がふえてゆく。 父も、兄も、惜しみなく、知っていること、知らないことを教えてくれた。 母も、何もダメだ、とはいわなかった。 失敗したな、って落ち込んだ日は、大好きなシチューが出てきた。 何もかもを考えろと突き放され、そして見守られた。 この家が、非常に開明的であったことを知るのは、失くしてからになる]