悪い、とは言わんが...
[ 大事なものが、という話は、先刻道を別れた娘も口にしていたな、と、ちらりと思い出して、僅かに苦笑する。だが、それもほんの刹那のこと ]
とりあえず、お前は、ソレに動揺し過ぎだ。犬ころ。
[ 刀に絡みついた糸から、ふいに強い気配が薄れ、刃がその一部を断ち切る感触が手元に伝わる ]
俺を本気で殴ろうと言うなら、もう少し頭を冷やすんだな。
[ 間合いの短くなった糸を手に、ディークが地を蹴るのを、迎え撃とうと、斜め下に刀の刃を流して構える、飛びかかってきたなら、そのまま斬り上げ、先に糸を放つなら、逆に搔い潜って飛び込んでやろうとの目論見だったが ]
何...!?
[ 今にも、こちらへ届くかと思った一瞬に、目前から青年の姿が掻き消え、直後、背後に、唐突に湧く気配 ]