[そんな折、呆れてか見かねてかは分からないが、部屋の反対側から投げかけられた言葉があった。会話の中で流れてしまうような何気ないもので、恐らくは本人だって覚えてはいないだろう。それでも。なぜかは今でも分からないが、その時だけはそれがやけに響いて。] ………[枕で深く隠したままの表情が、歪んだ。うつ伏せたままの背が震えても、鼻を啜る音が気まずくても、意地でも顔を上げなかった。遅い雪解けのように頑なな心がゆっくりと融け始めたのは、おそらく、その時からなのだろう。]