叔父は、女を毒殺などしない、と、言った。あれが本当なら、おそらく母は自分で命を絶ったんだ。
[ そしてその瞬間、親族全てが叔父の側に付き、英雄の子は、孤立無援の孤児になった。 ]
母が、生きてくれていたら、とは、思わない。だけど...
[ 遺言ひとつ、形見のひとつも、母は残して逝かなかった。まるで、我が子の存在を丸ごと忘れてしまったように。 ]
散々苦労してきたお前には、おかしな話に聞こえるだろうが、俺はお前が羨ましいよ、カナン。
[ 父からの愛情を確かに残された、それが羨ましい、と。そんな心情を吐き出したのは、父母が亡くなって一ヶ月も過ぎた頃。
叔父から身を守るため、毒に体を慣らそうと思い立って、少量の毒草をわざと口にし、手足の痺れと悪寒で昏倒したところをカナンに見つかった時の事だった。
今思えば毒のせいで随分気が弱っていたのだろう。 ]
[ その日から、カナンが叔父に対して、蛇蝎に対するごとき嫌悪をあからさまに向け始めたのには、少し驚き、驚きながらも、喜びを感じずにはいられなかった。 ]