>>-1184>>-1185
[船旅が終わる————そうだ。気付かなかった。むしろ、なぜ考えなかったのだろう?
この船を降りれば、またそれぞれ『他人』であった生活に戻るなどと]
この船を降りても——
[ただ繰りかえした言葉の間に、引かれる感覚。
彼女の細い指が裾を握り……それは微かに、震えているようにさえ思えた]
あ……
[ああ、怖いのは己か。
明るい陽射しの春が、また雲に隠れ、時を戻され、雪の中に降りこめられる冬に逆戻りするのを——恐れているのは自分か。
そう思えば、居てもいられず。ただ何も考えず。そばの手をぎゅっと握り締めた]