(さらに続き)
最初、まだ自分が眠っていて夢を見ているのかと思った…であるが、どうやら目の前にいるウサギが現実の存在だと認識したのは、そのウサギが空腹を訴え出したからである。急いで台所に向かい、目についたニンジンの葉を差し出すと、そのウサギが後ろ足で立ち上がり、両手で葉をつかんでもきゅもきゅと頬張り始めた。
「空腹という生理的欲求を主張するとは、夢にしては随分と現実的ですね」
…はお代わりをせがまれ、畑に出て一言つぶやいた。そして小さく首を横に振り、目についた大根の葉を数枚手にして部屋に戻る。
「名前は、なんていうんですか?」
大根の葉がすべてウサギの腹に収まったのち、…が発した問いかけに、ウサギはこてっと首を横にかしげる。
「そうですね、それでは私は今日から貴方を『ラヴィ』と呼ぶことにしましょう」
意味を問われて…は、ウサギの洋名である「rabbit」から取ったと告げた。「Lovable family(愛すべき家族)」を短縮して「Loviely」と綴ることは、誰かに伝えるにはあまりに照れくさく、また口にしようとした瞬間に家族とは呼べない人間たちの姿が頭をよぎるため、…の心の内のみに留められた。