【過去の記憶と記録 その11】
村に赴任して…が最初にしたことは、教会への寄進という名の税金の額を、自分が書かされた額>>2:-135と同額にすることであった。前任者の帳簿を確認するに、それまで村人たちから徴収された金額と書類上の金額の差額分は、半分は前任者の懐に、残りの半分は主席枢機卿への個人的な献金として扱われていた。これ以上、主席枢機卿に睨まれたところで飛ばされる先もない、…は書類上の寄進額を淡々と教皇府に献金し、雀の涙ほどの給金を受け取るだけであった。
給金だけでは日用の糧にも事欠く懐事情であったが、神学校に押し込まれるまでは他の村人と似たり寄ったりの生活水準、神学校や教皇府では質素倹約の精神を叩きこまれていた…にとっては別段苦しいものではなかった。たまに村人たちから寄せられる卵やミルク、パンといった厚意や、慣れぬ鍬を握って教会の裏の空き地に作った畑で育てる野菜で糊口をしのぎ、日々のミサや村の慶弔時の儀式といった、司祭としての執務を淡々と行う日々。村で過ごした幼少期よりも平穏な日々を過ごしていた。