[カシムはテオドールの顔を男の指の間から確認すると、一気にその顔を恐怖で埋める。ガチ、と彼の手に持った銃口が此方を向いた。テオドールの眉が片方吊り上がる―口元はおかしそうに笑っていたが―。]
なんで逃げるのさ。
逃げなくたっていいだろ?なあ…カシム。ええ?
そんなに怯えなくたっていいだろ?
一体、何がそんなに恐ろしいんだ?
[開いた左手の指先でカシムの名札を持ち上げて、名前を見ながら言う。
ああ、おかしい。口角が自然と吊り上がる。銃口が此方に向いたままだが、ガタガタと震える指先は引き金を捉えられていない。]