少なくとも前の別荘よりは快適かと。
―それに、俺にはもう此処以外に居場所はないのですよ?
住まう場所に慣れる事に何の不都合がありましょう。
[男はゆるりと首を傾げて見せ、王子は笑った。
「慣れる」事は、これまでに父母を失い、家を失い、そして帰る家も失った男にとって生きる為の処世術だった。]
『ここが最後の場所だとよいな。』
はい、元よりそのつもりです。
貴方の為にこの身をお使い下さい。
[それ以降、時折王子に私的に呼び出されるようになった。
その際に彼から研究の話などや王子の宿願について語られる事もあっただろうか。
国外の遠征にも命じられれば欠かさず参加し、つき従う姿はまるで従者の如く。
新たな仲間が入隊し、或いは失い。
王子の思いついた無理な実験を強いられても、男はそれらに淡々と順応していった。*]