―回想:医務室―
[何とか重傷患者を治療しきれただろうか。
奥から顔を出すと今日はもう休んでくれ、と衛生兵に言われ言葉に甘えることにした。
患者の容体が変わったときはすぐに呼ぶように、と伝え、奥の方に戻る。
そのままベッドへ行くのかと思いきや、男は椅子に座り、ため息を吐きながら天井を仰ぐ。]
……今日救えなかったは13(50x1)人ですか……。
[救えなかった命たち。
今日だけでこんなに失った。それでもまだ少ない方で。
天井を眺めていた男は、そのままの体勢で机の引き出しを開き、一冊の黒い本を取り出した。
表紙に何も書かれていない、真っ黒な本。
開くと中には今までに救えなかった者たちの個人のデータが記載されていた。
しばらく黙ったまま書いていたが、やがてまだ白紙のページにぽつり、ぽつりとシミができる。
救いたくても救えなかった。
他に理由があるのかもしれないが、自分の力不足だと思えてしまって。]