――キッチン―――
[使い終えた器材の洗浄を終えて一心地。
ティーコジーを外し取り出したポットを軽く揺らしてから、鮮やかな琥珀色をカップへと注ぐ。
琥珀色の滴が静かに波紋を広げ、ふわりと広がる優しい香りに自然唇が笑みを描いた。
お砂糖代わりにジャムを足して、独りきりのティータイム。
オーブンの硝子窓から零れる暖色の明かりをぼんやりと眺めた]
……なんで私、パンばかり焼いて居たのかしら?
[素朴な疑問をぽつり、零したところで拾う相手は誰も居ない。
別段答えを求めぬ独り言は、オーブンの微かな稼働音が支配する静寂の中に溶けて、消えて行った。
夜明頃にはきっと、香ばしい薫りが辺りに広がるだろう。
オーブンの中には焼き上がりまでじっと耐える、まだ真白い肌のまぁるい生地が並んでその時を待っている――]