[じっと目の前の相手を見つめたまま、身体だけは意識に反して警戒を解かない。それはまさに獣の本能そのもので。
──大丈夫。
何度となく自身に言い聞かせてきた言葉。瞳の奥がじわりと揺れる。シャク、という音と共に、彼の足が一歩出される。イヤイヤをするように首を横に振りながら一歩足を引く。真新しい白にその痕跡が残ってゆく。
──約束。
そんなものは放って逃げて欲しい。
今すぐここから助け出して欲しい。
その血と肉を喰らいたい。
相反する感情と獣の本能が交差する。]
逃げ……て……
[絞り出した声とは裏腹に、その牙と爪は目の前の相手に確実に標準を合わせていた。]